第三節:占領典憲の無效性

占領典憲の一體性

以上のやうな前提から、占領典範と占領憲法(以下「占領典憲」といふ。)の無效性について述べることになるが、これらは、いづれも共通して、合法性かつ正統性を缺くものであり、しかも、妥當性も實效性も滿たさないものであるから、典憲としては無效であるといふことである。

占領典憲は、それぞれ異なる法形式であるが、帝國憲法と明治典範といふ、いはば二つの憲法を占領統治下において、暴力で破壞した殘骸であり、「暴力の切れ端」といふことで共通してゐる。

それゆゑ、占領典憲の無效性については、その法形式の相違から、占領典範と占領憲法のそれぞれ固有の無效理由があるものの、共通した無效理由があることを認識する必要がある。

占領典憲共通の無效理由の分類

その共通した無效理由としては、多岐、多樣であり、その詳細を順次説明する前に、これらの無效理由の性質を整理分類して示すとすると、以下の五つの類型になる。

それは、

1 占領典憲は、最高規範、根本規範である規範國體を否定するものであるから無效であること(國體論)。
2 占領典憲の有效性の根據とされる主權論自體に矛盾があり、主權論を以て占領典憲の有效性を導くことはできないこと(主權論)。
3 占領典憲は、法としての成立要件(合法性、正統性)を缺くものであるから無效(不成立)であること(成立要件論)。
4 占領典憲は、法としての效力要件(妥當性、實效性)を有しないものであるから無效であること(效力要件論)。
5 占領典憲が有效であるとするいづれの見解にも矛盾があり、これらの論理を以て占領典憲の有效性を導くことはできないこと(有效論批判)。

の五つである。

これらを論理學的に分類すると、1の國體論、3の成立要件論、4の效力要件論は演繹法を用ゐたものであり、2の主權論、5の有效論批判については、背理法及び歸納法によるものである。

このうち、1の國體論と2の主權論については、第一章でその主要な點を述べた。ただし、主權の概念は多義的であり、前に述べたとほり、ここでいふ「主權」とは、國民主權といふ用法のやうに、國家最高の意志又は政治形態を最終的に決定しうる權力の意味(國内的意味の主權)であり、國際社會において國家が對外的に獨立してゐることを意味する最高獨立性のこと(國際的意味の主權)ではないことは勿論のことである。

また、3の成立要件論については、主に合法性の要素に關して、占領典憲の成立における「手續」と「内容」に瑕疵があつたことを述べ、4の效力要件論については、主に實效性の要素に關して、占領典憲には適用面に瑕疵があつたことを述べる。妥當性については、ほぼ、合法性について述べたことと共通したものである。そして、5の有效論批判においては、主に、成立要件の要素である正統性、效力要件の要素である妥當性がそれぞれ欠缺してゐたことについて述べることになる。

しかし、これらは、複合的で重畳的なものであり、要件論の各要素毎にそれぞれを分離獨立させた分析的手法で論述できない性質のものであることから、事項毎に羅列的に述べることになる。

具體的に云ふと、占領典範固有の無效理由は、次節の「占領典範の無效性」で述べる「無效理由その一」から「無效理由その七」の七つの理由であり、また、占領憲法固有の無效理由については、第五節の「占領憲法の無效性」で述べる「無效理由その十二」と「無效理由その十三」の二つであり、それ以外の無效理由は、すべて占領典憲に共通した無效理由である。

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