- 【資料番號 一】天津神の御神敕(修理固成)古事記上卷
- 【資料番號 二】天照大神の三大御神敕
- 【資料番號 三】神武天皇の御詔敕(八紘爲宇)
- 【資料番號 四】憲法十七條(日本書紀卷第廿二)
- 【資料番號 五】推古天皇の御詔敕(日本書紀卷第廿二)
- 【資料番號 六】船中八策(舟中八策)
- 【資料番號 七】五箇條ノ御誓文
- 【資料番號 八】神器及ヒ皇靈遷座ノ詔
- 【資料番號 九】勤儉ノ敕語
- 【資料番號 十】陸海軍軍人に賜はりたる敕諭(軍人敕諭)明治十五年一月四日
- 【資料番號 十一】皇室典範(明治典範)
- 【資料番號 十二】大日本帝國憲法(帝國憲法)
- 【資料番號 十三】教育ニ關スル敕語(教育敕語)
- 【資料番號 十四】義勇兵ヲ停メ給フ敕諭
- 【資料番號 十五】戊申詔書
- 【資料番號 十六】施療濟生ノ敕語
- 【資料番號 十七】青少年學徒ニ下シ賜ハリタル敕語
- 【資料番號 十八】英米共同宣言(大西洋憲章)
- 【資料番號 十九】英米兩國ニ對スル宣戰詔書
- 【資料番號 二十】大東亞共同宣言
- 【資料番號 二十一】クリミヤ會議の議事に關する議定書中の日本國に關する協定(ヤルタ密約)
- 【資料番號 二十二】國際連合憲章
- 【資料番號 二十三】ポツダム宣言(附録 カイロ宣言)
- 【資料番號 二十四】大東亞戰爭終結ノ詔書
- 【資料番號 二十五】降伏文書
- 【資料番號 二十六】一般命令第一號(陸、海軍)
- 【資料番號 二十七】日本教育制度ニ對スル管理政策
- 【資料番號 二十八】教育及ビ教育關係官ノ調査、除外、認可ニ關スル件
- 【資料番號 二十九】國家神道、神社神道ニ對スル政府ノ保證、支援、保全、監督竝ニ弘布ノ廢止ニ關スル件
- 【資料番號 三十】修身、日本歴史及ビ地理停止ニ關スル件
- 【資料番號 三十一】日本國憲法草案(GHQ草案、マッカーサー草案)
- 【資料番號 三十二】日本國憲法(占領憲法)
- 【資料番號 三十三】皇室典範(占領典範)
- 【資料番號 三十四】教育敕語等排除に關する決議
- 【資料番號 三十五】教育敕語等の失效確認に關する決議
- 【資料番號 三十六】日本國との平和條約(サンフランシスコ講和條約、桑港條約)
- 【資料番號 三十七】日本國とアメリカ合衆國との間の安全保障條約(舊安保條約)昭和二十年條約第六號
- 【資料番號 三十八】日本國と中華民國との平和條約(日華平和條約)昭和二十七年條約第十號
- 【資料番號 三十九】日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との共同宣言(日ソ共同宣言)昭和三十一年條約第二十號
- 【資料番號 四十】日本國とアメリカ合衆國との間の相互協力及び安全保障條約(新安保條約)昭和三十五年條約第六號
- 【資料番號 四十一】日本國と大韓民國との間の基本關係に關する條約(日韓基本條約)昭和四十年條約第二十五號
- 【資料番號 四十二】「大日本帝國憲法復原決議」
- 【資料番號 四十三】條約法に關するウィーン條約(條約法條約)
【資料番號 一】天津神の御神敕(修理固成)古事記上卷
於是天神諸命以、詔伊邪那岐命、伊邪那美命、二柱神、修理固成是多陀用弊流之國、賜天沼矛而、言依賜也。故、二柱神立天浮橋而、指下其沼矛以畫者、鹽許々袁々呂々邇畫鳴而、引上時、自其矛末垂落鹽之累積、成嶋。是淤能碁呂嶋。
(ここにあまつかみもろもろのみこともちて、いざなぎのみこと、いざなみのみこと、ふたはしらのかみに、「このただよへるくにををさめつくりかためなせ」とのりて、あめのぬぼこをたまひて、ことよさしたまひき。かれ、ふたはしらのかみ、あめのうきはしにたたして、そのぬぼこをさしおろしてかきたまへば、しほこをろこをろにかきなしてひきあげたまふとき、そのほこのさきよりしただりおつるしほ、かさなりつもりてしまとなりき。これおのごろじまなり。)
【資料番號 二】天照大神の三大御神敕
1 天壤無窮の御神敕
因敕皇孫曰、葦原千五百秋之瑞穗國、是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫、就而治焉。行矣。寶祚之隆、當與天壤無窮者矣。(日本書紀卷第二神代下第九段一書第一)
(よりて、すめみまににみことのりしてのたまはく、「あしはらのちいほあきのみづほのくには、これ、わがうみのこのきみたるべきくになり。いましすめみま、いでましてしらせ。さまくませ。あまのひつぎのさかえまさむこと、まさにあまつちときはまりなけむ。」とのたまふ。)
2 寶鏡奉齋の御神敕
① 是時、天照大神、手持寶鏡、授天忍穗耳尊、而祝之曰、吾兒視此寶鏡、當猶視吾。可與同床共殿、以爲齋鏡。(日本書紀卷第二神代下第九段一書第二)
(このときに、あまてらすおほみかみ、てにたからのかがみをもちたまひて、あめのおしほみみのみことにさづけて、ほきてのたまはく、「わがこ、このたからのかがみをみまさむこと、まさにわをみるがごとくすべし。ともにゆかをおなじくしおほとのをひとつにして、いはひのかがみとすべし」とのたまふ。)
② 詔者、此之鏡者、專爲我御魂而、如拜吾前、伊都岐奉。次思金神者、取持前事爲政。(古事記上卷)
(みことのりたまひしく、「これのかがみは、もはらわがみたまとして、わがまへをいつくがごといつきまつれ。つぎにおもひかねのかみは、まえのことをとりみもちて、まつりごとせよ」とのりたまひき。)
3 齋庭稻穗の御神敕
又敕曰、以吾高天原所御齋庭之穗、亦當御於吾兒。(日本書紀卷第二神代下第九段一書第二)
(またみことのりしてのたまはく、「わがたかまのはらにきこしめすゆにはのいなのほをもちて、またわがみこにまかせまつるべし」とのたまふ。)
【資料番號 三】神武天皇の御詔敕(八紘爲宇)
日本書紀卷第三神武天皇即位前己未年三月
上則答乾靈授國之德、下則弘皇孫養正之心。然後、兼六合以開都、掩八紘而爲宇、不亦可乎。
(かみはあまつかみのくにをさづけたまひしみうつくしびにこたへ、しもはすめみまのただしきみちをやしなひたまひしみこころをひろめむ。しかうしてのちに、くにのうちをかねてみやこをひらき、あめのしたをおほひていへにせむこと、またよからずや。)
【資料番號 四】憲法十七條(日本書紀卷第廿二)
推古天皇十二年四月(皇紀一千二百六十四年)
夏四月の丙寅の朔戊辰に、皇太子、親ら肇めて憲法十七條作りたまふ。一つに曰はく、和なるを以て貴しとし、忤ふること無きを宗とせよ。人皆黨有り。亦達る者少し。是を以て、或いは君父に順はず。乍隣里に違ふ。然れども、上和ぎ下睦びて、事を論ふに諧ふときは、事理自づからに通ふ。何事か成らざらむ。二に曰はく、篤く三寶を敬へ。三寶とは佛・法・僧なり。則ち四生の終歸、萬の國の極宗なり。何の世、何の人か、是の法を貴びずあらむ。人、尤惡しきもの鮮し。能く教ふるをもて從ふ。其れ三寶に歸りまつらずは、何を以てか枉れるを直さむ。三に曰はく、詔を承りては必ず謹め。君をば天とす。臣をば地とす。天は覆ひ地は載す。四時順ひ行ひて、萬氣通ふこと得。地、天を覆はむとするときは、壞るることを致さむ。是を以て、君言たまふことをば臣承る。上行ふときは下靡く。故、詔を承りては必ず愼め。謹まずは自づからに敗れなむ。四に曰はく、群卿百寮、禮を以て本とせよ。其れ民を治むるが本、要ず禮に在り。上禮なきときは、下齋らず。下禮なきときは、必ず罪有り。是を以て、群臣禮有るときは、位の次亂れず。百姓禮有るときは、國家自づからに治る。五に曰はく、餮を絶ち欲することを棄てて、明に訴訟を辨めよ。其れ百姓の訟、一日の千事あり。一日すらも尚爾るを、況や歳を累ねてをや。頃訟を治むる者、利を得て常とし、賄を見ては獻すを聽く。便ち財有るものが訟は、石をもて水に投ぐるが如し。乏しき者の訴は、水をもて石に投ぐるに似たり。是を以て貧しき民は、所由を知らず。臣の道亦焉に闕けぬ。六に曰はく、惡を懲し善れを勸むるは、古の良き典なり。是を以て人の善を匿すこと无く、惡を見ては必ず匡せ。其れ諂い詐く者は、國家を覆す利き器なり、人民を絶つ鋒き劒なり。亦佞み媚ぶる者、上に對ひては好みて下の過を説き、下に逢ひては上の失を誹謗る。其れ如此の人、皆君に忠无く、民に仁无し。是大きなる亂の本なり。七に曰はく、人各任有り。掌ること濫れざるべし。其れ賢哲官に任すときは、頌むる音則ち起る。奸しき者官を有つときは、禍亂則ち繁し。世に生れながら知るひと少し。剋く念ひて聖と作る。事に大きなり少き無く、人を得て必ず治らむ。時に急き緩きこと無し。賢に遇ひて自づからに寛なり。此に因りて國家永久にして、社禝危うからず。故、古の聖王、官の爲に人を求めて、人の爲に官を求めず。八に曰はく、群卿百寮、早く朝りて晏く退でよ。公事鹽靡し。終日に盡し難し。是を以て、遲く朝るときは急きに逮ばず。早く退づるときは必ず事盡きず。九に曰はく、信は是義の本なり。事毎に信有るべし。其れ善惡成敗、要ず信に在り。群臣共に信あらば、何事か成らざらむ。群臣信无くは、萬の事悉に敗れむ。十に曰はく、忿を絶ち瞋を棄てて、人の違ふこと怒らざれ。人皆心有り。心各執れること有り。彼是すれば我は非す。我是すれば彼は非す。我必ず聖に非ず。彼必ず愚に非ず。共に是凡夫ならくのみ。是く非き理、・か能く定むべけむ。相共の賢く愚なること、鐶の端无きが如し。是を以て、彼人瞋ると雖も、還りて我が失を恐れよ。我獨り得たりと雖も、衆に從ひて同じく擧へ。十一に曰はく、功過を明に察て、賞し罰ふること必ず當てよ。日者、賞は功に在きてせず。罰は罪に在きてせず。事を執れる群卿、賞し罰ふることを明むべし。十二に曰はく、國司・國造、百姓に斂らざれ。國に二の君非ず。民に兩の主無し。率土の兆民は、王を以て主とす。所任る官司は、皆是王の臣なり。何にぞ敢へて公と、百姓に賦斂らむ。十三に曰はく、諸の官に任せる者、同じく職掌を知れ。或いは病し或いは使として、事を闕ること有り。然れども知ること得る日には、和ふこと曾より識れる如くにせよ。其れ與り聞かずといふを以て、公の務をな妨げそ。十四に曰はく、群臣百寮、嫉み妬むこと有ること無れ。我既に人を嫉むときは、人亦我を嫉む。嫉み妬み患、其の極を知らず。所以に、智己に勝るときは悦びず。才己に優るときは嫉妬む。是を以て、五百にして乃今賢に遇ふ。 千載にして一の聖を待つこと難し。其れ賢聖を得ずは、何を以てか國を治めむ。十五に曰はく、私を背きて公に向くは、是臣が道なり。凡て人私有るときは、必ず恨有り。憾有るときは必ず同らず。同からざるときは私を以て公を妨ぐ。憾起るときは制に違ひ法を害る。故、初の章に云へらく、上下和ひ諧れ、といへるは、其れ亦是の情なるかな。十六に曰はく、民を使ふに時を以てするは、古の良き典なり。故、冬の月に間有らば、以て民を使ふべし。春より秋に至るまでに、農桑の節なり。民を使ふべからず。其れ農せずは何をか食はむ。桑せずは何をか服む。十七に曰はく、夫れ事獨り斷むべからず。必ず衆と論ふべし。少き事は是輕し。必ずしも衆とすべからず。唯大きなる事を論ふに逮びては、若しは失有ることを疑ふ。故、衆と相辨ふるときは、辭則ち理を得。
【資料番號 五】推古天皇の御詔敕(日本書紀卷第廿二)
推古天皇十五年二月(皇紀一千二百六十七年)
戊子、詔曰、朕聞之、曩者我皇祖天皇等宰世也、跼天蹐地、敦禮神祇。周祠山川、幽通乾坤。是以、陰陽開和、造化共調。今當朕世、祭祀神祇、豈有怠乎。故群臣共爲竭心、宜拜神祇。甲午、皇太子及大臣、率百寮以祭拜神祇。(つちのえねのひ(九日)に、みことのりしてのたまはく、「われきく、むかし、わがみおやのすめらみことたち、よををさめたまふこと、あめにせかがまりつちにぬきあしにふみて、あつくあまつかみくにつかみをゐやびたまふ。あまねくやまかはをまつり、はるかにあめつちにかよはす。ここをもちて、ふゆなつひらけあまなひて、なしいづることともにととのほる。いまわがよにあたりて、あまつかみくにつかみをいはひまつること、あにおこたることあらむや。かれ、まへつきみたち、ともにためにこころをつくして、あまつかみくにつかみをゐやびまつるべし」とのたまふ。きのえうまのひ(十五日)に、ひつぎのみことおほおみと、つかさつかさをゐて、あまつかみくにつかみをいはひゐやぶ。)
【資料番號 六】船中八策(舟中八策)
慶應三年(皇紀二千五百二十七年)六月
一 天下ノ政權ヲ朝廷ニ奉還セシメ、政令宜シク朝廷ヨリ出ヅベキ事
一 上下議政局ヲ設ケ、議員ヲ置キテ萬機ヲ參贊セシメ、萬機宜シク公議ニ決スベキ事
一 有材ノ公卿、諸侯及ビ天下ノ人材ヲ顧問ニ備ヘ、官爵ヲ賜ヒ、宜シク從來有名無實ノ官ヲ除クベキ事
一 外國ノ交際廣ク公議ヲ採リ、新ニ至當ノ規約ヲ立ツベキ事
一 古來ノ律令ヲ折衷シ、新ニ無窮ノ大典ヲ撰定スベキ事
一 海軍宜シク擴張スベキ事
一 御親兵ヲ置キ、帝都ヲ守衞セシムベキ事
一 金銀物貨、宜シク外國ト平均ノ法ヲ設クベキ事
以上ノ八策ハ、方今天下ノ形勢ヲ察シ、之ヲ宇内萬國ニ徴スルニ、之ヲ捨テヽ他ニ濟時ノ急務アルベナシ 苟モ此ノ數策ヲ斷行セバ、皇運ヲ挽回シ國勢ヲ擴張シ、萬國ト竝立スルモ亦敢テ難シトセズ 伏テ願クハ、公明正大ノ道理ニ基キ、一大英斷ヲ以テ天下ト更始一新セン
【資料番號 七】五箇條ノ御誓文
慶應四年(皇紀二千五百二十八年)三月十四日
一 廣ク會議ヲ興シ萬機公論ニ決スヘシ
一 上下心ヲ一ニシテ盛ニ經綸ヲ行フヘシ
一 官武一途庶民ニ至ル迄各其ノ志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメンコトヲ要ス
一 舊來ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ
一 智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ
我國未曾有ノ變革ヲ爲サントシ朕躬ヲ以テ衆ニ先ンジ天地神明ニ誓ヒ大ニ斯國是ヲ定メ萬民保全ノ道ヲ立ントス衆亦此旨趣ニ基キ協心努力セヨ
【資料番號 八】神器及ヒ皇靈遷座ノ詔
明治四年九月十四日
朕恭ク惟ミルニ神器ハ天祖威靈ノ憑ル所歴世聖皇ノ奉シテ以テ天職ヲ治メ玉フ所ノ者ナリ今ヤ朕不逮ヲ以テ復古ノ運ニ際シ忝ク鴻緒ヲ承ク新ニ神殿ヲ造リ神器ト列聖皇靈トヲコヽニ奉安シ仰テ以テ萬機ノ政ヲ視ントス爾群卿百僚其レ斯旨ヲ體セヨ
【資料番號 九】勤儉ノ敕語
明治十二年三月十日
朕幼冲ニシテ國ノ艱難ニ際シ祖宗ノ威靈ト諸臣ノ力ニ賴リ中興ノ大業ヲ成スコトヲ得タリ惟世運實ニ非常ノ機ニ當リ猶ホ成ルヲ樂ムノ日ニアラス内祖宗ノ國光ヲ墜サス外各國ト對峙セントス朕菲德何ヲ以テ之ニ堪ヘン今親ク民事ヲ察スルニ生産未タ振ハス富庶ノ實或ハ未タ進ムコトヲ加ヘス朕深ク以テ憂トナス茲ニ念フ興國ノ本ハ勤儉ニアリ祖宗實ニ勤儉ヲ以テ國ヲ建ツ今マ富強ノ實未タ擧ラスシテ遽ニ奢侈ノ弊ヲ踏ムアラハ責メ朕カ躬ニアリ朕誡ム己レヲ勵シ天下ノ標準ヲ爲サンコトヲ思フ諸臣ニ誥ク宮禁ノ土木其レ務メテ儉素ニ就キ進御ノ物其務メテ質朴ヲ用ヰ冗費ヲ省略シテ以テ業ヲ勸メ本ヲ培フノ資ニ充テヨ諸臣其レ民ヲ富シ生ヲ厚クスルノ謀アラハ各見ル所ヲ盡シ以テ朕カ逮ハサルヲ輔ケヨ
【資料番號 十】陸海軍軍人に賜はりたる敕諭(軍人敕諭)明治十五年一月四日
我國の軍隊は世々天皇の統率し給ふ所にそある昔神武天皇躬つから大伴物部の兵ともを率ゐ中國のまつろはぬものともを討ち平け給ひ高御座に即かせられて天下しろしめし給ひしより二千五百有餘年を經ぬ此間世の樣の移り換るに随ひて兵制の沿革も亦屡なりき古は天皇躬つから軍隊を率ゐ給ふ御制にて時ありては皇后皇太子の代らせ給ふこともありつれと大凡兵權を臣下に委ね給ふことはなかりき中世に至りて文武の制度皆唐國風に傚はせ給ひ六衞府を置き左右馬寮を建て防人なと設けられしかは兵制は整ひたれとも打續ける昇平に狃れて朝廷の政務も漸文弱に流れけれは兵農おのつから二に分れ古の徴兵はいつとなく壮兵の姿に變り遂に武士となり兵馬の權は一向に其武士ともの棟梁たる者に歸し世の亂と共に政治の大權も亦其手に落ち凡七百年の間武家の政治とはなりぬ世の樣の移り換りて斯なれるは人力もて挽回すへきにあらすとはいひなから且は我國體に戻り且は我祖宗の御制に背き奉り淺間しき次第なりき降りて弘化嘉永の頃より德川の幕府其政衰へ剩外國の事とも起りて其侮をも受けぬへき勢に迫りけれは朕か皇祖仁孝天皇皇考孝明天皇いたく宸襟を惱し給ひしこそ忝くも又惶けれ然るに朕幼くして天津日嗣を受けし初征夷大將軍其政權を返上し大名小名其版籍を奉還し年を經すして海内一統の世となり古の制度に復しぬ是文武の忠臣良弼ありて朕を輔翼せる功績なり歴世祖宗の專蒼生を憐み給ひし御遺澤なりといへとも併我臣民の其心に順逆の理を辨へ大義の重きを知れるか故にこそあれされは此時に於て兵制を更め我國の光を耀さんと思ひ此十五年か程に陸海軍の制をは今の樣に建定めぬ夫兵馬の大權は朕か統ふる所なれは其司々をこそ臣下には委すなれ其大綱は朕親之を攬り肯て臣下に委ぬへきものにあらす子々孫々に至るまて篤く斯旨を傳へ天子は文武の大權を掌握するの義を存して再中世以降の如き失體なからんことを望むなり朕は汝等軍人の大元帥なるそされは朕は汝等を股肱と賴み汝等は朕を頭首と仰きてそ其親は特に深かるへき朕か國家を保護して上天の惠に應し祖宗の恩に報いまゐらする事を得るも得さるも汝等軍人か其職を盡すと盡ささるとに由るそかし我國の稜威振はさることあらは汝等能く朕と其憂を共にせよ我武維揚りて其榮を耀さは朕汝等と其譽を偕にすへし汝等皆其職を守り朕と一心になりて力を國家の保護に盡さは我國の蒼生は永く太平の福を受け我國の威烈は大に世界の光華ともなりぬへし朕斯も深く汝等軍人に望むなれは猶訓諭すへき事こそあれいてや之を左に述へむ
一 軍人は忠節を盡すを本分とすへし凡生を我國に稟くるもの誰かは國に報ゆるの心なかるへき況して軍人たらん者は此心の固からては物の用に立ち得へしとも思はれす軍人にして報國の心堅固ならさるは如何程技藝に熟し學術に長するも猶偶人にひとしかるへし其隊伍も整ひ節制も正くとも忠節を存せさる軍隊は事に臨みて烏合の衆に同かるへし抑國家を保護し國權を維持するは兵力に在れは兵力の消長は是國運の盛衰なることを辨へ世論に惑はす政治に拘らす只々一途に己か本分の忠節を守り義は山嶽よりも重く死は鴻毛よりも輕しと覺悟せよ其操を破りて不覺を取り汚名を受くるなかれ
一 軍人は禮儀を正しくすへし凡軍人には上元帥より下一卒に至るまて其間に官職の階級ありて統屬するのみならす同列同級とても停年に新舊あれは新任の者は舊任のものに服從すへきものそ下級のものは上官の命を承ること實は直に朕か命を承る義なりと心得よ己か隷屬する所にあらすとも上級の者は勿論停年の己より舊きものに對しては總へて敬禮を盡すへし又上級の者は下級のものに向ひ聊も輕侮驕傲の振舞あるへからす公務の爲に威嚴を主とする時は格別なれとも其外は務めて懇に取扱ひ慈愛を專一と心掛け上下一致して王事に勤勞せよ若軍人たるものにして禮儀を紊り上を敬はす下を惠ますして一致の和諧を失ひたらむには啻に軍隊の蠧毒たるのみかは國家の爲にもゆるし難き罪人なるへし
一 軍人は武勇を尚ふへし夫武勇は我國にては古よりいとも貴へる所なれは我國の臣民たらんもの武勇なくては叶ふまし況して軍人は戰に臨み敵に當るの職なれは片時も武勇を忘れてよかるへきかさはあれ武勇には大勇あり小勇ありて同からす血氣にはやり粗暴の振舞なとせんは武勇とは謂ひ難し軍人たらむものは常に能く義理を辨へ能く坦力を練り思慮を殫して事を謀るへし小敵たりとも侮らす大敵たりとも懼れす己か武職を盡さむこそ誠の大勇にはあれされは武勇を尚ふものは常々人に接るには温和を第一とし諸人の愛敬を得むと心掛けよ由なき勇を好みて猛威を振ひたらは果は世人も忌嫌ひて豺狼なとの如く思ひなむ心すへきことにこそ
一 軍人は信義を重んすへし凡信義を守ること常の道にはあれとわきて軍人は信義なくては一日も隊伍の中に交りてあらんこと難かるへし信とは己か言を踐行ひ義とは己か分を盡すをいふなりされは信義を盡さむと思はは始より其事の成し得へきか得へからさるかを審に思考すへし朧氣なる事を假初に諾ひてよしなき關係を結ひ後に至りて信義を立てんとすれは進退谷りて身の措き所に苦むことあり悔ゆとも其詮なし始に能々事の順逆を辨へ理非を考へ其言は所詮踐むへからすと知り其義はとても守るへからすと悟りなは速に止るこそよけれ古より或は小節の信義を立てんとて大綱の順逆を誤り或は公道の理非に踐迷ひて私情の信義を守りあたら英雄豪傑ともか禍に遭ひ身を滅し屍の上の汚名を後世まて遺せること其例尠からぬものを深く警めてやはあるへき
一 軍人は質素を旨とすへし凡質素を旨とせされは文弱に流れ輕薄に趨り驕奢華靡の風を好み遂には貪汚に陥りて志も無下に賤しくなり節操も武勇も其甲斐なく世人に爪はしきせらるる迄に至りぬへし其身生涯の不幸なりといふも中々愚なり此風一たひ軍人の間に起りては彼の傳染病の如く蔓延し士風も兵氣も頓に衰へぬへきこと明なり朕深く之を懼れて曩に免黜條例を施行し略此事を誡め置きつれと猶も其惡習の出んことを憂ひて心安からねは故に又之を訓ふるそかし汝等軍人ゆめ此訓誡を等閒にな思ひそ
右の五ヶ條は軍人たらんもの暫も忽にすへからすさて之を行はんには一の誠心こそ大切なれ抑此五ヶ條は我軍人の精神にして一の誠心は又五ヶ條の精神なり心誠ならされは如何なる嘉言も善行も皆うはへの裝飾にて何の用にかは立つへき心たに誠あれは何事も成るものそかし況してや此五ヶ條は天地の公道人倫の常經なり行ひ易く守り易し汝等軍人能く朕か訓に遵ひて此道を守り行ひ國に報ゆるの務を盡さは日本國の蒼生擧りて之を悦ひなん朕一人の懌のみならんや
【資料番號 十一】皇室典範(明治典範)
明治二十二年二月十一日制定
天佑ヲ享有シタル我カ日本帝國ノ寶祚ハ萬世一系歴代繼承シ以テ朕カ躬ニ至ル惟フニ祖宗肇國ノ初大憲一タヒ定マリ昭ナルコト日星ノ如シ今ノ時ニ當リ宜ク遺訓ヲ明徴ニシ皇家ノ成典ヲ制立シ以テ丕基ヲ永遠ニ鞏固ニスヘシ茲ニ樞密顧問ノ諮詢ヲ經皇室典範ヲ裁定シ朕カ後嗣及子孫ヲシテ遵守スル所アラシム
御名御璽
明治二十二年二月十一日
皇 室 典 範
第一章 皇位繼承
第一條 大日本國皇位ハ祖宗ノ皇統ニシテ男系ノ男子之ヲ繼承ス
第二條 皇位ハ皇長子ニ傳フ
第三條 皇長子在ラサルトキハ皇長孫ニ傳フ皇長子及其ノ子孫皆在ラサルトキハ皇次子及其ノ子孫ニ傳フ以下皆之ニ例ス
第四條 皇子孫ノ皇位ヲ繼承スルハ嫡出ヲ先ニス皇庶子孫ノ皇位ヲ繼承スルハ皇嫡子孫皆在ラサルトキニ限ル
第五條 皇子孫皆在ラサルトキハ皇兄弟及其ノ子孫ニ傳フ
第六條 皇兄弟及其ノ子孫皆在ラサルトキハ皇伯叔父及其ノ子孫ニ傳フ
第七條 皇伯叔父及其ノ子孫皆在ラサルトキハ其ノ以上ニ於テ最近親ノ皇族ニ傳フ
第八條 皇兄弟以上ハ同等内ニ於テ嫡ヲ先ニシ庶ヲ後ニシ長ヲ先ニシ幼ヲ後ニス
第九條 皇嗣精神若ハ身體ノ不治ノ重患アリ又ハ重大ノ事故アルトキハ皇族會議及樞密顧問ニ諮詢シ前數條ニ依リ繼承ノ順序ヲ換フルコトヲ得
第二章 踐祚即位
第十條 天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク
第十一條 即位ノ禮及大嘗祭ハ京都ニ於テ之ヲ行フ
第十二條 踐祚ノ後元號ヲ建テ一世ノ間ニ再ヒ改メサルコト明治元年ノ定制ニ從フ
第三章 成年立后立太子
第十三條 天皇及皇太子皇太孫ハ滿十八年ヲ以テ成年トス
第十四條 前條ノ外ノ皇族ハ滿二十年ヲ以テ成年トス
第十五條 儲嗣タル皇子ヲ皇太子トス皇太子在ラサルトキハ儲嗣夕ル皇孫ヲ皇太孫トス
第十六條 皇后皇太子皇太孫ヲ立ツルトキハ詔書ヲ以テ之ヲ公布ス
第四章 敬稱
第十七條 天皇太皇太后皇太后皇后ノ敬稱ハ陛下トス
第十八條 皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃親王親王妃内親王王王妃女王ノ敬稱ハ殿下トス
第五章 攝政
第十九條 天皇未タ成年ニ達セサルトキハ攝政ヲ置ク
天皇久キニ亘ルノ故障ニ由リ大政ヲ親ラスルコト能ハサルトキハ皇族會議及樞密顧問ノ議ヲ經テ攝政ヲ置ク
第二十條 攝政ハ成年ニ達シタル皇太子又ハ皇太孫之ニ任ス
第二十一條 皇太子皇太孫在ラサルカ又ハ未タ成年ニ達セサルトキハ左ノ順序ニ依リ攝政ニ任ス
第一 親王及王
第二 皇后
第三 皇太后
第四 太皇太后
第五 内親王及女王
第二十二條 皇族男子ノ攝政ニ任スルハ皇位繼承ノ順序ニ從フ其ノ女子ニ於ケルモ亦之ニ準ス
第二十三條 皇族女子ノ攝政ニ任スルハ其ノ配偶アラサル者ニ限ル
第二十四條 最近親ノ皇族未タ成年ニ達セサルカ又ハ其ノ他ノ事故ニ由リ他ノ皇族攝政ニ任シタルトキハ後來最近親ノ皇族成年ニ達シ又ハ其ノ事故既ニ除クト雖皇太子及皇太孫ニ對スルノ外其ノ任ヲ讓ルコトナシ
第二十五條 攝政又ハ攝政タルヘキ者精神若ハ身體ノ重患アリ又ハ重大ノ事故アルトキハ皇族會議及樞密顧問ノ議ヲ經テ其ノ順序ヲ換フルコトヲ得
第六章 太傅
第二十六條 天皇未夕成年ニ達セサルトキハ太傅ヲ置キ保育ヲ掌ラシム
第二十七條 先帝遺命ヲ以テ太傅ヲ任セサリシトキハ攝政ヨリ皇族會議及樞密顧問ニ諮詢シ之ヲ選任ス
第二十八條 太傅ハ攝政及其ノ子孫之ニ任スルコトヲ得ス
第二十九條 攝政ハ皇族會議及樞密顧問ニ諮詢シタル後ニ非サレハ太傅ヲ退職セシムルコトヲ得ス
第七章 皇族
第三十條 皇族ト稱フルハ太皇太后皇太后皇后皇太子皇太子妃皇太孫皇太孫妃親王親王妃内親王王王妃女王ヲ謂フ
第三十一條 皇子ヨリ皇玄孫ニ至ルマテハ男ヲ親王女ヲ内親王トシ五世以下ハ男ヲ王女ヲ女王トス
第三十二條 天皇支系ヨリ入テ大統ヲ承クルトキハ皇兄弟姉妹ノ王女王タル者ニ特ニ親王内親王ノ號ヲ宣賜ス
第三十三條 皇族ノ誕生命名婚嫁薨去ハ宮内大臣之ヲ公告ス
第三十四條 皇統譜及前條ニ關ル記錄ハ圖書寮ニ於テ尚蔵ス
第三十五條 皇族ハ天皇之ヲ監督ス
第三十六條 攝政在任ノ時ハ前條ノ事ヲ攝行ス
第三十七條 皇族男女幼年ニシテ父ナキ者ハ宮内ノ官僚ニ命シ保育ヲ掌ラシム事宜ニ依リ天皇ハ其ノ父母ノ選擧セル後見人ヲ認可シ又ハ之ヲ敕選スヘシ
第三十八條 皇族ノ後見人ハ成年以上ノ皇族ニ限ル
第三十九條 皇族ノ婚嫁ハ同族又ハ敕旨ニ由リ特ニ認許セラレタル華族ニ限ル
第四十條 皇族ノ婚嫁ハ敕許ニ由ル
第四十一條 皇族ノ婚嫁ヲ許可スルノ敕書ハ宮内大臣之ニ副署ス
第四十二條 皇族ハ養子ヲ爲スコトヲ得ス
第四十三條 皇族國疆ノ外ニ旅行セムトスルトキハ敕許ヲ請フヘシ
第四十四條 皇族女子ノ臣籍ニ嫁シタル者ハ皇族ノ列ニ在ラス但シ特旨ニ依リ仍内親王女王ノ稱ヲ有セシムルコトアルヘシ
第八章 世傳御料
第四十五條 土地物件ノ世傳御料ト定メタルモノハ分割讓與スルコトヲ得ス
第四十六條 世傳御料ニ編入スル土地物件ハ樞密顧問ニ諮詢シ敕書ヲ以テ之ヲ定メ宮内大臣之ヲ公告ス
第九章 皇室經費
第四十七條 皇室諸般ノ經費ハ特ニ常額ヲ定メ國庫ヨリ支出セシム
第四十八條 皇室經費ノ豫算決算檢査及其ノ他ノ規則ハ皇室會計法ノ定ムル所ニ依ル
第十章 皇族訴訟及懲戒
第四十九條 皇族相互ノ民事ノ訴訟ハ敕旨ニ依リ宮内省ニ於テ裁判員ヲ命シ裁判セシメ敕裁ヲ經テ之ヲ執行ス
第五十條 人民ヨリ皇族ニ對スル民事ノ訴訟ハ東京控訴院ニ於テ之ヲ裁判ス但シ皇族ハ代人ヲ以テ訴訟ニ當ラシメ自ラ訟廷ニ出ルヲ要セス
第五十一條 皇族ハ敕許ヲ得ルニ非サレハ勾引シ又ハ裁判所ニ召喚スルコトヲ得ス
第五十二條 皇族其ノ品位ヲ辱ムルノ所行アリ又ハ皇室ニ對シ忠順ヲ缺クトキハ敕旨ヲ以テ之ヲ懲戒シ其ノ重キ者ハ皇族特權ノ一部又ハ全部ヲ停止シ若ハ剥奪スヘシ
第五十三條 皇族蕩産ノ所行アルトキハ敕旨ヲ以テ治産ノ禁ヲ宣告シ其ノ管財者ヲ任スヘシ
第五十四條 前二條ハ皇族會議ニ諮詢シタル後之ヲ敕裁ス
第十一章 皇族會議
第五十五條 皇族會議ハ成年以上ノ皇族男子ヲ以テ組織シ内大臣樞密院議長宮内大臣司法大臣大審院長ヲ以テ參列セシム
第五十六條 天皇ハ皇族會議ニ親臨シ又ハ皇族中ノ一員ニ命シテ議長タラシム
第十二章 補則
第五十七條 現在ノ皇族五世以下親王ノ號ヲ宣賜シタル者ハ舊ニ依ル
第五十八條 皇位繼承ノ順序ハ總テ實系ニ依ル現在皇養子皇猶子又ハ他ノ繼嗣タルノ故ヲ以テ之ヲ混スルコトナシ
第五十九條 親王内親王王女王ノ品位ハ之ヲ廢ス
第六十條 親王ノ家格及其ノ他此ノ典範ニ牴觸スル例規ハ總テ之ヲ廢ス
第六十一條 皇族ノ財産歳費及諸規則ハ別ニ之ヲ定ムヘシ
第六十二條 將來此ノ典範ノ條項ヲ改正シ又ハ增補スヘキノ必要アルニ當テハ皇族會議及樞密顧問ニ諮詢シテ之ヲ敕定スヘシ
皇室典範增補(明治四十年二月十一日)
第一條 王ハ敕旨又ハ情願ニ依リ家名ヲ賜ヒ華族ニ列セシムルコトアルヘシ
第二條 王ハ敕許ニ依リ華族ノ家督相續人トナリ又ハ家督相續ノ目的ヲ以テ華族ノ養子トナルコトヲ得
第三條 前二條ニ依リ臣籍ニ入リタル者ノ妻直系卑屬及其ノ妻ハ其ノ家ニ入ル但シ他ノ皇族ニ嫁シタル女子及其ノ直系卑屬ハ此ノ限ニ在ラス
第四條 特權ヲ剥奪セラレタル皇族ハ敕旨ニ由リ臣籍ニ降スコトアルヘシ
前項ニ依リ臣籍ニ降サレタル者ノ妻ハ其ノ家ニ入ル
第五條 第一條第二條第四條ノ場合ニ於テハ皇族會議及樞密顧問ノ諮詢ヲ經ヘシ
第六條 皇族ノ臣籍ニ入リタル者ハ皇族ニ復スルコトヲ得ス
第七條 皇族ノ身位其ノ他ノ權義ニ關スル規程ハ此ノ典範ニ定メタルモノノ外別ニ之ヲ定ム
皇族ト人民トニ渉ル事項ニシテ各々適用スヘキ法規ヲ異ニスルトキハ前項ノ規程ニ依ル
第八條 法律命令中皇族ニ適用スヘキモノトシタル規定ハ此ノ典範又ハ之ニ基ツキ發スル規則ニ別段ノ條規ナキトキニ限リ之ヲ適用ス
皇室典範增補(大正七年十一月二十八日)
皇族女子ハ王族又ハ公族ニ嫁スルコトヲ得
皇室典範及皇室典範增補廢止ノ件(昭和二十二年五月一日)
明治二十二年裁定ノ皇室典範竝ニ明治四十年及大正七年裁定ノ皇室典範增補ハ昭和二十二年五月二日限リ之ヲ廢止ス
【資料番號 十二】大日本帝國憲法(帝國憲法)
明治二十二年二月十一日公布、同二十三年十一月二十九日施行
告 文
皇朕レ謹ミ畏ミ
皇祖
皇宗ノ神靈ニ誥ケ白サク皇朕レ天壤無窮ノ宏謨ニ循ヒ惟神ノ寶祚ヲ承繼シ舊圖ヲ保持シテ敢テ失墜スルコト無シ顧ミルニ世局ノ進運ニ膺リ人文ノ發達ニ随ヒ宜ク
皇祖
皇宗ノ遺訓ヲ明徴ニシ典憲ヲ成立シ條章ヲ昭示シ内ハ以テ子孫ノ率由スル所ト爲シ外ハ以テ臣民翼贊ノ道ヲ廣メ永遠ニ遵行セシメ益々國家ノ丕基ヲ鞏固ニシ八洲民生ノ慶福ヲ增進スヘシ茲ニ皇室典範及憲法ヲ制定ス惟フニ此レ皆
皇祖
皇宗ノ後裔ニ貽シタマヘル統治ノ洪範ヲ紹述スルニ外ナラス而シテ朕カ躬ニ逮テ時ト倶ニ擧行スルコトヲ得ルハ洵ニ
皇祖
皇宗及我カ皇考ノ威靈ニ倚藉スルニ由ラサルハ無シ皇朕レ仰テ
皇祖
皇宗及皇考ノ神祐ヲ祷リ併セテ朕カ現在及將來ニ臣民ニ率先シ此ノ憲章ヲ履行シテ愆ラサラムコトヲ誓フ庶幾クハ神靈此レヲ鑒ミタマヘ
憲法發布敕語
朕國家ノ隆昌ト臣民ノ慶福トヲ以テ中心ノ欣榮トシ朕カ祖宗ニ承クルノ大權ニ依リ現在及將來ノ臣民ニ對シ此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス
惟フニ我カ祖我カ宗ハ我カ臣民祖先ノ協力輔翼ニ倚リ我カ帝國ヲ肇造シ以テ無窮ニ垂レタリ此レ我カ神聖ナル祖宗ノ威德ト竝ニ臣民ノ忠實勇武ニシテ國ヲ愛シ公ニ殉ヒ以テ此ノ光輝アル國史ノ成跡ヲ貽シタルナリ朕我カ臣民ハ即チ祖宗ノ忠良ナル臣民ノ子孫ナルヲ回想シ其ノ朕カ意ヲ奉體シ朕カ事ヲ奬順シ相與ニ和衷協同シ益々我カ帝國ノ光榮ヲ中外ニ宣揚シ祖宗ノ遺業ヲ永久ニ鞏固ナラシムルノ希望ヲ同クシ此ノ負擔ヲ分ツニ堪フルコトヲ疑ハサルナリ
朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ萬世一系ノ帝位ヲ踐ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ惠撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ其ノ康福ヲ增進シ其ノ懿德良能ヲ發達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼贊ニ依リ與ニ倶ニ國家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履踐シ茲ニ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム
國家統治ノ大權ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ傳フル所ナリ朕及朕カ子孫ハ將來此ノ憲法ノ條章ニ循ヒ之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ
朕ハ我カ臣民ノ權利及財産ノ安全ヲ貴重シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範圍内ニ於テ其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス
帝國議會ハ明治二十三年ヲ以テ之ヲ召集シ議會開會ノ時ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有效ナラシムルノ期トスヘシ
將來若此ノ憲法ノ或ル條章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ朕及朕カ繼統ノ子孫ハ發議ノ權ヲ執リ之ヲ議會ニ付シ議會ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノ外朕カ子孫及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ
朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ爲ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及將來ノ臣民ハ此ノ憲法ニ對シ永遠ニ從順ノ義務ヲ負フヘシ
御名御璽
明治二十二年二月十一日
大 日 本 帝 國 憲 法
第一章 天皇
第一條 大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第二條 皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ繼承ス
第三條 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第四條 天皇ハ國ノ元首ニシテ統治權ヲ總攬シ此ノ憲法ノ條規ニ依リ之ヲ行フ
第五條 天皇ハ帝國議會ノ協贊ヲ以テ立法權ヲ行フ
第六條 天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス
第七條 天皇ハ帝國議會ヲ召集シ其ノ開會閉會停會及衆議院ノ解散ヲ命ス
第八條 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル爲緊急ノ必要ニ由リ帝國議會閉會ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ敕令ヲ發ス
此ノ敕令ハ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出スヘシ若議會ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ將來ニ向テ其ノ效力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
第九條 天皇ハ法律ヲ執行スル爲ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ增進スル爲ニ必要ナル命令ヲ發シ又ハ發セシム但シ命令ヲ以テ法律ヲ變更スルコトヲ得ス
第十條 天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ條項ニ依ル
第十一條 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第十二條 天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第十三條 天皇ハ戰ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ條約ヲ締結ス
第十四條 天皇ハ戒嚴ヲ宣告ス
戒嚴ノ要件及效力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第十五條 天皇ハ爵位勳章及其ノ他ノ榮典ヲ授與ス
第十六條 天皇ハ大赦特赦減刑及復權ヲ命ス
第十七條 攝政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル
攝政ハ天皇ノ名ニ於テ大權ヲ行フ
第二章 臣民權利義務
第十八條 日本臣民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第十九條 日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ應シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得
第二十條 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ從ヒ兵役ノ義務ヲ有ス
第二十一條 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ從ヒ納税ノ義務ヲ有ス
第二十二條 日本臣民ハ法律ノ範圍内ニ於テ居住及移轉ノ自由ヲ有ス
第二十三條 日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問處罰ヲ受クルコトナシ
第二十四條 日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ權ヲ奪ハル丶コトナシ
第二十五條 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラル丶コトナシ
第二十六條 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ祕密ヲ侵サル丶コトナシ
第二十七條 日本臣民ハ其ノ所有權ヲ侵サル丶コトナシ
公益ノ爲必要ナル處分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第二十八條 日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
第二十九條 日本臣民ハ法律ノ範圍内ニ於テ言論著作印行集會及結社ノ自由ヲ有ス
第三十條 日本臣民ハ相當ノ敬禮ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ從ヒ請願ヲ爲スコトヲ得
第三十一條 本章ニ掲ケタル條規ハ戰時又ハ國家事變ノ場合ニ於テ天皇大權ノ施行ヲ妨クルコトナシ
第三十二條 本章ニ掲ケタル條規ハ陸海軍ノ法令又ハ紀律ニ牴觸セサルモノニ限リ軍人ニ準行ス
第三章 帝國議會
第三十三條 帝國議會ハ貴族院衆議院ノ兩院ヲ以テ成立ス
第三十四條 貴族院ハ貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及敕任セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第三十五條 衆議院ハ選擧法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第三十六條 何人モ同時ニ兩議院ノ議員タルコトヲ得ス
第三十七條 凡テ法律ハ帝國議會ノ協贊ヲ經ルヲ要ス
第三十八條 兩議員ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得
第三十九條 兩議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同會期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス
第四十條 兩議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得但シ其ノ採納ヲ得サルモノハ同會期中ニ於テ再ヒ建議スルコトヲ得ス
第四十一條 帝國議會ハ毎年之ヲ召集ス
第四十二條 帝國議會ハ三箇月ヲ以テ會期トス必要アル場合ニ於テハ敕命ヲ以テ之ヲ延長スルコトアルヘシ
第四十三條 臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テ常會ノ外臨時會ヲ召集スヘシ
臨時會ノ會期ヲ定ムルハ敕命ニ依ル
第四十四條 帝國議會ノ開會閉會會期ノ延長及停會ハ兩院同時ニ之ヲ行フヘシ
衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ貴族院ハ同時ニ停會セラルヘシ
第四十五條 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ敕命ヲ以テ新ニ議員ヲ選擧セシメ解散ノ日ヨリ五箇月以内ニ之ヲ召集スヘシ
第四十六條 兩議院ハ各々其ノ總議員三分ノ一以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開キ議決ヲ爲スコトヲ得ス
第四十七條 兩議院ノ議事ハ過半數ヲ以テ決ス可否同數ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第四十八條 兩議院ノ會議ハ公開ス但シ政府ノ要求又ハ其ノ院ノ決議ニ依リ祕密會ト爲スコトヲ得
第四十九條 兩議院ハ各々天皇ニ上奏スルコトヲ得
第五十條 兩議院ハ臣民ヨリ呈出スル請願書ヲ受クルコトヲ得
第五十一條 兩議院ハ此ノ憲法及議院法ニ掲クルモノ丶外内部ノ整理ニ必要ナル諸規則ヲ定ムルコトヲ得
第五十二條 兩議院ノ議員ハ議院ニ於テ發言シタル意見及表決ニ付院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ處分セラルヘシ
第五十三條 兩議院ノ議員ハ現行犯罪又ハ内亂外患ニ關ル罪ヲ除ク外會期中其ノ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラル丶コトナシ
第五十四條 國務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院ニ出席シ及發言スルコトヲ得
第四章 國務大臣及樞密顧問
第五十五條 國務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
凡テ法律敕令其ノ他國務ニ關ル詔敕ハ國務大臣ノ副署ヲ要ス
第五十六條 樞密顧問ハ樞密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ應ヘ重要ノ國務ヲ審議ス
第五章 司法
第五十七條 司法權ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十八條 裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
懲戒ノ條規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十九條 裁判ノ對審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ對審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第六十條 特別裁判所ノ管轄ニ屬スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第六十一條 行政官廳ノ違法處分ニ由リ權利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ屬スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス
第六章 會計
第六十二條 新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ變更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
但シ報償ニ屬スル行政上ノ手數料及其ノ他ノ收納金ハ前項ノ限ニ在ラス
國債ヲ起シ及豫算ニ定メタルモノヲ除ク外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スハ帝國議會ノ協贊ヲ經ヘシ
第六十三條 現行ノ租税ハ更ニ法律ヲ以テ之ヲ改メサル限ハ舊ニ依リ之ヲ徴收ス
第六十四條 國家ノ歳出歳入ハ毎年豫算ヲ以テ帝國議會ノ協贊ヲ經ヘシ
豫算ノ款項ニ超過シ又ハ豫算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝國議會ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第六十五條 豫算ハ前ニ衆議院ニ提出スヘシ
第六十六條 皇室經費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年國庫ヨリ之ヲ支出シ將來增額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝國議會ノ協贊ヲ要セス
第六十七條 憲法上ノ大權ニ基ツケル既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ屬スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝國議會之ヲ廢除シ又ハ削減スルコトヲ得ス
第六十八條 特別ノ須要ニ因リ政府ハ豫メ年限ヲ定メ繼續費トシテ帝國議會ノ協贊ヲ求ルコトヲ得
第六十九條 避クヘカラサル豫算ノ不足ヲ補フ爲ニ又ハ豫算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツル爲ニ豫備費ヲ設クヘシ
第七十條 公共ノ安全ヲ保持スル爲緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝國議會ヲ召集スルコト能ハサルトキハ敕令ニ依リ財政上必要ノ處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第七十一條 帝國議會ニ於テ豫算ヲ議定セス又ハ豫算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ豫算ヲ施行スヘシ
第七十二條 國家ノ歳出歳入ノ決算ハ會計檢査院之ヲ檢査確定シ政府ハ其ノ檢査報告ト倶ニ之ヲ帝國議會ニ提出スヘシ
會計檢査院ノ組織及職權ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第七章 補則
第七十三條 將來此ノ憲法ノ條項ヲ改正スルノ必要アルトキハ敕命ヲ以テ議案ヲ帝國議會ノ議ニ付スヘシ
此ノ場合ニ於テ兩議院ハ各々其ノ總員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多數ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ爲スコトヲ得ス
第七十四條 皇室典範ノ改正ハ帝國議會ノ議ヲ經ルヲ要セス
皇室典範ヲ以テ此ノ憲法ノ條規ヲ變更スルコトヲ得ス
第七十五條 憲法及皇室典範ハ攝政ヲ置クノ間之ヲ變更スルコトヲ得ス
第七十六條 法律規則命令又ハ何等ノ名稱ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ總テ遵由ノ效力ヲ有ス
歳出上政府ノ義務ニ係ル現在ノ契約又ハ命令ハ總テ第六十七條ノ例ニ依ル
【資料番號 十三】教育ニ關スル敕語(教育敕語)
明治二十三年十月三十日
朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世々厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ獨リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顯彰スルニ足ラン
斯ノ道ハ實ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其德ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ
明治二十三年十月三十日
御名 御璽
【資料番號 十四】義勇兵ヲ停メ給フ敕諭
明治二十七年八月七日
朕ハ祖宗ノ威靈ト臣民ノ協同トニ倚リ我カ忠武ナル陸海軍ノ力ヲ用ヰ國ノ稜威ト光榮トヲ全クセムコトヲ期ス
各地ノ臣民義勇兵ヲ團結スルノ擧アルハ其ノ忠良愛國ノ至情ニ出ルコトヲ知ル惟フニ國ニ常制アリ民ニ常業アリ非常徴發ノ場合ヲ除クノ外臣民各々其ノ常業ヲ勤ムルコトヲ怠ラス内ニハ益々生殖ヲ進メ以テ富強ノ源ヲ培フハ朕ノ望ム所ナリ義勇兵ノ如キハ現今其ノ必要ナキヲ認ム各地方官朕カ旨ヲ體シ示諭スル所アルヘシ
【資料番號 十五】戊申詔書
明治四十一年十月十三日
朕惟フニ方今人文日ニ就リ月ニ將ミ東西相倚リ彼此相濟シ以テ其ノ福利ヲ共ニス朕ハ爰ニ益々國交ヲ修メ友義ヲ惇シ列國ト與ニ永ク其ノ慶ニ賴ラムコトヲ期ス顧ミルニ日進ノ大勢ニ伴ヒ文明ノ惠澤ヲ共ニセムトスル固ヨリ内國運ノ發展ニ須ツ戰後日尚淺ク庶政益々更張ヲ要ス宜ク上下心ヲ一ニシ忠實業ニ服シ勤儉産ヲ治メ惟レ信惟レ義醇厚俗ヲ成シ華ヲ去リ實ニ就キ荒怠相誡メ自彊息マサルヘシ
抑我カ神聖ナル祖宗ノ遺訓ト我カ光輝アル國史ノ成跡トハ炳トシテ日星ノ如シ寔ニ克ク恪守シ淬砺ノ誠ヲ輸サハ國運發展ノ本近ク斯ニ在リ朕ハ方今ノ世局ニ處シ我カ忠良ナル臣民ノ協翼ニ倚藉シテ維新ノ皇猷ヲ恢弘シ祖宗ノ威德ヲ對揚セムコトヲ庶幾フ爾臣民其レ克ク朕カ旨ヲ體セヨ
【資料番號 十六】施療濟生ノ敕語
明治四十四年二月十一日
朕惟フニ世局ノ大勢ニ随ヒ國運ノ伸張ヲ要スルコト方ニ急ニシテ經濟ノ状況漸ニ革マリ人心動モスレハ其ノ歸向ヲ謬ラムトス政ヲ爲ス者宜ク深ク此ニ鑒ミ倍々憂勤シテ業ヲ勸メ教ヲ敦クシ以テ健全ノ發達ヲ遂ケシムヘシ若夫レ無告ノ窮民ニシテ醫藥給セス天壽ヲ終フルコト能ハサルハ朕カ最軫念シテ措カサル所ナリ乃チ施藥救療以テ濟生ノ道ヲ弘メムトス茲ニ内帑ノ金ヲ出タシ其ノ資ニ充テシム卿克ク朕カ意ヲ體シ宜キニ随ヒ之ヲ措置シ永ク衆庶ヲシテ賴ル所アラシメムコトヲ期セヨ
【資料番號 十七】青少年學徒ニ下シ賜ハリタル敕語
昭和十四年五月二十二日
國本ニ培ヒ國力ヲ養ヒ以テ國家隆昌ノ氣運ヲ永世ニ維持セムトスル任タル極メテ重ク道タル甚タ遠シ而シテ其ノ任實ニ繋リテ汝等青少年學徒ノ雙肩ニ在リ汝等其レ氣節尚ヒ廉恥ヲ重ンシ古今ノ史實ニ稽ヘ中外ノ事勢ニ鑑ミ其ノ思索ヲ精ニシ其ノ識見ヲ長シ執ル所中ヲ失ハス嚮フ所正ヲ謬ラス各其ノ本分ヲ恪守シ文ヲ修メ武ヲ練リ質實剛健ノ氣風ヲ振勵シ以テ負荷ノ大任ヲ全クセムコトヲ期セヨ
【資料番號 十八】英米共同宣言(大西洋憲章)
昭和十六年八月十四日發表
「アメリカ」合衆國大統領及ビ連合王國ニ於ケル皇帝陛下ノ政府ヲ代表スル「チァーチル」總理大臣ハ繪合ヲ爲シタル後兩國ガ世界ノ爲一層良キ將來ヲ求メントスル其ノ希望ノ基礎ヲ成ス兩國國策ノ共通原則ヲ公ニスルヲ以テ正シト思考スルモノナリ
兩國ハ領土的其ノ他ノ增大ヲ求メズ
兩國ハ關係國民ノ自由ニ表明セル希望ト一致セザル領土的變更ノ行ハルルコトヲ欲セズ
兩國ハ一切ノ國民ガ其ノ下ニ生活セントスル政體ヲ選擇スルノ權利ヲ尊重ス。兩國ハ主權及自治ヲ強奪セラレタル者ニ主權及自治ガ返還セラルルコトヲ希望ス
兩國ハ其ノ現存義務ヲ適法ニ尊重シ大國タルト小國タルト又戰勝國タルト敗戰國タルトヲ問ハズ一切ノ國ガ其ノ經濟的繁榮ニ必要ナル世界ノ通商及原料ノ均等條件ニ於ケル利用ヲ享有スルコトヲ促進スルニ努ムベシ
兩國ハ改善セラレタル勞働基準經濟的向上及社會的安全ヲ一切ノ國ノ爲ニ確保スル爲右一切ノ國ノ間ニ經濟的分野ニ於テ完全ナル協力ヲ生ゼシメンコトヲ欲ス
「ナチ」ノ暴虐ノ最終的破壞ノ後兩國ハ一切ノ國民ニ對シ其ノ國境内ニ於テ安全ニ居住スルノ手段ヲ供與シ且一切ノ國ノ一切ノ人類ガ恐怖及缺乏ヨリ解放セラレ其ノ生ヲ全フスルヲ得ルコトヲ確實ナラシムベキ平和ガ確立セラルルコトヲ希望ス
右平和ハ一切ノ人類ヲシテ妨害ヲ受クルコトナク公ノ海洋ヲ航行スルコトヲ得シムベシ
兩國ハ世界ノ一切ノ國民ハ實在論的理由ニ依ルト精神的理由ニ依ルトヲ問ハズ強力ノ使用ヲ放棄スルニ至ルコトヲ要スト信ズ。陸海又ハ空ノ軍備ガ自國國境外ヘノ侵略ノ脅威ヲ與ヘ又ハ與フルコトアルベキ國ニ依リ引續キ使用セラルルトキハ將來ノ平和ハ維持セラルルコトヲ得ザルガ故ニ兩國ハ一層廣汎ニシテ永久的ナル一般的安全制度ノ確立ニ至ル迄ハ斯ル國ノ武裝解除ハ不可缺ノモノナリト信ズ。兩國ハ又平和ヲ愛好スル國民ノ爲ニ壓倒的軍備負擔ヲ輕減スベキ他ノ一切ノ實行可能ノ措置ヲ援助シ及ビ助長スベシ
フランクリン・D・ルーズヴェルト
ウィンストン.・S・チャーチル
【資料番號 十九】英米兩國ニ對スル宣戰詔書
昭和十六年十二月八日
天佑ヲ保有シ萬世一系ノ皇祚ヲ踐メル大日本帝國天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有衆ニ示ス
朕茲に米國及英國ニ對シテ戰ヲ宣ス朕カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ朕カ百僚有司ハ勵精職務ヲ奉行シ朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ
抑々東亞ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄與スルハ丕顯ナル皇祖考丕承ナル皇考ノ作述セル遠猷ニシテ朕カ拳々措カサル所而シテ列國トノ交誼ヲ篤クシ萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ之亦帝國カ常ニ國交ノ要義ト爲ス所ナリ今ヤ不幸ニシテ米英兩國ト釁端ヲ開クニ至ル洵ニ已ムヲ得サルモノアリ豈朕カ志ナラムヤ中華民國政府曩ニ帝國ノ眞意ヲ解セス濫ニ事ヲ構ヘテ東亞ノ平和ヲ攪亂シ遂ニ帝國ヲシテ干戈ヲ執ルニ至ラシメ茲ニ四年有餘ヲ經タリ幸ニ國民政府更新スルアリ帝國ハ之ト善隣ノ誼ヲ結ヒ相提攜スルニ至レルモ重慶ニ殘存スル政權ハ米英ノ庇蔭ヲ恃ミテ兄弟尚未タ牆ニ鬩クヲ悛メス米英兩國ハ殘存政權ヲ支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ平和ノ美名ニ匿レテ東洋制覇ノ非望ヲ逞ウセムトス剩ヘ與國ヲ誘ヒ帝國ノ周邊ニ於テ武備ヲ増強シテ我ニ挑戰シ更ニ帝國ノ平和的通商ニ有ラユル妨害ヲ與ヘ遂ニ經濟斷交ヲ敢テシ帝國ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ朕ハ政府ヲシテ事態ヲ平和ノ裡ニ囘復セシメムトシ隱忍久シキニ彌リタルモ彼ハ毫モ交讓ノ精神ナク徒ニ時局ノ解決ヲ遷延セシメテ此ノ間却ツテ益々經濟上軍事上ノ脅威ヲ増大シ以テ我ヲ屈從セシメムトス斯ノ如クニシテ推移セムカ東亞安定ニ關スル帝國積年ノ努力ハ悉ク水泡ニ歸シ帝國ノ存立亦正ニ危殆ニ瀕セリ事既ニ此ニ至ル帝國ハ今ヤ自存自衛ノ爲蹶然起ツテ一切ノ障礙ヲ破碎スルノ外ナキナリ
皇祖皇宗ノ神靈上ニ在リ朕ハ汝有衆ノ忠誠勇武ニ信倚シ祖宗ノ遺業ヲ恢弘シ速ニ禍根ヲ芟除シテ東亞永遠ノ平和ヲ確立シ以テ帝國ノ光榮ヲ保全セムコトヲ期ス
御名 御璽
【資料番號 二十】大東亞共同宣言
昭和十八年十一月六日
抑々世界各國ガ各其ノ所ヲ得相扶ケテ萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ世界平和確立ノ根本要義ナリ
然ルニ米英ハ自國ノ繁榮ノ爲ニハ他國家他民族ヲ抑壓シ特ニ大東亞ニ對シテハ飽クナキ侵略搾取ヲ行ヒ大東亞隷屬化ノ野望ヲ逞ウシ遂ニハ大東亞ノ安定ヲ根柢ヨリ覆サントセリ大東亞戰爭ノ原因茲ニ存ス
大東亞各國ハ相提携シテ大東亞戰爭ヲ完遂シ大東亞ヲ米英ノ桎梏ヨリ解放シテ其ノ自存自衞ヲ全ウシ左ノ綱領ニ基キ大東亞ヲ建設シ以テ世界平和ノ確立ニ寄與センコトヲ期ス
一、大東亞各國ハ協同シテ大東亞ノ安定ヲ確保シ道義ニ基ク共存共榮ノ秩序ヲ建設ス
一、大東亞各國ハ相互ニ自主獨立ヲ尊重シ互助敦睦ノ實ヲ擧ゲ大東亞ノ親和ヲ確立ス
一、大東亞各國ハ相互ニ其ノ傳統ヲ尊重シ各民族ノ創造性ヲ伸暢シ大東亞ノ文化ヲ昂揚ス
一、大東亞各國ハ互惠ノ下緊密ニ提携シ其ノ經濟發展ヲ圖リ大東亞ノ繁榮ヲ增進ス
一、大東亞各國ハ萬邦トノ交誼ヲ篤ウシ人種的差別ヲ撤廢シ普ク文化ヲ交流シ進ンデ資源ヲ開放シ以テ世界ノ進運ニ貢獻ス
【資料番號 二十一】クリミヤ會議の議事に關する議定書中の日本國に關する協定(ヤルタ密約)
昭和二十年二月十一日署名、昭和二十一年二月十一日發表
三大國、すなはちソヴィエト連邦、アメリカ合衆國及び英國の指導者は、ドイツ國が降伏し且つヨーロッパにおける戰爭が終結した後二箇月又は三箇月を經て、ソヴィエト連邦が、次の條件で連合國側において日本國に對する戰爭に參加することを協定した。
一 外蒙古(蒙古人民共和國)の現状は維持する。
二 千九百四年の日本國の背信的攻撃により侵害されたロシア國の舊權利は、次のやうに回復される。
(イ) 樺太の南部及びこれに隣接するすべての島を、ソヴィエト連邦に返還する。
(ロ) 大連商港を國際化し、この港におけるソヴィエト連邦の優先的利益を擁護し、また、ソヴィエト社會主義共和國連邦の海軍基地としての旅順口の租借權を回復する。
(ハ) 東清鐵道及び大連に出口を提供する南滿洲鐵道は、中ソ合辨會社を設立して共同に運營する。但し、ソヴィエト連邦の優先的利益は保障し、また、中華民國は、滿洲における完全な主權を保有するものとする。
三 千島列島は、ソヴィエト連邦に引渡す。
前記の外蒙古竝びに港灣及び鐵道に關する協定は、蒋介石總統の同意を要する。大統領は、スターリン元帥からの通知により、この同意を得るために措置を執る。
三大國の首班は、ソヴィエト連邦のこれらの要求が日本國の敗北した後に確實に滿足されることを合意した。
ソヴィエト連邦は、中華民國を日本國の束縛から解放する目的で、自國の軍隊によりこれに援助を與へるため、ソヴィエト社會主義共和國連邦と中華民國との間の友好同盟條約を中華民國國民政府と締結する用意があることを表明する。
【資料番號 二十二】國際連合憲章
昭和二十年六月二十六日署名、
同年十月二十四日發效、
昭和三十一年十二月十八日日本國加入效力發生、
同月十九日公布條約第二十六號
われら連合國の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に與へた戰爭の慘害から將來の世代を救ひ、基本的人權と人間の尊嚴及び價値と男女及び大小各國の同權とに關する信念をあらためて確認し、正義と條約その他の國際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる條件を確立し、一層大きな自由の中で社會的進歩と生活水準の向上とを促進すること。
竝びに、このために、寛容を實行し、且つ、善良な人として互に平和に生活し、國際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合はせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用ゐないことを原則の受諾と方法の設定によつて確保し、すべての人民の經濟的及び社會的發達を促進するために國際機構を用ゐることを決意して、これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。
よつてわれらの各自の政府は、サン・フランシスコ市に會合し、全權委任状を示してそれが良好妥當であると認められた代表者を通じて、この國際連合憲章に同意したので、ここに國際連合といふ國際機構を設ける。
第一章 目的及び原則
第一條 國際連合の目的は、次のとほりである。
1 國際の平和および安全を維持すること。そのために、平和に對する脅威の防止及び除去と侵略行爲その他の平和の破壞の鎭壓とのため有效な集團的措置をとること竝びに平和を破壞するに至る虞のある國際的の紛爭又は事態の調節又は解決を平和的手段によつて且つ正義及び國際法の原則に從つて實現すること。
2 人民の同權及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸國民の有效關係を發展させること竝びに世界平和を強化するために他の適當な措置をとること。
3 經濟的、社會的、文化的又は人道的性質を有する國際問題を解決することについて、竝びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人權及び基本的自由を尊重するやうに助長奬勵することについて、國際協力を達成すること。
4 これらの共通の目的に當つて諸國の行動を調和するための中心となること。
第二條 この機關及びその加盟國は、第一條に掲げる目的を達成するに當つては、次の原則に從つて行動しなければならない。
1 この機關は、そのすべての加盟國の主權平等の原則に基礎をおいてゐる。
2 すべての加盟國は、加盟國の地位から生ずる權利及び利益を加盟國のすべてに保障するために、この憲章に從つて負つてゐる義務を誠實に履行しなければならない。
3 すべての加盟國は、その國際紛爭を平和的解決手段によつて國際の平和及び安全竝びに正義を危ふくしないやうに解決しなければならない。
4 すべての加盟國は、その國際關係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる國の領土保全又は政治的獨立に對するものも、また、國際連合の目的と兩立しない他のいかなる方法によるものも愼まなければならない。
5 すべての加盟國は、國際連合がこの憲章に從つてとるいかなる行動についても國際連合にあらゆる援助を與へ、且つ、國際連合の防止行動又は強制行動の對象となつてゐるいかなる國に對しても援助の供與を愼まなければならない。
6 この機構は、國際連合加盟國でない國が、國際の平和及び安全の維持に必要な限り、これらの原則に從つて行動することを確保しなければならない。
7 この憲章のいかなる規定も、本質上いづれかの國の國内管轄權内にある事項に干渉する權原を國際連合に與へるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟國に要求するものでもない。但し、この權原は、第七章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。
第二章 加盟國の地位
第三條 國際連合の原加盟國とは、サン・フランシスコにおける國際機構に關する連合國協議に參加した國又はさきに千九百四十二年一月一日の連合國宣言に署名した國で、この憲章に署名し、且つ、第百十條に從つてこれを批准するものをいふ。
第四條
1 國際連合における加盟國の地位は、この憲章に掲げる義務を受諾し、且つ、この機構によつてこの義務を履行する能力及び意思があると認められる他のすべての平和愛好國に開放されてゐる。
2 前記の國が國際連合加盟國となることの承認は、安全保障理事會の勸告に基いて、總會の決定によつて行はれる。
第五條 安全保障理事會の防止行動又は強制行動の對象となつた國際連合加盟國に對しては、總會が、安全保障理事會の勸告に基いて、加盟國としての權利及び特權の行使を停止することができる。これらの權利及び特權の行使は、安全保障理事會が回復することができる。
第六條 この憲章に掲げる原則に執拗に違反した國際連合加盟國は、總會が安全保障理事會の勸告に基いて、この機構から除名することができる。
第三章 機關
第七條
1 國際連合の主要機關として、總會、安全保障理事會、經濟社會理事會、信託統治理事會、國際司法裁判所及び事務局を設ける。
2 必要と認められる補助機關は、この憲章に從つて設けることができる。
第八條 國際連合は、その主要機關及び補助機關に男女がいかなる地位にも平等の條件で參加する資格があることについて、いかなる制限も設けてはならない。
第四章 總會
第九條
1 總會は、すべての國際連合加盟國で構成する。
2 各加盟國は、總會において五人以下の代表者を有するものとする。
第十條 總會は、この憲章の範圍内に有る問題若しくは事項又はこの憲章に規定する機關の權原及び任務に關する問題若しくは事項を討議し、竝びに、第十二條に規定する場合を除く外、このやうな問題又は事項について國際連合加盟國若しくは安全保障理事會又はこの兩者に對して勸告することができる。
第十一條
1 總會は、國際の平和及び安全の維持についての協力に關する一般原則を、軍備縮小及び軍備規則を律する原則も含めて、審議し、竝びにこのやうな原則について加盟國若しくは安全保障理事會又はこの兩者に對して勸告することができる。
2 總會は、國際連合加盟國若しくは安全保障理事會によつて、又は第三十五條2に從ひ國際連合加盟國でない國によつて總會に付託される國際の平和及び安全の維持に關するいかなる問題も討議し、竝びに、第十二條に規定する場合を除く外、このやうな問題について、一若しくは二以上の關係國又は安全保障理事會あるいはこの兩者に對して勸告をすることができる。このやうな、問題で行動を必要とするものは、討議の前又は後に、總會によつて安全保障理事會に付託されなければならない。
3 總會は、國際の平和及び安全を危くする虞のある事態について、安全保障理事會の注意を促すことができる。
4 本條に掲げる總會の權原は、第十條の一般的範圍を制限するものではない。
第十二條
1 安全保障理事會がこの憲章によつて與へられた任務をいづれかの紛爭又は事態について遂行してゐる間は、總會は、安全保障理事會が養成しない限り、この紛爭又は事態について、いかなる勸告もしてはならない。
2 事務總長は、國際の平和及び安全の維持に關する事項で安全保障理事會が取り扱つてゐるものを、その同意を得て、會期ごとに總會に對して通告しなければならない。事務總長は、安全保障理事會がその事項を取り扱ふことをやめた場合にも、直ちに、總會又は、總會が開會中でないときは、國際連合加盟國に對して同樣に通告しなければならない。
第十三條
1 總會は、次の目的のために研究を發議し、及び勸告をする。
a 政治的分野において國際協力を促進すること竝びに國際法の漸進的發達及び法典化を奬勵すること。
b 經濟的、社會的、文化的、教育的及び保險的分野において國際協力を促進すること竝びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人權及び基本的自由を實現するやうに援助すること。
2 前記の1bに掲げる事項に關する總會の他の責任、任務及び權原は、第九章及び第十章に掲げる。 第十四條 第十二條の規定を留保して、總會は、起因にかかはりなく、一般的福祉又は諸國間の友好關係を害する虞があると認めるいかなる事態についても、これを平和的に調整するための措置を勸告することができる。この事態には、國際連合の目的及び原則を定めるこの憲章の規定の違反から生ずる事態が含まれる。
第十五條
1 總會は、安全保障理事會から年次報告及び特別報告を受け、これを審議する。この報告は、安全保障理事會が國際の平和及び安全を維持するために決定し、又はとつた措置の説明を含まなければならない。
2 總會は、國際連合の他の機關から報告を受け、これを審議する。
第十六條 總會は、第十二章及び第十三章に基いて與へられる國際信託統治制度に關する任務を遂行する。この任務には、戰略地區として指定されてゐない地區に關する信託統治協定の承認が含まれる。
第十七條
1 總會は、この機構の豫算を審議し、且つ、承認する。
2 この機構の經費は、總會によつて割り當てられるところに從つて、加盟國が負擔する。
3 總會は、第五條に掲げる專門機關との財政上及び豫算上の取極を審議し、且つ、承認し、竝びに、當該專門機關に勸告する目的で、この專門機關の行政的豫算を檢査する。
第十八條
1 總會の各構成國は、一個の投票權を有する。
2 重要問題に關する總會の決定は、出席し且つ投票する構成國の三分の二の多數によつて行はれる。重要問題には、國際の平和及び安全の維持に關する勸告、安全保障理事會の日常任理事國の選擧、經濟社會理事會の理事國の選擧、新加盟國の國際連合への加盟の承認、加盟國としての權利及び特權の停止、加盟國の除名、信託統治制度の運用に關する問題竝びに豫算問題が含まれる。
3 その他の問題に關する決定は、三分の二の多數によつて決定されるべき問題の新たな部類の決定を含めて、出席し且つ投票する構成國の過半數によつて行はれる。 第十九條 この機構に對する分擔金の支拂が延滯してゐる國際連合加盟國は、その延滯金の額がその時までの滿二年間にその國から支拂はれるべきであつた分擔金の額に等しいか又はこれをこえるときは、總會で投票權を有しない。但し、總會は、支拂の不履行がこのやうな加盟國にとつてやむを得ない事情によると認めるときは、その加盟國に投票を許すことができる。
第二十條 總會は、年次通常會期として、また、必要がある場合に特別會期として會合する。特別會期は、安全保障理事會の要請又は國際連合加盟國の過半數の要請があつたとき、事務總長が招集する。
第二十一條 總會は、その手續規則を採擇する。總會は、その議長を會期ごとに選擧する。
第二十二條 總會は、その任務の遂行に必要と認める補助機關を設けることができる。
第五章 安全保障理事會
第二十三條
1 安全保障理事會は、十五の國際連合加盟國で構成する。中華民國、フランス、ソヴィエト社會主義共和國連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合國及びアメリカ合衆國は、安全保障理事會の常任理事國となる。總會は、第一に國際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに對する國際連合加盟國の貢獻に、更に衡平な地理的分配に特に妥當な考慮を拂つて、安全保障理事會の非常任理事國となる他の十の國際連合加盟國を選擧する。
2 安全保障理事會の非常任理事國は、二年の任期で選擧される。安全保障理事會の理事國の定數が十一から十五に增加された後の第一回の非常任理事國の選擧では、追加の四理事國のうち二理事國は、一年の任期で選ばれる。退任理事國は、引き續いて再選される資格がない。
3 安全保障理事會の各理事國は、一人の代表者を有する。
第二十四條
1 國際連合の迅速且つ有效な行動を確保するために、國際連合加盟國は、國際の平和及び安全の維持に關する主要な責任を安全保障理事會に負はせるものとし、且つ、安全保障理事會がこの責任に基く義務を果たすに當つて加盟國に代わつて行動することに同意する。
2 前記の義務を果たすに當つては、安全保障理事會は、國際連合の目的及び原則に從つて行動しなければならない。この義務を果たすために安全保障理事會に與へられる特定の權限は、第六章、第七章、第八章及び第十二章で定める。
3 安全保障理事會は、年次報告を、また、必用があるときは特別報告を總會に審議のために提出しなければならない。
第二十五條 國際連合加盟國は、安全保障理事會の決定をこの憲章に從つて受諾し且つ履行することに同意する。
第二十六條 世界の人的及び經濟的資源を軍備のために轉用することを最も少くして國際の平和及び安全の確立及び維持を促進する目的で、安全保障理事會は、軍備規則の方式を、確立するため國際連合加盟國に提出される計畫を、第四十七條に掲げる軍事參謀委員會の援助を得て、作成する責任を負ふ。
第二十七條
1 安全保障理事會の各理事國は、一個の投票權を有する。
2 手續事項に關する安全保障理事會の決定は、九理事國の贊成投票によつて行はれる。
3 その他のすべての事項に關する安全保障理事會の決定は、常任理事國の同意投票を含む九理事國の贊成投票によつて行はれる。但し、第六章及び第五十二條3に基く決定については、紛爭當事國は、投票を棄權しなければならない。
第二十八條
1 安全保障理事會は、維持して任務を行ふことができるやうに組織する。このために、安全保障理事會の各理事國は、この機構の所在地に常に代表者を置かなければならない。
2 安全保障理事會は、定期會議を開く。この會議においては、各理事國は、希望すれば、閣員又は特に指名する他の代表者によつて代表されることがある。
3 安全保障理事會は、その事業を最も容易にすると認めるこの機構の所在地以外の場所で、會議を開くことができる。
第二十九條 安全保障理事會は、その任務の遂行に必用と認めらる補助機關を設けることができる。
第三十條 安全保障理事會は、議長を選定する方法を含むその手續規則を採擇する。
第三十一條 安全保障理事會の理事國でない國際連加盟國又は、安全保障理事會の理事國でない國際連合加盟國は、安全保障理事會理事會に付託された問題について、理事會がこの加盟國の利害に特に影響があると認めるときはいつでも、この問題の討議に投票權なしで參加することができる。
第三十二條 安全保障理事會の理事國でない國際連合加盟國又は國際連合加盟國でない國は、安全保障理事會の審議中の紛爭の當事者であるときは、この紛爭に關する討議に投票權なしで參加するやうに勸誘されなければならない。安全保障理事會は、國際連合加盟國でない國の參加のために公正と認める條件を定める。
第六章 紛爭の平和的解決
第三十三條
1 いかなる紛爭でもその繼續が國際の平和及び安全の維持を危ふくする虞のあるものについては、その當事者は、まづ第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機關又は地域的取極の利用その他當事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない。
2 安全保障理事會は、必要と認めるときは、當事者に對して、その紛爭を前記の手段によつて解決するやうに要請する。
第三十四條 安全保障理事會は、いかなる紛爭についても、國際的摩擦に導き又は紛爭を發生させる虞のあるいかなる事態についても、その紛爭又は事態の繼續が國際の平和及び安全の維持を危ふくする虞があるかどうかを決定するために調査することができる。
第三十五條
1 國際連合加盟國は、いかなる紛爭についても、第三十四條に掲げる性質のいかなる事態についても、安全保障理事會又は總會の注意を促すことができる。
2 國際連合加盟國でない國は、自國が當事者であるいかなる紛爭についても、この憲章に定める平和的解決の義務をこの紛爭についてあらかじめ受諾すれば、安全保障理事會又は總會の注意を促すことができる。
3 本條に基いて注意を促された事項に關する總會の手續は、第十一條および第十二條の規定に從ふものとする。
第三十六條
1 安全保障理事會は、第三十三條に掲げる性質の紛爭または同樣の性質の事態のいかなる段階においても、適當な調整の手續又は方法を勸告することができる。
2 安全保障理事會は、當事者が既に採用した紛爭解決の手續を考慮に入れなければならない。
3 本條に基いて勸告をするに當つては、安全保障理事會は、法律的紛爭が國際司法裁判所規程の規定に從ひ當事者によつて原則として同裁判所に付託しなければならないことも考慮に入れなければならない。
第七章 平和に對する脅威、平和の破壞及び侵略行爲に關する行動
第三十九條 安全保障理事會は、平和に對する驚異、平和の破壞又は侵略行爲の存在を決定し、竝びに、國際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勸告をし、又は第四十一條および第四十二條に從つていかなる措置をとるかを決定する。
第四十條 事態の惡化を防ぐため、第三十九條の規定により勸告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事會は、必要又は望ましいと認める暫定措置に從ふやうに關係當事者に要請することができる。この暫定措置は、關係當事者の權利、請求權又は地位を害するものではない。安全保障理事會は、關係當事者がこの暫定措置に從はなかつたときは、そのことに妥當な考慮を拂はなければならない。
第四十一條 安全保障理事會は、その決定を實施するために、兵力の使用を伴はないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するやうに國際連合加盟國に要請することができる。この措置は、經濟關係および鐵道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中斷竝びに外交關係の斷絶を含むことができる。
第四十二條 安全保障理事會は、第四十一條に定める措置では不充分であらうと認め、又は、不充分なことが判明したと認めるときは、國際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、國際連合加盟國の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
第四十三條 國際の平和及び安全の維持に貢獻するため、すべての國際連合加盟國は、安全保障理事會の養成に基き且つ一又は二以上の特別協定に從つて、國際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事會に利用させることを約束する。この便益には、通過の權利が含まれる。
2 前記の協定は、兵力の數及び種類、その出動準備程度及び一般的配置竝びに提供されるべき便益及び援助の性質を規定する。
3 前記の協定は、安全保障理事會の發議によつて、なるべくすみやかに交渉する。この規定は、安全保障理事會と加盟國との間に締結され、且つ、署名國によつて各自の憲法上の手續によつて批准されなければならない。
第四十四條 安全保障理事會は、兵力を用ゐることに決定したときは、理事會に代表されてゐない加盟國に對して第四十三條に基いて負つた義務の履行として兵力を提供するやうに要請するする前に、その加盟國が希望すれば、その加盟國の兵力中の割當部隊の使用に關する安全保障理事會の決定に參加するやうにその加盟國を勸誘しなければならない。
第四十五條 國際連合が緊急の軍事措置をとることができるやうにするために、加盟國は、合同の國際的強制行動のため國内空軍割當部隊の數量及び出動程度竝びにその合同行動の計畫は、第四十三條に掲げる一又は二以上の特別協定の定める範圍内で、軍事參謀委員會の援助を得て安全保障理事會が決定する。
第四十六條 兵力使用の計畫は、軍事參謀委員會の援助を得て安全保障理事會が作成する。
第四十七條
1 國際の平和及び安全の維持のための安全保障理事會の軍事的要求、理事會の自由の任された兵力の使用及び指揮、軍備規制竝びに可能な軍備縮小に關するすべての問題について理事會に助言及び援助を與へるために、軍事參謀委員會を設ける。
2 軍事參謀委員會は、安全保障理事會の常任理事國の參謀總長又はその代表で構成する。この委員會に常任委員として代表されてゐない國際連合加盟國は、委員會の責任の有效な遂行のため委員會の事業へのその國の參加が必要であるときは、委員會によつてこれと提携するやうに勸誘されなければならない。
3 軍事參謀委員會は、安全保障理事會の下で、理事會の自由に任された兵力の戰略的指導について責任を負ふ。この兵力の指揮に關する問題は、後に解決する。
4 軍事參謀委員會は、安全保障理事會の許可を得て、且つ、適當な地域的機關と協議した後に、地域的小委員會を設けることができる。
第四十八條
1 國際の平和及び安全の維持のための安全保障理事會の決定を履行するのに必要な行動は、安全保障理事會が定めるところに從つて國際連合加盟國の全部又は一部によつてとられる。
2 前記の決定は、國際連合加盟國によつて直接に、また、國際連合加盟國が參加してゐる適當な國際期間におけるこの加盟國の行動によつて履行される。
第四十九條 國際連合加盟國は、安全保障理事會が決定した措置を履行するに當つて、協同して相互援助を與へなければならない。
第五十條 安全保障理事會がある國に對して防止措置又は強制措置をとつたときは、他の國でこの措置の履行から生ずる特別の經濟問題に自國が當面したと認めるものは、國際連合加盟國であるかどうかを問はず、この問題の解決について安全保障理事會と協議する權利を有する。
第五十一條 この憲章のいかなる規定も、國際連合加盟國に對して武力攻撃が發生した場合には、安全保障理事會が國際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集團的自衞の固有の權利を害するものではない。この自衞權の行使に當つて加盟國がとつた措置は、直ちに安全保障理事會に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事會が國際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く機能及び責任に對しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
第八章 地域的取極
第五十二條
1 この憲章のいかなる規定も、國際の平和及び安全の維持に關する事項で地域的行動に適當なものを處理するための地域的取極又は地域的機關が存在することを妨げるものではない。但し、この取極又は機關及びその行動が國際連合の目的及び原則と一致することを條件とする。
2 前記の取極を締結し、又は前記の機關を組織する國際連合加盟國は、地方的紛爭を安全保障理事會に付託する前に、この地域的取極又は地域的機關によつてこの紛爭を平和的に解決するやうにあらゆる努力をしなければならない。
3 安全保障理事會は、關係國の發意に基くものであるか安全保障理事會からの付記によるものであるかを問はず、前記の地域的取極又は地域的機關による地方的紛爭の平和的解決の發達を奬勵しなければならない。
4 本條は、第三十四條及び第三十五條の適用をなんら害するものではない。
第五十三條
1 安全保障理事會は、その權威の下における強制行動のために、適當な場合には、前記の地域的取極又は地域的機關を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事會の許可がなれけば、地域的取極に基いて又は地域的機關によつてとられてはならない。もつとも、本條2に定める敵國のいづれかに對する措置で、第百七條に從つて規定されるもの又はこの敵國における侵略製作の再現に備へる地域的取極において規定されるものは、關係政府の養成に基いてこの機構がこの敵國による新たな侵略を防止する責任を負ふときまで例外とする。
2 本條1で用ゐる敵國といふ語は、第二次世界對戰中にこの憲章のいづれかの署名國の敵國であつた國に適用される。
第五十四條 安全保障理事會は、國際の平和及び安全の維持のために地域的取極に基いて又は地域的機關によつて開始され又は企圖されてゐる活動について、常に充分に通報されてゐなければならない。
第五十五條 人民の同權及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸國間の平和的且つ友好的關係に必要な安定及び福祉の條件を創造するために、國際連合は、次のことを促進しなければならない。
a 一層高い生活水準、完全雇用竝びに經濟的及び社會的の進歩及び發展の條件。
b 經濟的、社會的及び保健的國際問題と關係國際問題の解決竝びに文化的及び教育的國際協力。
c 人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人種及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守。
第五十六條 すべての加盟國は、第五十五條に掲げる目的を達成するために、この機構と協力して、共同及び個別の行動をとることを誓約する。
第五十七條
1 政府間の協定によつて設けられる各種の專門機關で、經濟的、社會的、文化的、教育的及び保健的分野竝びに關係分野においてその基本的文書で定めるところにより廣い國際的責任を有するものは、第六十三條の規定に從つて國際連合と連携關係をもたされなければならない。
2 かうして國際連合と連携關係をもたされる前記の機關は、以下專門機關といふ。
第五十八條 この機構は、專門機關の政策及び活動を調整するために勸告する。
第五十九條 この機構は、適當な場合には、第五十五條に掲げる目的の達成に必要な新たな專門機關を設けるために關係國間の交渉を發議する。
第六十條 この章に掲げるこの機構の任務を果す責任は、總會及び、總會の權威の下に、經濟社會理事會に課せられる。理事會は、このために第十章に掲げる權限を有する。
第十章 經濟社會理事會
第六十一條
1 經濟社會理事會は、總會によつて選擧される二十七の國際連合加盟國で構成する。
2 3の規定を留保して、經濟社會理事會の九理事國は、三年の任期で毎年選擧される。退任理事國は、引き續いて再選される資格がある。
3 經濟社會理事會の理事國の定數が十八から二十七に增加された後の第一回の選擧では、その年の終りに任期が終了する六理事國に代わつて選擧される理事國に加へて、更に九理事國が選擧される。このやうにして選擧された追加の九理事國のうち三理事國の任期は二年の終りに、他の三理事國の任期は二年の終りに、總會の定めるところに從つて終了する。
4 經濟社會理事國は、一人の代表を有する。
第六十二條
1 經濟社會理事會は、經濟的、社會的、文化的、教育的及び保險的國際事項竝びに關係國際事項に關する研究及び報告を行ひ、又は發議し、竝びにこれらの事項に關して總會、國際連合加盟國及び關係專門機關に勸告をすることができる。
2 理事會は、すべての者のために人權及び基本的自由の尊重及び遵守を助長するために、勸告をすることができる。
3 理事會は、その權限に屬する事項について、總會に提出するための條約案を作成することができる。
4 理事會は、國際連合の定める規則について國際會議を招集することができる。
第六十三條
1 經濟社會理事會は、第五十七條に掲げる機關のいづれとの間にも、その機關が國際連合と連帶關係をもたされるについての條約を定める協定を締結することができる。この協定は、總會の承認を受けなければならない。
2 理事會は、專門機關との協議及び專門機關に對する勸告竝びに總會及び國際連合加盟國に對する勸告によつて、專門機關の活動を調整することができる。
第六十四條
1 經濟社會理事會は、專門機關から定期報告をうけるために、適當な措置をとることができる。理事會は、理事會の勸告と理事會の權限に屬する事項に關する總會の勸告とを實施するためにとられた措置について報告を受けるため、國際連合加盟國及び專門機關と取極を行ふことができる。
2 理事會は、前記の報告に關するその意見を總會に通報することができる。
第六十五條 經濟社會理事會は、安全保障理事會の情報を提供することができる。經濟社會理事會は、また、安全保障理事會の要請があつたときは、これを援助しなければならない。
第六十六條
1 經濟社會理事會は、總會の勸告の履行に關して、自己の權限に屬する任務を遂行しなければならない。
2 理事會は、國際連合加盟國の要請があつたとき、又は專門機關の要請があつたときは、總會の承認を得て役務を提供することができる。
3 理事會は、この憲章の他の箇所に定められ、又は總會のよつて自己に與へられるその他の任務を遂行しなければならない。
第六十七條
1 經濟社會理事會の各理事國は、一個の投票權を有する。
2 經濟社會理事會の決定は、出席し、且つ投票する理事國の過半數によつて行はれる。
第六十八條 經濟社會理事會は、經濟的及び社會的分野における委員會、人權の伸長に關する委員會竝びに自己の任務の遂行に必要なその他の委員會を設ける。
第六十九條 經濟社會理事會は、いづれの國際連合加盟國に對しても、その加盟國に特に關係のある事項についての審議に投票權なしで參加するやうに勸誘しなければならない。
第七十條 經濟社會理事會は、專門機關の代表者が理事會の審議及び理事會の設ける委員會の審議に投票權なしで參加するための取極竝びに理事會の代表者が專門機關の審議に參加するための取極を行ふことができる。
第七十一條 經濟社會理事會は、その權限内にある事項に關係のある民間團體と協議するために、適當な取極を行ふことができる。この取極は、國際團體との間に、また、適當な場合には、關係ある國際連合加盟國と協議した後に國内團體との間に行ふことができる。
第七十二條
1 經濟社會理事會は、議長を選定する方法を含むその手續規則を採擇する。
2 經濟社會理事會は、その規則に從つて必要があるときに會合する。この規則は、理事國の過半數の要請による會議招集の規則を含まなければならない。
第十一章 非自治地域に關する宣言
第七十三條 人民がまだ完全には自治を行ふに至つてない地域の施政を行ふ責任を有し、又は引き受ける國際連合加盟國は、この地域の住民の利益が至上のものであるといふ原則を承認し、且つ、この地域の住民の福祉をこの憲章の確立する國際の平和及び安全の制度内で最高度まで增進する義務竝びにそのために次のことを行ふ義務を神聖な信託として受諾する。
a 關係人民の文化を充分に尊重して、この人民の政治的、經濟的、社會的及び教育的進歩、公正な待遇竝びに虐待からの保護を確保すること。
b 各地域及びその人民の特殊事情竝びに人民の進歩の異なる段階に應じて、自治を發達させ、人民の政治的願望に妥當な考慮を拂ひ、且つ、人民の自由な政制度の漸進的發達について人民を援助すること。
c 國際の平和及び安全を增進すること。
d 本條に掲げる社會的、經濟的及び科學的目的を實際に達成するために、建設的な發展措置を促進し、研究を奬勵し、且つ、相互に及び適當な場合には專門國際團體と協力すること。
e 第十二章及び第十三章の適用を受ける地域を除く外、前記の加盟國がそれぞれ責任を負ふ地域における經濟的、社會的及び教育的状態に關する專門的性質の統計その他の資料を、安全保障及び憲法上の考慮から必要な制限に從ふことを條件として事務總長に定期的に送付すること。
第七十四條 國際連合加盟國は、また、本章の適用を受ける地域に關するその政策を、その本土に關する政策と同樣に、世界の他の地域の利益及び福祉に妥當な考慮を拂つた上で、社會的、經濟的及び商業的事項に關して善隣主義の一般原則に基かせなければならないことに同意する。
第十二章 國際信託當地制度
第七十五條 國際連合は、その權威の下に、國際信託統治制度を設ける。この制度は、今後の個個の協定によつてこの制度の下におかれる地域の施政及び監督を目的とする。この地域は、以下信託統治地域といふ。
第七十五條 國際連合は、その權威の下に、國際信託統治制度を設ける。この制度は、今後の個個の協定によつてこの制度の下におかれる地域の施政及び監督を目的とする。この地域は、以下信託統治地域といふ。
第七十六條 信託統治制度の基本目的は、この憲章の第一條に掲げる國際連合の目的に從つて、次のとほりとする。
a 國際の平和及び安全を增進すること。
b 信託統治地域の住民の政治的、經濟的、社會的及び教育的進歩を促進すること。各地域及びその人民の特殊事情竝びに關係人民が自由に表明する願望に適用するやうに、且つ、各信託統治協定の條項が規定するところに從つて、自治又は獨立に向つての住民の漸進的發達を促進すること。
c 人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人權及び基本的自由を尊重するやうに奬勵し、且つ、世界の人民の相互依存の認識を助長すること。
第七十七條
1 信託統治制度は、次の種類の地域で信託統治協定によつてこの制度の下におかれるものに適用する。
a 現に委任統治の下にある地域。
b 第二次世界戰爭の結果として敵國から分離される地域。
c 施政について責任を負ふ國によつて自發的にこの制度の下におかれる地域。
2 前記の種類のうちのいづれの地域がいかなる條件で信託統治制度の下におかれるかについては、今後の協定で定める。
第七十八條 國際連合加盟國の間の關係は、主權平等の原則の尊重を基礎とするから、信託統治制度は、加盟國となつた地域には適用しない。
第七十九條 信託統治制度の下におかれる各地域に關する信託統治の條項は、いかなる變更又は改正も含めて、直接關係國によつて協定され、且つ、第八十三條及び第八十五條に規定するところに從つて承認されなければならない。この直接關係國は、國際連合加盟國の委任統治の下にある地域の場合には、受任國を含む。
第八十條
1 第七十七條、第七十九條及び第八十一條に基いて締結され、各地域を信託統治制度の下におく個個の信託統治協定において協定されるところを除き、また、このやうな協定がされる時まで、本章の規定は、いづれの國又はいづれの人民のいかなる權利をも、また、國際連合加盟國がそれぞれ當事國となつてゐる現存の國際文書の條項をも、直接又は間接にどのやうにも變更するものと解釋してはならない。
2 本條1は、第七十七條に規定するところに從つて委任統治地域及びその他の地域を信託統治制度の下に置くための協定の交渉及び締結の遲滯又は延期に對して、根據を與へるものと解釋してはならない。
第八十一條 信託統治協定は、各場合において、信託統治地域の施政を行ふについての條件を含み、且つ、信託統治地域の施政を行う當局を指定しなければならない。この當局は、以下施政權者といひ、一若しくは二以上の國又はこの機械自身であることができる。
第八十二條 いかなる信託統治協定においても、その協定が適用される信託統治地域の一部又は全部を含む一又は二以上の戰略地區を指定することができる。但し、第四十三條に基いて締結される特別協定を害してはならない。
第八十三條
1 戰略地區に關する國際連合のすべての任務は、信託統治協定の條項及びその變更又は改正の承認を含めて安全保障理事會が行ふ。
2 第七十六條に掲げる基本目的は、各戰略地區の人民に適用する。
3 安全保障理事會は、國際連合の信託統治制度に基く任務で戰略地區の政治的、經濟的、社會的及び教育的事項に關するものを遂行するために、信託統治協定の規定には從ふものとし、また、安全保障の考慮が妨げられてはならない。
第八十四條 信託統治地域が國際の平和及び安全の維持についてその役割を果たすやうにすることは、施政權者の義務である。このため、施政權者は、この點に關して安全保障理事會に對して負ふ義務を履行するに當つて、また、地方的防衞竝びに信託統治地域における法律及び秩序の維持のために、信託統治地域の義勇軍、便益及び援助を利用することができる。
第八十五條
1 戰略地區として指定されないすべての地區に關する信託統治協定についての國際連合の任務は、この協定の條項及びその變更又は改正の承認を含めて、總會が行ふ。
2 總會の權威の下に行動する信託統治理事會は、前記の任務の遂行について總會を援助する。
第十三章 信託統治理事會
第八十六條
1 信託統治理事會は、次の國際連合加盟國で構成する。
a 信託統治地域の施政を行う加盟國。
b 第二十三條に名を掲げる加盟國で信託統治地域の施政を行つてゐないもの。
c 總會によつて三年の人氣で選擧されるその他の加盟國。その數は、信託統治理事會の理事國の總數を、信託統治地域の施政を行ふ國際連合加盟國とこれを行つてゐないものとの間に均分するのに必要な數とする。
2 信託統治理事會の各理事國は、理事會で自國を代表する特別の資格を有する者一人を指名しなければならない。
第八十七條 總會及びその權威の下に、信託統治理事會は、その任務の遂行に當つて次のことを行ふことができる。
a 施政權者の提出する報告を審議すること。
b 請願を受理し、且つ、施政權者と協議してこれを審査すること。
c 施政權者と協定する時期に、それぞれの信託統治地域の定期視察を行はせること。
d 信託統治協定の條項に從つて、前記の行動その他の行動をとること。
第八十八條 信託統治理事會は、各信託統治地域の住民の政治的、經濟的、社會的及び教育的進歩に關する質問書を作成しなければならない。また、總會の權限内にある各信託統治地域の施政權者は、この質問書に基いて、總會に年次報告を提出しなければならない。
第八十九條
1 信託統治理事會の各理事國は、一個の投票權を有する。
2 信託統治理事會の決定は、出席し且つ投票する理事國の過半數によつて行はれる。
第九十條
1 信託統治理事會は、議長を選定する方法を含むその手續規則を採擇する。
2 信託統治理事會は、その規則に從つて必要があるときに會合する。この規則は、理事國の過半數の要請による會議招集の規定を含まなければならない。
第九十一條 信託統治理事會は、適當な場合には、經濟社會理事會及び專門機關がそれぞれ關係してゐる事項について、兩者の援助を利用する。
第十四章 國際司法裁判所
第九十二條 國際司法裁判所は、國際連合の主要な司法機關である。この裁判所は、附屬の規程に從つて任務を行ふ。この規程は、常設國際司法裁判所規程を基礎とし、且つ、この憲章と不可分の一體をなす。
第九十三條
1 すべての國際連合加盟國は、當然に、國際司法裁判所規程の當事國となる。
2 國際連合加盟國でない國は、安全保障理事會の勸告に基いて總會が各場合に決定する條件で國際司法裁判所規程の當事國となることができる。
第九十四條
1 各國際連合加盟國は、自國が當事者であるいかなる事件においても、國際司法裁判所の裁判に從ふことを約束する。
2 事件の一方の當事者が裁判所の與へる判決に基いて自國が負ふ義務を履行しないときは、他方の當事者は、安全保障理事會に訴へることができる。理事會は、必要と認めるときは、判決を執行するために勸告をし、又はとるべき借置を決定することができる。
第九十五條 この憲章のいかなる規定も、國際連合加盟國が相互間の紛爭の解決を既に存在し又は將來締結する協定によつて他の裁判所に付託することを防げるものではない。
第九十六條
1 總會又は安全保障理事會は、いかなる法律問題についても勸告的意見を與へるやうに國際司法裁判所に要請することができる。
2 國際連合のその他の機關及び專門機關でいづれかの時に總會の許可を得るものは、また、その活動の範圍内において生ずる法律問題について裁判所の勸告的意見を要請することができる。
第十五章 事務局
第九十七條 事務局は、一人の事務總長及びこの機構が必要とする職員からなる。事務總長は、安全保障理事會の勸告に基いて總會が任命する。事務總長は、この機構の行政職員の長である。
第九十八條 事務總長は、總會、安全保障理事會、經濟社會理事會及び信託統治理事會のすべての會議において事務總長の資格で行動し、且つ、これらの機關から委託される他の任務を遂行する。事務總長は、この機構の事務について總會に年次報告を行ふ。
第九十九條 事務總長は、國際の平和及び安全の維持を脅威とすると認める事項について、安全保障理事會の注意を促すことができる。
第百條
1 事務總長及び職員は、その任務の遂行に當つて、いかなる政府からも又はこの機構外のいかなる他の當局からも指示を求め、又は受けてはならない。事務總長及び職員は、この機構に對してのみ責任を負ふ國際的職員としての地位を損ずる虞のあるいかなる行動も愼まなければならない。
2 各國際連合加盟國は、事務總長及び職員の責任のもつぱら國際的な性質を尊重すること竝びにこれらの者が責任を果すに當つてこれらの者を左右しようとしないことを約束する。
第百一條
1 職員は、總會が設ける規則に從つて事務總長が任命する。
2 經濟社會理事會、信託統治理事會及び、必要に應じて、國際連合のその他の機關に、適當な職員を常任として配屬する。この職員は、事務局の一部をなす。
3 職員の雇用及び勤務條件の決定に當つて最も考慮すべきことは、最高水準の能率、能力及び誠實を確保しなければならないことである。職員をなるべく廣い地理的基礎に基いて採用することの重要性については、妥當な考慮を拂はなければならない。
第十六章 雜則
第百二條
1 この憲章が效力を生じた後に國際連合加盟國が締結するすべての條約及びすべての國際協約は、なるべくすみやかに事務局に登錄され、且つ、事務局によつて公表されなければならない。
2 前記の條約又は國際協約で本條1の規定に從つて登錄されてゐないものの當自國は、國際連合のいかなる機關に對しても當該條約又は協定を援用することができない。
第百三條 國際連合加盟國のこの憲章に基く義務と他のいづれかの國際協定に基く義務とが抵觸するときは、この憲章に基く義務が優先する。
第百四條 この機構は、その任務の遂行及びその目的の達成のために必要な法律上の能力を各加盟國の領域において享有する。
第百五條
1 この機構は、その目的の達成に必要な特權及び免除を各加盟國の領域において享有する。
2 これと同樣に、國際連合加盟國の代表者及びこの機構の職員は、この機構に關連する自己の任務を獨立に遂行するために必要な特權及び免除を享有する。
3 總會は、本條1及び2の適用に關する細目を決定するために勸告をし、又はそのために國際連合加盟國に條約を提案することができる。
第十七章 安全保障の過渡的規定
第百六條 第四十三條に揚げる特別協定でそれによつて安全保障理事會が第四十二條に基く責任の遂行を開始することができると認めるものが效力を生ずるまでの間、千九百四十三年十月三十日にモスコーで署名された四國宣言の當事國及びフランスは、この宣言の第五項の規定に從つて、國際の平和及び安全の維持のために必要な共同行動をこの機構に代つてとるために相互に及び必要に應じて他の國際連合加盟國と協議しなければならない。
第百七條 この憲章のいかなる規定も、第二次世界戰爭中にこの憲章の署名國の敵であつた國に關する行動でその行動について責任を有する政府がこの戰爭の結果としてとり又は許可したものを無效にし、又は排除するものではない。
第十八章 改正
第百八條 この憲章の改正は、機會の構成國の三分の二の多數で採擇され、且つ、安全保障理事會のすべての常任理事會を含む國際連合加盟國の三分の二によつて各自の憲法上の手續に從つて批准された時に、すべての國際連合加盟國に對して效力を生ずる。
第百九條
1 この憲章を再審議するための國際連合加盟國の全體會議は、總會の構成國の三分二の多數及び安全保障理事會の九理事國の投票によつて決定される日及び場所で開催することができる。各國際連合加盟國は、この會議において一個の投票權を有する。
2 全體會議の三分の二の多數によつて勸告されるこの憲章の變更は、安全保障理事會のすべての常任理事國を含む國際連合加盟國の三分の二によつて各自の憲法上の手續に從つて批准された時に效力を生ずる。
3 この憲章の效力發生後の總會の第十回年次會期までに全體會議が開催されなかつた場合には、これを招集する提案を總會の第十回年次會期の議事日程に加へなければならず、全體會議は、總會の構成國の過半數及び安全保障理事會の七理事國の投票によつて決定されたときに開催しなければならない。
第十九章 批准及び署名
第百十條
1 この憲章は、署名國によつて各自の憲法條の手續に從つて批准されなければならない。
2 批准書は、アメリカ合衆國政府に寄託される。同政府は、すべての署名國及びこの機構の事務總長が任命された場合には、事務總長に對して各寄託を通告する。
3 この憲章は、中華民國、フランス、ソヴィエト社會主義共和國連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王國、アメリカ合衆國及びその他の署名國の過半數が批准書を寄託した時に效力を生ずる。批准書寄託調書は、その時にアメリカ合衆國政府が作成し、その謄本のすべての署名國に送付する。
4 この憲章の署名國で憲章が效力を生じた後に批准するものは、各自の批准書の寄託の日に國際連合の原加盟國となる。
第百十一條 この憲章は、中國語、フランス語、ロシア語、英語及びスペイン語の本文をひとしく正文とし、アメリカ合衆國政府の記錄に寄託しておく。この憲章の認證謄本は、同政府が他の署名國の政府に送付する。
以上の證據として、連合國政府の代表者は、この憲章に署名した。
千九百四十五年六月二十六日にサン・フランシスコ市で作成した。
【資料番號 二十三】ポツダム宣言(附録 カイロ宣言)
昭和二十年七月二十六日署名、同年八月十四日日本國受諾
一 吾等合衆國大統領、中華民國政府主席及グレート・ブリテン國總理大臣は、吾等の數億の國民を代表し、協議の上、日本國に對し、今次の戰爭を終結するの機會を與ふることに意見一致せり。
二 合衆國、英帝國及中華民國の巨大なる陸、海、空軍は、西方より自國の陸軍及空軍に依る數倍の增強を受け、日本國に對し最後的打撃を加ふるの態勢を整へたり。右軍事力は、日本國が抵抗を終止するに至る迄同國に對し戰爭を遂行するの一切の聯合國の決意に依り支持せられ、且鼓舞せられ居るものなり。
三 蹶起せる世界の自由なる人民の力に對するドイツ國の無益且無意義なる抵抗の結果は、日本國國民に對する先例を極めて明白に示すものなり。現在日本國に對し集結しつつある力は、抵抗するナチスに對し適用せられたる場合に於て全ドイツ國人民の土地、産業及生活樣式を必然的に荒廢に歸せしめたる力に比し、測り知れざる程更に強大なるものなり。吾等の決意に支持せらるる吾等の軍事力の最高度の使用は、日本國軍隊の不可避且完全なる破壞を意味すべく、又同樣必然的に日本國本土の完全なる破壞を意味すべし。
四 無分別なる打算に依り日本帝國を滅亡の淵に陥れたる我儘なる軍國主義的助言者に依り日本國が引續き統御せらるべきか、又は理性の經路を日本國が履むべきかを日本國が決定すべき時期は、到來せり。
五 吾等の條件は、左の如し。
吾等は右條件より離脱することなかるべし。右に代る條件存在せず。吾等は、遲延を認むるを得ず。
六 吾等は、無責任なる軍國主義が世界より驅逐せらるるに至る迄は、平和、安全及正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるを以て、日本國國民を欺瞞し、之をして世界征服の擧に出づるの過誤を犯さしめたる者の權力及勢力は、永久に除去せられざるべからず。
七 右の如き新秩序が建設せられ、且日本國の戰爭遂行能力が破碎せられたることの確證あるに至る迄は、聯合國の指定すべき日本國領域内の諸地點は、吾等の茲に指示する基本的目的の達成を確保する爲占領せらるべし。
八 カイロ宣言の條項は、履行せらるべく、又日本國の主權は、本州、北海道、九州及四國竝に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし。
九 日本國軍隊は、完全に武裝を解除せられたる後、各自の家庭に復歸し、平和的且生産的の生活を營むの機會を得しめられるべし。
十 吾等は、日本人を民族として奴隷化せんとし、又は國民として滅亡せしめんとするの意圖を有するものに非ざるも、吾等の俘虜を虐待せる者を含む一切の戰爭犯罪人に對しては、嚴重なる處罰を加へらるべし。日本國政府は、日本國國民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障礙を除去すべし。言論、宗教及思想の自由竝に基本的人權の尊重は、確立せらるべし。
十一 日本國は、其の經濟を支持し、且公正なる實物賠償の取立を可能ならしむるが如き産業を維持することを許さるべし。但し、日本國をして戰爭の爲再軍備を爲すことを得しむるが如き産業は、此の限りに在らず。右目的の爲、原料の入手(其の支配とは之を區別す)を許可さるべし。日本國は、將來世界貿易關係への參加を許さるべし。
十二 前記諸目的が達成せられ、且日本國國民の自由に表明せる意思に從ひ平和的傾向を有し且責任ある政府が樹立せらるるに於ては、聯合國の占領軍は、直に日本國より撤收せらるべし。
十三 吾等は、日本國政府が直に全日本國軍隊の無條件降伏を宣言し、且右行動に於ける同政府の誠意に付、適當且充分なる保障を提供せんことを同政府に對し要求す。
右以外の日本國の選擇は、迅速且完全なる壞滅あるのみとす。
(附録)
カイロ宣言(米英中共同聲明、昭和十八年十一月二十七日發表)
各軍事使節は、日本國に對する將來の軍事行動を協定した。
三大同盟國は、海路、陸路及び空路によつて野蠻な敵國に假借のない壓力を加へる決意を表明した。この壓力は、既に增大しつつある。
三大同盟國は、日本國の侵略を制止し罰するため、今次の戰爭を行つてゐる。
同盟國は、自國のためには利得も求めず、また、領土擴張の念も有しない。
同盟國の目的は、千九百十四年の第一次世界戰爭の開始以後に日本國が奪取し又は占領した太平洋におけるすべての島を日本國から剥奪すること、竝びに滿洲、臺灣及び澎湖島のような日本國が清國人から盜取したすべての地域を中華民國に返還することにある。
日本國は、また、暴力及び強慾により日本國が略取した他のすべての地域から驅逐される。
前記の三大國は、朝鮮の人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自由獨立のものにする決意を有する。
以上の目的で、三同盟國は、同盟諸國中の日本國と交戰中の諸國と協議し、日本國の無條件降伏をもたらすのに必要な重大で長期間の行動を續行する。
【資料番號 二十四】大東亞戰爭終結ノ詔書
昭和二十年八月十四日
朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク
朕ハ帝國政府ヲシテ米英支蘇四國ニ對シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ
抑々帝國臣民ノ康寧ヲ圖リ萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ皇祖皇宗ノ遺範ニシテ朕ノ拳々措カサル所曩ニ米英二國ニ宣戰セル所以モ亦實ニ帝國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵スカ如キハ固ヨリ朕カ志ニアラス然ルニ交戰已ニ四歳ヲ閲シ朕カ陸海將兵ノ勇戰朕カ百僚有司ノ勵精朕カ一億衆庶ノ奉公各々最善ヲ盡セルニ拘ラス戰局必スシモ好轉セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス加之敵ハ新ニ殘虐ナル爆彈ヲ使用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ惨害ノ及フ所眞ニ測ルヘカラサルニ至ル而モ尚交戰ヲ繼續セムカ終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招來スルノミナラス延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ斯ノ如クムハ朕何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ是レ朕カ帝國政府ヲシテ共同宣言ニ応セシムルニ至レル所以ナリ
朕ハ帝國ト共ニ終始東亞ノ解放ニ協力セル諸盟邦ニ対シ遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス帝國臣民ニシテ戰陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ五内爲ニ裂ク且戰傷ヲ負ヒ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕ノ深ク軫念スル所ナリ惟フニ今後帝國ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス爾臣民ノ衷情モ朕善ク之ヲ知ル然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス
朕ハ茲ニ國體ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ若シ夫レ情ノ激スル所濫ニ事端ヲ滋クシ或ハ同胞排擠互ニ時局ヲ亂リ爲ニ大道ヲ誤リ信義ヲ世界ニ失フカ如キハ朕最モ之ヲ戒ム宜シク擧國一家子孫相傳ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道遠キヲ念ヒ總力ヲ將來ノ建設ニ傾ケ道義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ國體ノ精華ヲ發揚シ世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ爾臣民其レ克ク朕カ意ヲ體セヨ
【資料番號 二十五】降伏文書
昭和二十年九月二日署名
下名ハ、茲ニ、合衆國、中華民國及グレート・ブリテン國ノ政府ノ首班ガ、千九百四十五年七月二十六日ポツダムニ於テ發シ後ニソヴィエット社會主義共和國聯邦ガ參加シタル宣言ノ條項ヲ、日本國天皇、日本國政府及日本帝國大本營ノ命ニ依リ且之ニ代リ受諾ス。右四國ハ、以下之ヲ聯合國ト稱ス。
下名ハ、茲ニ、日本帝國大本營竝ニ何レノ位置ニ在ルヲ問ハズ、一切ノ日本國軍隊及日本國ノ支配下ニ在ル一切ノ軍隊ノ聯合國ニ對スル無條件降伏ヲ布告ス。
下名ハ、茲ニ、何レノ位置ニ在ルヲ問ハズ、一切ノ日本國軍隊及日本國臣民ニ對シ敵對行爲ヲ直ニ終止スルコト、一切ノ船舶、航空機竝ニ軍用及非軍用財産ヲ保存シ、之ガ毀損ヲ防止スルコト、及聯合國最高司令官又ハ其ノ指示ニ基キ、日本國政府ノ諸機關ノ課スベキ一切ノ要求ニ應ズルコトヲ命ズ。
下名ハ、茲ニ、日本帝國大本營ガ、何レノ位置ニ在ルヲ問ハズ、一切ノ日本國軍隊及日本國ノ支配下ニ在ル一切ノ軍隊ノ指揮官ニ對シ、自身及其ノ支配下ニ在ル一切ノ軍隊ガ無條件ニ降伏スベキ旨ノ命令ヲ直ニ發スルコトヲ命ズ。
下名ハ、茲ニ、一切ノ官廳、陸軍及海軍ノ職員ニ對シ、聯合國最高司令官ガ、本降伏實施ノ爲適當ナリト認メテ自ラ發シ又ハ其ノ委任ニ基キ發セシムル一切ノ布告、命令及指示ヲ遵守シ且之ヲ施行スベキコトヲ命ジ、竝ニ右職員ガ聯合國最高司令官ニ依リ又ハ其ノ委任ニ基キ特ニ任務ヲ解カレザル限リ各自ノ地位ニ留リ且引續キ各自ノ非戰闘的任務ヲ行フコトヲ命ズ。
下名ハ、茲ニ、ポツダム宣言ノ條項ヲ誠實ニ履行スルコト、竝ニ右宣言ヲ實施スル爲聯合國最高司令官又ハ其ノ他特定ノ聯合國代表者ガ要求スルコトアルベキ一切ノ命令ヲ發シ、且斯ル一切ノ措置ヲ執ルコトヲ天皇、日本國政府及其ノ後繼者ノ爲ニ約ス。
下名ハ、茲ニ、日本帝國政府及日本帝國大本營ニ對シ、現ニ日本國ノ支配下ニ在ル一切ノ聯合國俘虜及被抑留者ヲ直ニ解放スルコト、竝ニ其ノ保護、手當、給養及指示セラレタル場所ヘノ即時輸送ノ爲ノ措置ヲ執ルコトヲ命ズ。
天皇及日本國政府ノ國家統治ノ權限ハ、本降伏條項ヲ實施スル爲適當ト認ムル措置ヲ執ル聯合國最高司令官ノ制限ノ下ニ置カルルモノトス。
千九百四十五年九月二日午前九時四分日本國東京灣上ニ於テ署名ス。
大日本帝國天皇陛下及日本國政府ノ命ニ依リ且其ノ名ニ於テ
重 光 葵
日本帝國大本營ノ命ニ依リ且其ノ名ニ於テ
梅 津 美治郎
千九百四十五年九月二日午前九時八分日本國東京灣上ニ於テ合衆國、中華民國、聯合王國及ソヴィエット社會主義共和國聯邦ノ爲ニ、竝ニ日本國ト戰爭状態ニ在ル他ノ聯合諸國家ノ利益ノ爲ニ受諾ス。
聯合國最高司令官 ダグラス・マックアーサー
合衆國代表者 シー・ダブリュー・ニミッツ
中華民國代表者 徐 永 昌
聯合王國代表者 ブルース・フレーザー
ソヴィエット社會主義共和國聨邦代表者 クズマ・エヌ・ヂェレヴィヤンコ
オーストラリア聯邦代表者 テイー・ユー・ブレーミー
カナダ代表者 エル・コスグレーヴ
フランス國代表者 ジァック・ル・クレルク
オランダ國代表者 シェルフ・ヘルフリッヒ
ニュー・ジーランド代表者 エス・エム・イシット
【資料番號 二十六】一般命令第一號(陸、海軍)
昭和二十年九月二日手交による命令(同年八月十九日マニラ會談にて交付)
一、帝國大本營ハ茲ニ敕命二依り且敕命二基ク一切ノ日本國軍隊ノ職合國最高司令官二對スル降伏ノ結果トシテ日本國内及國外二在ル一切ノ指揮官二對シ其ノ指揮下二在ル日本國日本國軍隊及日本國ノ支配下二在ル軍隊ヲシテ敵對行爲ヲ直二終止シ其ノ武器ヲ措キ現位置二留リ且左二指名セラレ又ハ聯合國最高司令官二依リ追テ指示セラルルコトアルヘキ合衆國、中華民國、聯合王國及「ソヴィエト」社會主義共和國聯邦ノ名二於テ行動スル各指揮官二對シ無條件降伏ヲ爲サシムヘキコトヲ命ス 指示セラレタル指揮官又ハ其ノ指名シタル代表者二對シテハ即刻連絡スヘキモノトス 但シ細目二關シテハ聯合國最高司令官二依リ變更ノ行ハルルコトアルヘク右指揮官又ハ代表者ノ命令ハ完全二且即時實行セラルヘキモノトス
(イ)支那(滿洲ヲ除ク)臺灣及北緯十六度以北ノ佛領印度支那二在ル日本國ノ先任指揮官竝ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ蒋介石總帥ニ降伏スヘシ
(ロ)滿洲、北緯三十八度以北ノ朝鮮、樺太及千島諸島二在ル日本國ノ先任指揮官竝ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ「ソヴィエト」極東最高司令官二降伏スヘシ
(ハ)「アンダマン」諸島、「ニコバル」諸島、「ビルマ」、「タイ」國、北緯十六度以南ノ佛領印度支部、「マライ」、「スマトラ」、「ジァヴァ」、小「スンダ」諸島(「バリ」「ロンボク」 及「チモール」ヲ含ム)、「ブル」、「セラム」、「アンボン」、 「カイ」「アル」、「タニンバル」及「アラフラ」海ノ諸島、「セレベス」諸島、「ハルマヘラ」諸島竝ニ蘭領「ニューギニア」ニ在ル日本國ノ先任指揮官竝ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ東南亞細亞軍司令部最高司令官二降伏スヘシ
(ニ) 「ボルネオ」、英領「ニューギニア」、「ビスマルク」諸島及「ソロモン」諸島ニ在ル日本國ノ先任指揮官竝ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ濠洲陸軍最高司令官ニ降伏スヘシ
(ホ)日本國委任統治諸島、小笠原諸島及他ノ太平洋諸島二在ル日本國ノ先任指揮官竝ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ合衆國太平洋艦隊最高司令官二降伏スヘシ
(へ)日本國大本營竝ニ日本國本土、之二隣接スル諸小島、北緯三十八度以南ノ朝鮮、琉球諸島及「フィリピン」諸島二在ル先任指揮官竝ニ一切ノ陸上、海上、航空及補助部隊ハ合衆國太年洋陸軍部隊最高司令官二降伏スヘシ
(ト)前記各指揮官ノミカ降伏ヲ受諾スルノ權限ヲ付與セラレタル聯合國代表者ニシテ日本國軍隊ノ降伏ハ總テ右指揮官又ハ其ノ代表者ノミニ對シテ爲サルヘシ 日本國大本營ハ更二日本國國内及國外ニ在ル其ノ指揮官二對シ何レノ位置ニ在ルヲ問ハス一切ノ日本國軍隊又ハ日本國ノ支配下二在ル軍隊ヲ完全二武裝解除シ且前記聯合國指揮官二依リ指定セラルル時期及場所二於テ一切ノ兵器及裝備ヲ現状ノママ且安全ニシテ良好ナル状態二於テ引痩スヘキコトヲ命ス追テ指示アル迄日本國本土内二在ル日本國警察機關ハ本武裝解除規定ノ適用ヲ免ルルモノトス警察機關ハ其ノ部署二留ルモノトシテ法及秩序ノ維持二付其ノ責二任スヘシ右警察機關ノ人員及武器ハ規定セラルルモノトス
二、日本國大本營ハ聯合國最高司令官二對シ本命令受領ノ後遲滯ナク日本國及日本國ノ支配下二在ル一切ノ地域ニオケル左ノ諸點ニ關スル完全ナル情報ヲ提供スヘシ
(イ)一切ノ陸上、海上、航空及防空部隊ノ位置及將兵ノ數ヲ示ス表
(ロ)一切ノ陸軍、海軍及非軍用航空機ノ數、型式、位置及其ノ状態二關シ完全ナル情報ヲ與フル表
(ハ) 日本國ノ及日本國ノ支配スル一切ノ水上及濳水海軍艦艇竝ニ補助海軍艦艇ニシテ就役中ノモノ又ハ就役中二非サルモノ及建造中ノモノノ位置、状態及運行ヲ示ス表
(ニ) 日本國ノ及日本國ノ支配スル一切ノ總噸數百噸數百噸ヲ超ユル商船(嘗テ聯合國ノ何レカニ屬シ現ニ日本國ノ權内二在ルモノヲ含ム)ニシテ就役中ノモノ又ハ就役中ニ非サルモノ及建造中ノモノノ位位置、状態及運行ヲ示ス表
(ホ)一切ノ機雷、機雷原其ノ他ノ陸上、海上又ハ空中ノ行動二封スル障害物ノ位置及施設状況竝ニ右二關聯スル安全通路二關スル完全且詳細ナル地圖附情報
(へ)飛行場、水上機基地、對空防備施設、港、海軍基地、物資貯蔵所、常設及假設ノ陸上及沿岸防備施設、要塞其ノ他ノ防備地域ヲ含ム一切ノ軍事施設及建造物ノ位置及説明
(ト)聯合國ノ俘虜及被抑留者ノ一切ノ收容所其ノ他ノ抑留所ノ
三、日本軍及民間航空所管當局ハ一切ノ日本國ノ陸軍、海軍及非軍用航空機カ追テ其ノ處理ニ關シ通告アル迄陸上、海上又ハ艦上ニ留マルコトヲ保障スルモノトス
四、日本國ノ又ハ日本國ノ支配スル一切ノ型式ノ海軍艦艇及商船ハ聯合國最高司令官ノ指示アル迄之ヲ毀損スルコトナク保全シ且移動ヲ企圖セサルモノトス 航海中ノ船舶二於テハ直二一切ノ種類ノ爆發物ヲ無害卜爲シ海中二放棄スルモノトス 航海中二非サル船舶二於テハ直二一切ノ種顆ノ爆發物ヲ沿岸ノ安全ナル貯蔵所二移轉スルモノトス
五、責任アル日本國ノ及ヒ日本國ノ支配下二在ル軍及行政當局ハ左記ヲ保障スルモノトス
(イ) 一切ノ日本國ノ機雷、機雷原其ノ他ノ陸上、海上及空中ノ行動二關スル障害物ハ何レノ位置ニ在ルヲ問ハス聯合國最高司令官ノ指示二從ヒ之ヲ除去ス
(ロ) 航海ヲ便ナラシムル一切ノ施設ハ直ニ之ヲ復活ス
(ハ) 前記(イ)ノ實施迄一切ノ安全通路ハ之ヲ開放シ且明瞭二標示ス
六、責任アル日本國ノ及日本國ノ支配下ニ在ル軍及行政當局ハ聯合國最高司令官ヨリ追テ指示アル迄左記ヲ現状ノママ且良好ナル状態二於テ保持スルモノトス
(イ) 一切ノ兵器、彈藥、爆發物、軍用ノ裝備、貯品及需品其ノ他一切ノ種類ノ戰爭用具及他ノ一切ノ戰爭用資材(本命令第四項二特二規定スルモノヲ除ク)
(ロ) 一切ノ陸上、水上及空中運輸及通信ノ施設及裝置
(ハ) 飛行場、水上機基地、對空防備施設、港及海軍基地、物資貯蔵所、常設及假設ノ陸上及沿岸防備施設、要塞其ノ他ノ防備地域ヲ含ム一切ノ軍事施設及建造物竝二一切ノ此等ノ防備施設、軍事施設及建造物ノ設計及圖面
(ニ)一切ノ戰爭用具竝ニ軍事機關又ハ準軍事機關力其ノ運營二關シ現二使用シ又ハ供用セントスル他ノ資材及資産ヲ製造スル爲又ハ此等ノ製造若クハ使用ヲ容易ナラシムル爲計畫セラレ又ハ之二充當セラレタル一切ノ工場、製造場、工作場、研究所、實驗所、試驗所、技街上ノ要目(「データ」)、特許、設計圖面及發明 七、日本國大本營ハ聯合國最高司令官二對シ本命令受領ノ後遲滯ナク前記第六項(イ)、(ロ)及(ニ)ニ掲クル一切ノ項目二關シ其ノ數量型式及位置ヲ示ス完全ナル表ヲ提供スヘシ
八、一切ノ兵器、彈藥及戰爭用具ノ製造及分配ハ直ニ之ヲ終止スルモノトス
九、日本國ノ又ハ日本國ノ支配下二在ル官憲ノ權内ニアル聯合國ノ俘虜及被抑留者二關シテハ
(イ)一切ノ聯合諸國ノ俘虜及被抑留者ノ安全及福祉ハ細心ノ注意ヲ以テ之ヲ保持スルモノトシ右ハ聯合國最高司令官力其ノ責任ヲ引繼クニ至ル迄適當ナル食糧、住居、被服及醫療ヲ確保スルニ必要ナル管理及補給ノ業務ヲ含ムモノトス
(ロ) 聯合諸國ノ俘虜及被抑留者ノ收容所其ノ他ノ抑留所ハ夫々其ノ設備、貯蔵品、記錄、武器及彈藥卜共二直ニ之ヲ右俘虜及被抑留者中ノ先任將校又ハ指定セラレタル代表者二引渡シ其ノ指揮下二入ラシムルモノトス
(ハ) 聯合國最高司令官ノ指示スル所二從ヒ俘虜及被抑留者ハ聯合國官憲力之ヲ引取リ得ヘキ安全ナル場所二輸送セラルルモノトス
(ニ) 日本國大本營ハ聯合國最高司令官二對シ本命合受領ノ後遲滯ナク一切ノ聯合國ノ俘虜及被抑留者ノ所在ヲ示ス完全ナル表ヲ提供スルモノトス
十、一切ノ日本國ノ及日本國ノ支配下二在ル軍及行政當局ハ聯合國軍隊ノ日本國及日本國ノ支配スル地域ノ占領ヲ援助スヘシ
十一、日本國大本營及日本國當該官憲ハ聯合國占領軍指揮官ノ指示アル際一般日本國民ノ所有スル一切ノ武器ヲ蒐集シ且引渡ス爲ノ準備ヲ爲シ置クヘシ
十二、日本國ノ及日本國ノ支配下二在ル軍及行政官憲竝二私人ハ本命令及爾後聯合國最高司令官又ハ他ノ聯合國軍官憲ノ發スル一切ノ指示二誠實且迅速二服スルモノトス本命令若クハ爾後ノ命令ノ規定ヲ遵守スルニ遲滯アリ又ハ之ヲ遵守セサルトキ及聯合國最高司令官力聯合國二對シ有害ナリト認ムル行爲アルトキハ聯合國軍官憲及日本國政府ハ嚴重且迅速ナル制裁ヲ加フルモノトス
十三、日本國大本營ハ聯合國最高司令官二對シ前記第二項、第七項及第九項(ニ)ニ要求セラルル情報ヲ提供シ得へキ最モ速ナル日時ヲ直二通報スルモノトス
【資料番號 二十七】日本教育制度ニ對スル管理政策
(昭和二十年十月二十二日連合國軍最高司令部ヨリ終戰連絡中央事務局經由日本帝國政府ニ對スル覺書)
一 日本新内閣ニ對シ教育ニ關スル占領ノ目的及政策ヲ充分ニ理解セシムル連合國軍最高司令部ハ茲ニ左ノ指令ヲ發スル
A 教育内容ハ左ノ政策ニ基キ批判的ニ檢討、改訂、管理セラルベキコト
(1)軍國主義的及び極端ナル國家主義的イデオロギーノ普及ヲ禁止スルコト、軍事教育ノ學科及ビ教練ハ凡テ廢止スルコト
(2)議會政治、國際平和、個人ノ權威ノ思想及集會、言論、信教ノ自由ノ如キ基本的人權ノ思想ニ合致スル諸概念ノ教授及實踐の確立ヲ奬勵スルコト
B アラユル教育機關ノ關係者ハ左ノ方針ニ基キ取調ベラレソノ結果ニ從ヒ夫々留任、退職、復職、任命、再教育又ハ轉職セラルベキコト
(1)教師及ビ教育關係官公吏ハ出來得ル限リ迅速ニ取調ベラルベキコト、アラユル職業軍人乃至軍國主義、極端ナル國家主義ノ積極的ナル鼓吹者及ビ占領政策ニ對シテ積極的ニ反對スル人々ハ罷免セラルベキコト
(2)自由主義的或ハ反軍的言論乃至行動ノ爲解職又ハ休職トナリ或ハ辭職ヲ強要セラレタル教師及ビ教育關係官公吏ハ其ノ資格ヲ直ニ復活セシメラルベキコトヲ公表シ、且ツ彼等ガ適當ナル資格ヲ有スル場合ハ優先的ニ之ヲ復職セシムルコト
(3)人權、國籍、信教、政見又ハ社會的地位ヲ理由トスル學生、教師、教育關係官公吏ニ對スル差別待遇ヲ禁止スル、而シテ叙上ノ差別待遇ヨリ生ジタル不公平ハ直チニ是正セラルベキコト
(4)學生、教師、教育關係官公吏ハ教授内容ヲ批判的理智的ニ評價スルコトヲ奬勵セラルベク、マタ政治的、公民的、宗教的自由ヲ含ム各般ノ事項ノ自由討議ヲ許容セラルベキコト
(5)學生、教師、教育關係官公吏及ビ一般民衆ハ連合軍占領ノ目的及ビ政策、議會政治ノ理論及實踐ニ就テ知ラシメラルベキコト
マタ軍國主義的指導者、ソノ積極的協力者ノ演ジタル役割竝ニソノ消極的黙認ニヨリ日本國民ヲ戰爭ニ陥レ、不可避的ナル敗北ト困窮ト現在ノ悲慘ナル状態トヲ結果セシメタル者ノ演ジタル役割ヲ知ラシメラルベキコト
C 教育過程ニ於ケル技術的内容ハ左ノ政策ニ基キ批判的ニ檢討、改訂、管理セラルベキコト
(1)急迫セル現情ニ鑑ミ一時的ニ其ノ使用ヲ許サレテヰル現行ノ教課目、教科書、教授指導書ソノ他ノ教材ハ出來得ル限り速カニ檢討セラルベキデアリ、軍國主義的乃至極端ナル國家主義的イデオロギーヲ助長スル目的ヲ以テ作成セラレタル箇所ハ削除セラルベキコト
(2)教育アル平和的且ッ責任ヲ重ズル公民ノ養成ヲ目指ス新教科目、新教科書、新教師用參考書、新教授用材料ハ出來得ル限リ速カニ準備セラレ現行ノモノト代ヘラルベキコト
(3)正常ニ實施セラレツツアル教育體制ハ出來得ル限り迅速ニ再建セラルベキデアルガ未ダ設備等不充分ノ場合ハ初等教育及ビ教員養成ヲ優先セシメルコト
二 日本文部省ハ連合國軍最高司令部ノ該當部局ト適當ニ連絡シ得ルヤウナ機關ヲ設ケ且之ヲ維持スルコト、而シテ連合國軍側ノ要求ニ應ジ本指令各條項ニ基イテ爲サレタル實施事項ノ詳細ナル説明報告ヲ提出スベキコト
三 日本政府ノ官公吏、屬僚ニシテ本指令各條項實施ニ關與スル者竝ニ公立、私立ヲ問ハズ凡テノ教師及學校教職員ハ本指令ニ明示シアル政策ノ精神竝ニ條文ヲ遵奉スル個人的責任ヲ負フモノトス
【資料番號 二十八】教育及ビ教育關係官ノ調査、除外、認可ニ關スル件
(昭和二十年十月三十日連合國軍最高司令部ヨリ終戰連絡中央事務局經由日本帝國政府ニ對スル覺書)
一 日本ノ教育機構中ヨリ日本民族ノ敗北、戰爭犯罪、苦痛、窮乏、現在ノ悲慘ナル状態ヲ招來セシムルニ至リタル軍國主義的、極端ナル國家主義的諸影響ヲ拂拭スル爲ニ、而シテマタ軍事的經驗或ハ軍ト密接ナル關係アル教員竝ニ教育關係者ヲ雇傭スルコトニ依テ右思想ノ影響繼續ノ可能性ヲ防止スル爲ニ茲ニ左記ノ指令ヲ發ス
(イ)軍國主義的思想、過激ナル國家主義的思想ヲ持ツ者トシテ明カニ知ラレテヰル者、連合國軍日本占領ノ目的及政策ニ對シテ反對ノ意見ヲ持ツ者トシテ明カニ知ラレテヰル者ニシテ現在日本ノ教育機構中ニ職ヲ奉ズル者ハ凡テ直ニ之ヲ解職シ今後日本ノ教育機構ノ中如何ナル職ニモ就カシメザルコト
(ロ)右ノ外ノ者ニシテ日本教育機構中ノ一定ノ職ニ既ニ就イテヰル者ハ今後新タナル指令ノアル迄文部大臣ノ裁量ニヨリ現職ニ留マルコト差支ナシ
(ハ)日本ノ軍ニ今日猶アル者或ハ終戰後復員セシ者ニシテ今日日本ノ教育機構中ノ一定ノ職ニ現ニ就イテヰナイ者ハ凡テ今後指令アルマデ日本ノ教育機構中ノ如何ナル職ニモ就任セシメザルコト
二 日本ノ教育機構ノ中ノ一定ノ職ニ現ニ就イテヰル者或ハ將來就カントスル者ノ内如何ナル者ガ目本ノ教育機構中ノ如何ナル職ヨリモ解職セラレ阻止セラレマタ禁ゼラルベキカヲ決定スル爲ニ舷ニ左記ノ指令ヲ發スル
(イ)日本文部省ハ教員竝ニ教育關係官ノアラユル現任者及ビ希望者ヲ有效ニ調査シ、除外シ或ハ認可スル適切ナル行政機構及措置ヲ設定スルコト
(ロ)日本文部省ハ出來得ル限リ速カニ本指令條項ニ準據シテ實施セラレタル諸措置ノ包括的報告ヲ本司令部ニ提出スルコト該報告ハ別ニ左記特定ノ報告ヲモ含ムベキコト
(ハ)如何ニシテ一個人ガ教員或ハ教育關係官トシテ認容セラルベキカヲ精確ニ知リ得ル報告、竝ニ一個人ノ留任、解職、任命、再任命ヲ決定スルニ當リテノ原則トナルベキ特定ノ基準表
(ニ)教員及教育關係官ノ調査、除外、認可ヲ行フ爲ニ如何ナル行政的措置竝ニ機構ガ設定セラルルカヲ明カニスル精確ナル報告猶控訴セラレタル判決ノ再審査及ビ一度不認可トナリタル個人ノ再調査ヲ爲ス場合、如何ナル規定ニ準據スルカヲ明カニスル精確ナル報告ヲモ併セ提出スルコト 三 本指令ノ條文ノ適用ヲ受ケル日本政府ノアラユル官吏屬僚及ビ官公私立ノ教育關係官ハ本指令ニ明カニサレタル方針ヲ完全忠實ニ守ル個人的責任ヲ有スル
【資料番號 二十九】國家神道、神社神道ニ對スル政府ノ保證、支援、保全、監督竝ニ弘布ノ廢止ニ關スル件
(昭和二十年十二月十五日連合國軍最高司令官總司令部參謀副官發第三號(民間情報教育部)終戰連絡中央事務局經由日本政府ニ對スル覺書) 神道指令
一 國家指定ノ宗教乃至祭式ニ對スル信仰或ハ信仰告白ノ(直接的或ハ間接的)強制ヨリ日本國民ヲ解放スル爲ニ戰爭犯罪、敗北、苦惱、困窮及ビ現在ノ悲慘ナル状態ヲ招來セル「イデオロギー」ニ對スル強制的財政援助ヨリ生ズル日本國民ノ經濟的負擔ヲ取り除ク爲ニ神道ノ教理竝ニ信仰ヲ歪曲シテ日本國民ヲ欺キ侵略戰爭ヘ誘導スルタメニ意圖サレタ軍國主義的竝ニ過激ナル國家主義的宣傳ニ利用スルガ如キコトノ再ビ起ルコトヲ妨止スル爲ニ再教育ニ依ッテ國民生活ヲ更新シ永久ノ平和及民主主義ノ理想ニ基礎ヲ置ク新日本建設ヲ實現セシムル計畫ニ對シテ日本國民ヲ援助スル爲ニ茲ニ左ノ指令ヲ發ス
(イ)日本政府、都道府縣廳、市町村或ハ官公吏、屬官、雇員等ニシテ公的資格ニ於テ神道ノ保證、支援、保全、監督竝ニ弘布ヲナスコトヲ禁止スル而シテカカル行爲ノ即刻ノ停止ヲ命ズル
(ロ)神道及神杜ニ對スル公ノ財源ヨリノアラユル財政的援助竝ニアラユル公的要素ノ導入ハ之ヲ禁止スル而シテカカル行爲ノ即刻ノ停止ヲ命ズル
(1)公地或ハ公園ニ設置セラレタル神社ニ對シテ公ノ財源ヨリノ如何ナル種類ノ財政的援助モ許サレズ但シコノ禁止命令ハカカル神社ノ設置セラレ居ル地域ニ對シテ日本政府、都道府縣廳、市町村ガ援助ヲ繼續スルコトヲ妨ゲルモノト解釋セラルベキデハナイ
(2)從來部分的ニ或ハ全面的ニ公ノ財源ニヨツテ維持セラレテヰタアラユル神道ノ神社ヲ個人トシテ財政的ニ援助スルコトハ許サレル但シカカル個人的援助ハ全ク自發的ナルコトヲ條件トシ絶對ニ強制的或ハ不本意ノ寄附ヨリナル援助デアツテハナラナイ
(ハ)神道ノ教義、慣例、祭式、儀式或ハ禮式ニ於テ軍國主義的乃至過激ナル國家主義的「イデオロギー」ノ如何ナル宣傳、弘布モ之ヲ禁止スル而シテカカル行爲ノ即刻ノ停止ヲ命ズル神道ニ限ラズ他ノ如何ナル宗教、信仰、宗派、信條或ハ哲學ニ於テモ叙上ノ「イデオロギー」ノ宣傳、弘布ハ勿論之ヲ禁止シカカル行爲ノ却刻ノ停止ヲ命ズル
(ニ)伊勢ノ大廟ニ關シテノ宗教的式典ノ指令竝ニ官國幣社ソノ他ノ神社ニ關シテノ宗教的式典ノ指令ハ之ヲ撤廢スルコト
(ホ)内務省ノ神祇院ハ之ヲ廢止スルコト而シテ政府ノ他ノ如何ナル機關モ或ハ租税ニ依ツテ維持セラレル如何ナル機關モ神祇院ノ現在ノ機能、任務、行政的責務ヲ代行スルコトハ許サレナイ
(ヘ)アラユル公ノ教育機關ニシテソノ主要ナル機能ガ神道ノ調査研究及ビ弘布ニアルカ或ハ神官ノ養成ニアルモノハ之ヲ廢止シソノ物的所有物ハ他ニ轉用スルコト而シテ政府ノ如何ナル機關モ或ハ租税ニ依ッテ維持セラルル如何ナル機關モカカル教育機關ノ現在ノ機能又ハ任務ノ行政的責務ヲ代行スルコトハ許サレナイ
(ト)神道ノ調査研究竝ニ弘布ヲ目的トスル或ハ神官養成ヲ目的トスル私立ノ教育機關ハ之ヲ認メル但シ政府ト特殊ノ關係ナキ他ノ私立教育機關ト同樣ナル監督制限ノモトニアル同樣ナル特典ヲ與ヘラレテ經營セラルベキコト併シ如何ナル場合ト雖モ公ノ財源ヨリ支援ヲ受クベカラザルコト、マタ如何ナル場合ト雖モ軍國主義的乃至過激ナル國家主義的「イデオロギー」ヲ宣傳、弘布スベカラザルコト
(チ)全面的ニ或ハ部分的ニ公ノ財源ニ依テ維持セラレル如何ナル教育機關ニ於テモ神道ノ教義ノ弘布ハソノ方法樣式ヲ問ハズ禁止セラルベキコト、而シテカカル行爲ハ即刻停止セラルベキコト
(1)全面的ニ或ハ部分的ニ公ノ財源ニ依ツテ維持セラレ居ル凡テノ教育機關ニ於テ現ニ使用セラレ居ル凡テノ教師用參考書竝ニ教科書ハ之ヲ檢閲シソノ中ヨリ凡テノ神道教義ヲ削除スルコト
今後カカル教育機關ニ於テ使用スル爲ニ出版セラルベキ如何ナル教師用參考書、如何ナル教科書ニモ神道教義ヲ含マシメザルコト
(2)全面的ニ或ハ部分的ニ公ノ財源ニ依テ維持セラレル如何ナル教育機關モ神道神社參拜乃至神道ニ關連セル祭式、慣例或ハ儀式ヲ行ヒ或ハソノ後援ヲナサザルコト
(リ)「國體の本義」、「臣民の道」乃至同種類ノ官發行ノ書籍論評、評釋乃至神道ニ關スル訓令等ノ頒布ハ之ヲ禁止スル
(ヌ)公文書ニ於テ「大東亞戰爭」、「八紘一宇」ナル用語乃至ソノ他ノ用語ニシテ日本語トシテソノ意味ノ連想ガ國家神道、軍國主義、過激ナル國家主義ト切り離シ得ザルモノハ之ヲ使用スルコトヲ禁止スル、而シテカカル用語ノ却刻停止ヲ命令スル
(ル)全面的乃至部分的ニ公ノ財源ニ依ツテ維持セラレル役所、學校、機關、協會乃至建造物中ニ神棚ソノ他國家神道ノ物的象徴トナル凡テノモノヲ設置スルコトヲ禁止スル、而シテ之等ノモノヲ直ニ除去スルコトヲ命令スル
(ヲ)官公吏、屬官、雇員、學生、一般ノ國民乃至日本國在住者ガ國家神道ソノ他如何ナル宗教ヲ問ハズ之ヲ信仰セヌ故ニ或ハ之ガ信仰告白ヲナサヌガ故ニ或ハカカル特定ノ宗教ノ慣例、祭式、儀式、禮式ニ參列セヌガ故ニ彼等ヲ差別待遇セザルコト
(ワ)日本政府、都道府縣廳、市町村ノ官公吏ハソノ公ノ資格ニ於テ新任ノ奉告ヲナス爲ニ或ハ政治ノ現状ヲ奉告スル爲ニ或ハ政府乃至役所ノ代表トシテ神道ノ如何ナル儀式或ハ禮式タルヲ問ハズ之ニ參列スル爲ニ如何ナル神社ニモ參拜セザルコト
二(イ)本指令ノ目的ハ宗教ヲ國家ヨリ分離スルニアル、マタ宗教ヲ政治的目的ニ誤用スルコトヲ妨止シ、正確ニ同ジ機會ト保護ヲ與ヘラレル權利ヲ有スルアラユル宗教、信仰、信條ヲ正確ニ同ジ法的根據ノ上ニ立タシメルニアル、本指令ハ啻ニ神道ニ對シテノミナラズアラユル宗教、信仰、宗派、信條乃至哲學ノ信奉者ニ對シテモ政府ト特殊ノ關係ヲ持ツコトヲ禁ジマタ軍國主義的乃至過激ナル國家主義的「イデオロギー」ノ宣傳、弘布ヲ禁ズルモノデアル
(ロ)本指令ノ各條項ハ同ジ效力ヲ以テ神道ニ關連スルアラユル祭式、慣例、儀式、禮式、信仰、教ヘ、神話、傳説、哲學、神社、物的象徴ニ適用サレルモノデアル
(ハ)本指令ノ中ニテ意味スル國家神道ナル用語ハ、日本政府ノ法令ニ依テ宗派神道或ハ教派神道ト區別セラレタル神道ノ一派即チ國家神道乃至神社神道トシテ一般ニ知ラレタル非宗教的ナル國家的祭祀トシテ類別セラレタル神道ノ一派(國家神道或ハ神社神道)ヲ指スモノデアル
(ニ)宗派神道或ハ教派神道ナル用語ハ一般民間ニ於テモ、法律上ノ解釋ニ依テモ又日本政府ノ法令ニ依テモ宗教トシテ認メラレテ來タ(十三ノ公認宗派ヨリ成ル)神道ノ一派ヲ指スモノデアル
(ホ)連合國軍最高司令官ニ依テ一九四五年十月四日ニ發セラレタル基本的指令即チ「政治的、社會的竝ニ宗教的自由束縛ノ解放」ニ依テ日本國民ハ完全ナル宗教的自由ヲ保證セラレタノデアルガ、右指令第一條ノ條項ニ從テ
(1)宗派神道ハ他ノ宗教ト同樣ナル保護ヲ享受スルモノデアル
(2)神社神道ハ國家カラ分離セラレ、ソノ軍國主義的乃至過激ナル國家主義的要素ヲ剥奪セラレタル後ハ若シソノ信奉者ガ望ム場合ニハ一宗教トシテ認メラレルデアラウ、而シテソレガ事實日本人個人ノ宗教ナリ或ハ哲學ナリデアル限りニ於テ他ノ宗教同樣ノ保護ヲ許容セラレルデアラウ
(ヘ)本指令中ニ用ヒラレテヰル軍國主義的乃至過激ナル國家主義的「イデオロギー」ナル語ハ、日本ノ支配ヲ以下ニ掲グル理由ノモトニ他國民乃至他民族ニ及ボサントスル日本人ノ使命ヲ擁護シ或ハ正當化スル教ヘ、信仰、理論ヲ包含スルモノデアル
(1)日本ノ天皇ハソノ家系、血統或ハ特殊ナル起源ノ故ニ他國ノ元首ニ優ルトスル主義
(2)日本ノ國民ハソノ家系、血統或ハ特殊ナル起源ノ故ニ他國民ニ優ルトスル主義
(3)日本ノ諸島ハ神ニ起源ヲ發スルガ故ニ或ハ特殊ナル起源ヲ有スルガ故ニ他國ニ優ルトスル主義
(4)ソノ他日本國民ヲ欺キ侵略戰爭ヘ驅リ出サシメ或ハ他國民ノ論爭ノ解決ノ手段トシテ武力ノ行使ヲ謳歌セシメルニ至ラシメルガ如キ主義
三 日本帝國政府ハ一九四六年三月十五日迄ニ本司令部ニ對シテ本指令ノ各條項ニ從ッテ取ラレタル諸措置ヲ詳細ニ記述セル總括的報告ヲ提出スベキモノナルコト
四 日本ノ政府、縣廳、市町村ノ凡テノ官公吏、屬官、雇員竝ニアラユル教師、教育關係職員、國民、日本國内在住者ハ本指令各條項ノ文言竝ニソノ精神ヲ遵守スルコトニ對シテ夫々個人的責任ヲ負フベキコト
【資料番號 三十】修身、日本歴史及ビ地理停止ニ關スル件
(昭和二十年十二月三十一日連合國軍最高司令官總司令部參謀副官第八號民間情報教育部ヨリ終戰連絡中央事務局經由日本帝國政府宛覺書)
一 昭和二十年十二月十五日附指令第三號國家神道及ビ教義ニ對スル政府ノ保障ト支援ノ撤廢ニ關スル民間情報教育部ノ基本的指令ニ基キ且日本政府ガ軍國主義的及ビ極端ナ國家主義的觀念ヲ或ル種ノ教科書ニ執拗ニ織込ンデ生徒ニ課シカカル觀念ヲ生徒ノ頭腦ニ植込マソガ爲メニ教育ヲ利用セルニ鑑ミ茲ニ左ノ如キ指令ヲ發スル
(イ)文部省ハ曩ニ官公私立學校ヲ含ム一切ノ教育施設ニ於イテ使用スベキ修身日本歴史及ビ地理ノ教科書及ビ教師用參考書ヲ發行シ又ハ認可セルモコレラ修身、日本歴史及ビ地理ノ總テノ課程ヲ直チニ中止シ司令部ノ許可アル迄再ビ開始セザルコト
(ロ)文部省ハ修身、日本歴史及ビ地理夫々特定ノ學科ノ教授法ヲ指令スル所ノ一切ノ法令、規則又ハ訓令ヲ直チニ停止スルコト
(ハ)文部省ハ本覺書附則(イ)ニ摘要セル方法ニ依リテ設置スル爲メニ(一)(イ)ニ依リ影響ヲ受クベキアラユル課程及ビ教育機關ニ於テ用ヒル一切ノ教科書及ビ教師用參考書ヲ蒐集スルコト
(ニ)文部省ハ本覺書附則(ロ)ニ摘要セル措置ニ依リテ本覺書ニ依リ影響ヲ受クベキ課程ニ代リテ挿入セラルベキ代行計畫案ヲ立テ之ヲ當司令部ニ提出スルコト之等代行計畫ハ茲ニ停止セラレタル課程ノ再開ヲ當司令部ガ許可スル迄續イテ實施セラルベキコト
(ホ)文部省ハ本覺書附則(ハ)ニ摘要セル措置ニ依リ修身、日本歴史及ビ地理ニ用フベキ教科書ノ改訂案ヲ立テ當司令部ニ提出スベキコト
二 本指令ノ條項ニ依リ影響ヲ受クベキ日本政府ノ總テノ官吏、下僚、傭員及ビ公私立學校ノ總テノ教職員ハ本指令ノ條項ノ精神竝ニ字句ヲ遵守スル責任ヲ自ラ負フベキコト
三 附則略
【資料番號 三十一】日本國憲法草案(GHQ草案、マッカーサー草案)
(昭和二十一年二月十三日交付による制定指令)
前 文
我等日本國人民ハ、國民議會ニ於ケル正當ニ選擧セラレタル我等ノ代表者ヲ通シテ行動シ、我等自身及我等ノ子孫ノ爲ニ諸國民トノ平和的協力及此ノ國全土に及フ自由ノ祝福ノ成果ヲ確保スヘク決心シ、且政府ノ行爲ニ依リ再ヒ戰爭ノ恐威ニ訪レラレサルヘク決意シ、茲ニ人民ノ意志ノ主權ヲ宣言シ、國政ハ其ノ權能ハ人民ヨリ承ケ其ノ權力ハ人民ノ代表者ニ依リ行使セラレ而シテ其ノ利益ハ人民ニ依リ享有セラルル神聖ナル信託ナリトノ普遍的原則ノ上ニ立ツ所ノ此ノ憲法ヲ制定確定ス 而シテ我等ハ此ノ憲法ト牴觸スル一切ノ憲法、命令、法律及詔敕ヲ排斥及廢止ス
我等ハ永世ニ亘リ平和ヲ希求シ且今ヤ人類ヲ搖リ動カシツツアル人間關係支配ノ高貴ナル理念ヲ滿全ニ自覺シテ、我等ノ安全及生存ヲ維持スル爲世界ノ平和愛好諸國民ノ正義ト信義トニ信倚センコトニ意ヲ固メタリ 我等ハ平和ノ維持竝ニ橫暴、奴隷、壓政及無慈悲ヲ永遠ニ地上ヨリ追放スルコトヲ主義方針トスル國際社會内ニ名譽ノ地位ヲ占メンコトヲ欲求ス 我等ハ萬國民等シク恐怖ト缺乏ニ虐ケラルル憂ナク平和ノ裏ニ生存スル權利ヲ有スルコトヲ承認シ且之ヲ表白ス
我等ハ如何ナル國民モ單ニ自己ニ對シテノミ責任ヲ有スルニアラスシテ政治道德ノ法則ハ普遍的ナリト信ス 而シテ斯ノ如キ法則ヲ遵奉スルコトハ自己ノ主權ヲ維持シ他國民トノ主權ニ基ク關係ヲ正義付ケントスル諸國民ノ義務ナリト信ス
我等日本國人民ハ此等ノ尊貴ナル主義及目的ヲ我等ノ國民的名譽、決意及總力ニ懸ケテ誓ウモノナリ
第一章 皇帝
第一條 皇帝ハ國家ノ象徴ニシテ又人民ノ統一ノ象徴タルヘシ 彼ハ其ノ地位ヲ人民ノ主權的意志ヨリ承ケ之ヲ他ノ如何ナル源泉ヨリモ承ケス
第二條 皇位ノ繼承ハ世襲ニシテ國會ノ制定スル皇室典範ニ依ルベシ
第三條 國事ニ關スル皇帝ノ一切ノ行爲ニハ内閣ノ輔弼及協贊ヲ要ス 而シテ内閣ハ之カ責任ヲ負ウヘシ
皇帝ハ此ノ憲法ノ規定スル國家ノ機能ヲノミ行フヘシ 彼ハ政治上ノ權限ヲ有セス
又之ヲ把握シ又ハ賦與セラルルコト無カルヘシ
皇帝ハ其ノ機能ヲ法律ノ定ムル所ニ從ヒ委任スルコトヲ得
第四條 國會ノ制定スル皇室典範ノ規定ニ從ヒ攝政ヲ置クトキハ皇帝ノ責務ハ攝政之ヲ皇帝ノ名ニ於テ行フヘシ 而シテ此ノ憲法ニ定ムル所ノ皇帝ノ機能ニ對スル制限ハ攝政ニ對シ等シク適用セラルヘシ
第五條 皇帝ハ國會ノ指名スル者ヲ總理大臣ニ任命ス
第六條 皇帝ハ内閣ノ輔弼及協贊ニ依リテノミ行動シ人民ニ代リテ國家ノ左ノ機能ヲ行フヘシ 即
國會ノ制定スル一切ノ法律、一切ノ内閣命令、此ノ憲法ノ一切ノ改正竝ニ一切ノ條約及國際規約ニ皇璽ヲ欽シ之ヲ公布ス
國會ヲ招集ス
國會ヲ解散ス
總選擧ヲ命ス
國務大臣、大使及其ノ他ノ國家ノ官史ニシテ法律ノ規定ニ依リ其ノ任命又ハ囑託及辭職又ハ免職カ此ノ方法ニテ公證セラルヘキモノノ任命又ハ囑託及辭職又ハ免職ヲ公證ス
大赦、恩赦、減刑、執行猶豫及復權ヲ公證ス
榮譽ヲ授與ス
外國ノ大使及公使ヲ受ク
適當ナル式典ヲ執行ス
第七條 國會ノ許諾ナクシテハ皇位ニ金銭又ハ其ノ他ノ財産ヲ授與スルコトヲ得ス又皇位ハ何等ノ支出ヲ爲スコトヲ得ス
第二章 戰爭ノ廢棄
第八條 國民ノ一主權トシテノ戰爭ハ之ヲ廢止ス 他ノ國民トノ紛爭解決ノ手段トシテノ武力ノ威嚇又ハ使用ハ永久ニ之ヲ廢棄ス
陸軍、海軍、空軍又ハ其ノ他ノ戰力ハ決シテ許諾セラルルコト無カルヘク又交戰状態ノ權利ハ決シテ國家ニ授與セラルルコト無カルへシ
第三章 人民ノ權利及義務
第九條 日本國ノ人民ハ何等ノ干渉ヲ受クルコト無クシテ一切ノ基本的人權ヲ享有スル權利ヲ有ス
第十條 此ノ憲法ニ依リ日本國ノ人民ニ保障セラルル基本的人權ハ人類ノ自由タラントスル積年ノ闘爭ノ結果ナリ 時ト經驗ノ坩堝ノ中ニ於テ永續性ニ對スル嚴酷ナル試練ニ克ク耐ヘタルモノニシテ永世不可侵トシテ現在及將來ノ人民ニ神聖ナル委託ヲ以テ賦與セラルルモノナリ
第十一條 此ノ憲法ニ依リ宣言セラルル自由、權利及機會ハ人民ノ不斷ノ監視ニ依リ確保セラルルモノニシテ人民ハ其ノ濫用ヲ防キ常ニ之ヲ共同ノ福祉ノ爲ニ行使スル義務ヲ有ス
第十二條 日本國ノ封建制度ハ終止スヘシ一切ノ日本人ハ其ノ人類タルコトニ依リ個人トシテ尊敬セラルヘシ 一般ノ福祉ノ限度内ニ於テ生命、自由及幸福探求ニ對スル其ノ權利ハ一切ノ法律及一切ノ政治的行爲ノ至上考慮タルヘシ
第十三條 一切ノ自然人ハ法律上平等ナリ 政治的、經濟的又ハ社會的關係ニ於テ人種、信條、性別、社會的身分、階級又ハ國籍起源ノ如何ニ依リ如何ナル差別的待遇モ許容又ハ黙認セラルルコト無カルヘシ
爾今以後何人モ貴族タルノ故ヲ以テ國又ハ地方ノ如何ナル政治的權力ヲモ有スルコト無カルヘシ
皇族ヲ除クノ外貴族ノ權利ハ現存ノ者ノ生存中ヲ限リ之ヲ廢止ス 榮譽、勳章又ハ其ノ他ノ優遇ノ授與ニハ何等ノ特權モ附随セサルヘシ 又右ノ授與ハ現ニ之ヲ有スル又ハ將來之ヲ受クル個人ノ生存中ヲ限リ效力ヲ失フヘシ
第十四條 人民ハ其ノ政府及皇位ノ終極的決定者ナリ 彼等ハ其ノ公務員ヲ選定及罷免スル不可讓ノ權利ヲ有ス
一切ノ公務員ハ全社會ノ奴僕ニシテ如何ナル團體ノ奴僕ニモアラス
有ラユル選擧ニ於テ投票ノ祕密ハ不可侵ニ保タルヘシ 選擧人ハ其ノ選擇ニ關シ公的ニモ私的ニモ責ヲ問ハルルコト無カルへシ
第十五條 何人モ損害ノ救濟、公務員ノ罷免及法律、命令又ハ規則ノ制定、廢止又ハ改正ニ關シ平穩ニ請願ヲ爲ス權利ヲ有ス 又何人モ右ノ如キ請願ヲ主唱シタルコトノ爲ニ如何ナル差別的待遇ヲモ受クルコト無カルヘシ
第十六條 外國人ハ平等ニ法律ノ保護ヲ受クル權利ヲ有ス
第十七條 何人モ奴隷、農奴又ハ如何ナル種類ノ奴隷役務ニ服セシメラルルコト無カルヘシ 犯罪ノ爲ノ處罰ヲ除クノ外本人ノ意思ニ反スル服役ハ之ヲ禁ス
第十八條 思想及良心ノ自由ハ不可侵タルヘシ
第十九條 宗教ノ自由ハ何人ニモ保障セラル 如何ナル宗教團體モ國家ヨリ特別ノ特權ヲ受クルコト無カルヘク又政治上ノ權限ヲ行使スルコト無カルへシ
何人モ宗教的ノ行爲、祝典、式典又ハ行事ニ參加スルコトヲ強制セラレサルヘシ
國家及其ノ機關ハ宗教教育又ハ其ノ他如何ナル宗教的活動ヲモ爲ス可カラス
第二十條 集會、言論及定期刊行物竝ニ其ノ他一切ノ表現形式ノ自由ヲ保障ス 檢閲ハ之ヲ禁シ通信手段ノ祕密ハ之ヲ侵ス可カラス
第二十一條 結社、運動及住居選定ノ自由ハ一般ノ福祉ト抵觸セサル範圍内ニ於テ何人ニモ之ヲ保障ス
何人モ外國ニ移住シ又ハ國籍ヲ變更スル自由ヲ有ス
第二十二條 學究上ノ自由及職業ノ選擇ハ之ヲ保障ス
第二十三條 家族ハ人類社會ノ基底ニシテ其ノ傳統ハ善カレ惡シカレ國民ニ滲透ス婚姻ハ男女兩生ノ法律上及社會上ノ爭フ可カラサル平等ノ上ニ存シ兩親ノ強要ノ代リニ相互同意ノ上ニ基礎ツケラレ且男性支配ノ代リニ協力ニ依リ維持セラルヘシ 此等ノ原則ニ反スル諸法律ハ廢止セラレ配偶ノ選擇、財産權、相續、住所ノ選定、離婚竝ニ婚姻及家族ニ關スル其ノ他ノ事項ヲ個人ノ尊嚴及兩性ノ本質的平等ニ立脚スル他ノ法律ヲ以テ之ニ代フヘシ
第二十四條 有ラユル生活範圍ニ於テ法律ハ社會的福祉、自由、正義及民主主義ノ向上發展ノ爲ニ立案セラルヘシ
無償、普遍的且強制的ナル教育ヲ設立スへシ
兒童ノ私利的酷使ハ之ヲ禁止スへシ
公共衞生ヲ改善スヘシ
社會的安寧ヲ計ルヘシ
勞働條件、賃銀及勤務時間ノ基準ヲ定ムヘシ
第二十五條 何人モ働ク權利ヲ有ス
第二十六條 勞働者カ團結、商議及集團行爲ヲ爲ス權利ハ之ヲ保障ス
第二十七條 財産ヲ所有スル權利ハ不可侵ナリ 然レトモ財産權ハ公共ノ福祉ニ從ヒ法律ニ依リ定義セラルヘシ
第二十八條 土地及一切ノ天然資源ノ究極的所有權ハ人民ノ集團的代表者トシテノ國家ニ歸屬ス 國家ハ土地又ハソノ他ノ天然資源ヲ其ノ保存、開發、利用又ハ管理ヲ確保又ハ改善スル爲ニ公正ナル補償ヲ拂ヒテ收用スルコトヲ得
第二十九條 財産ヲ所有スル者ハ義務ヲ負フ 其ノ使用ハ公共ノ利益ノ爲タルヘシ國家ハ公正ナル補償ヲ拂ヒテ私有財産ヲ公共ノ利益ノ爲ニ收用スルコトヲ得
第三十條 何人モ裁判所ノ當該官吏カ發給シ訴追ノ理由タル犯罪ヲ明示セル逮捕状ニ依ルニアラスシテ逮捕セラルルコト無カルへシ 但シ犯罪ノ實行中ニ逮捕セラルル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十一條 何人モ訴追ノ趣旨ヲ直チニ告ケラルルコト無ク又ハ直チニ辯護人ヲ依賴スル特權ヲ與ヘラルルコト無クシテ逮捕又ハ拘留セラレサルヘシ 何人モ交通禁斷者トセラルルコト無カルへシ 何人モ適當ナル理由無クシテ拘留セラレサルヘシ
要求アルトキハ右理由ハ公開廷ニテ本人及其ノ辯護人ノ面前ニ於テ直チニ開示セラルヘシ
第三十二條 何人モ國會ノ定ムル手續ニ依ルニアラサレハ其ノ生命若ハ自由ヲ奪ハレ又ハ刑罰ヲ科セラルルコト無カルへシ
又何人モ裁判所ニ上訴ヲ提起スル權利ヲ奪ハルルコト無カルへシ
第三十三條 人民カ其ノ身體、家庭、書類及所持品ニ對シ侵入、捜査及押收ヨリ保障セラルル權利ハ相當ノ理由ニ基キテノミ發給セラレ殊ニ捜索セラルヘキ場合及拘禁又ハ押收セラルヘキ人又ハ物ヲ表示セル司法逮捕状ニ依ルニアラスシテ害セラルルコト無カルヘシ
各捜索又ハ拘禁若ハ押收ハ裁判所ノ當該官吏ノ發給セル各別ノ逮捕状ニ依リ行ハルヘシ
第三十四條 公務員ニ依ル拷問ハ絶對ニ之ヲ禁ス
第三十五條 過大ナル保釋金ヲ要求スヘカラス 又殘虐若ハ異常ナル刑罰ヲ科スヘカラス
第三十六條 一切ノ刑事訴訟事件ニ於テ被告人ハ公平ナル裁判所ノ迅速ナル公開裁判ヲ受クル權利ヲ享有スヘシ
刑事被告人ハ一切ノ證人ヲ反對訊問スル有ラユル機會ヲ與ヘラルヘク又自己ノ爲ノ證人ヲ公費ヲ以テ獲得スル強制手續ニ對スル權利ヲ有スヘシ
被告人ハ常ニ資格アル辯護人ヲ依賴シ得ヘク若ハ自己ノ努力ニ依リ辯護人ヲ得ル能ハサルトキハ政府ニ依リ辯護人ヲ附添セラルヘシ
第三十七條 何人モ管轄權有ル裁判所ニ依ルニアラサレハ有罪ト宣言セラルルコト無カルへシ
何人モ同一ノ犯罪ニ因リ再度厄ニ遭フコト無カルへシ
第三十八條 何人モ自己ニ不利益ナル證言ヲ爲スコトヲ強要セラレサルヘシ
自白ハ強制、拷問若ハ脅迫ノ下ニ爲サレ又ハ長期ニ亘ル逮捕若ハ拘留ノ後ニ爲サレタルトキハ證據トシテ許容セラレサルヘシ
何人モ自己ニ不利益ナル唯一ノ證據カ自己ノ自白ナル場合ニ於テハ有罪ノ判決又ハ刑ノ宣告ヲ受クルコト無カルへシ
第三十九條 何人モ實行ノ時ニ於テ合法ナリシ行爲ニ因リ刑罰ヲ科セラルルコト無カルへシ
第四章 國會
第四十條 國會ハ國家權力ノ最高ノ機關ニシテ國家ノ唯一ノ法律制定機關タルヘシ
第四十一條 國會ハ三百人ヨリ少カラス五百人ヲ超エサル選擧セラレタル議員ヨリ成ル單一ノ院ヲ以テ構成ス
第四十二條 選擧人及國會議員候補者ノ資格ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ 而シテ右資格ヲ定ムルニ當リテハ性別、人種、信條、皮膚色又ハ社會上ノ身分ニ因リ何等ノ差別ヲ爲スヲ得ス
第四十三條 國會議員ハ國庫ヨリ法律ノ定ムル適當ノ報酬ヲ受クヘシ
第四十四條 國會議員ハ法律ノ規定スル場合ヲ除クノ外如何ナル場合ニ於テモ國會ノ議事ニ出席中又ハ之ニ出席スル爲ノ往復ノ途中ニ於テ逮捕セラルルコト無カルへク又國會ニ於ケル演説、討議又ハ投票ニ因リ國會以外ニ於テ法律上ノ責ヲ問ハルルコト無カルへシ
第四十五條 國會議員ノ任期ハ四年トス 然レトモ此ノ憲法ノ規定スル國會解散ニ因リ滿期以前ニ終了スルコトヲ得
第四十六條 選擧、任命及投票ノ方法ハ法律ニ依リ之ヲ定ムヘシ
第四十七條 國會ハ少クトモ毎年一回之ヲ召集スヘシ
第四十八條 内閣ハ臨時議會ヲ召集スルコトヲ得 國會議員ノ二割ヨリ少カラサル者ノ請願アリタルトキハ之ヲ召集スルコトヲ要ス
第四十九條 國會ハ選擧及議員ノ資格ノ唯一ノ裁決者タルヘシ 當選ノ證明ヲ有スルモ其ノ效力ニ疑アル者ノ當選ヲ拒否セントスルトキハ出席議員ノ多數決ニ依ルヲ要ス
第五十條 議事ヲ行フニ必要ナル定足數ハ議員全員ノ三分ノ一ヨリ少カラサル數トス
此ノ憲法ニ規定スル場合ヲ除クノ外國會ノ行爲ハ凡ヘテ出席議員ノ多數決ニ依ルヘシ
可否同數ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第五十一條 國會ハ議長及其ノ他ノ役員ヲ選定スヘシ 國會ハ議事規則ヲ定メ竝ニ議員ヲ無秩序ナル行動ニ因リ處罰及除名スルコトヲ得 議員除名ノ動議有リタル場合ニ之ヲ實行セントスルトキハ出席議員ノ三分ノ二ヨリ少カラサル者ノ贊成ヲ要ス
第五十二條 法律ハ法律案ニ依ルニアラサレハ之ヲ議決スルコトヲ得ス
第五十三條 國會ノ議事ハ之ヲ公開スヘク祕密會議ハ之ヲ開クコトヲ得ス 國會ハ其ノ議事の記錄ヲ保存シ且發表スヘク一般公衆ハ此ノ記錄ヲ入手シ得ヘシ 出席議員二割ノ要求アルトキハ議題ニ對スル各議員ノ贊否ヲ議事錄ニ記載スヘシ
第五十四條 國會ハ調査ヲ行ヒ證人ノ出頭及證言供述竝ニ記錄ノ提出ヲ強制シ且之ニ應セサル者ヲ處罰スル權限ヲ有スヘシ
第五十五條 國會ハ出席議員ノ多數決ヲ以テ總理大臣ヲ指定スヘシ 總理大臣ノ指定ハ國會ノ他ノ一切ノ事務ニ優先シテ行ハルヘシ
國會ハ諸般ノ國務大臣ヲ設定スヘシ
第五十六條 總理大臣及國務大臣ハ國會ニ議席ヲ有スルト否トニ拘ハラス何時ニテモ法律案ヲ提出シ討論スル目的ヲ以テ出席スルコトヲ得 質問ニ答辯スルコトヲ要求セラレタルトキハ出席スヘシ
第五十七條 内閣ハ國會カ全議員ノ多數決ヲ以テ不信任案ノ決議ヲ通過シタル後又ハ信任案ヲ通過セサリシ後十日以内ニ辭職シ又ハ國會ニ解散ヲ命スヘシ 國會カ解散ヲ命セラレタルトキハ解散ノ日ヨリ三十日ヨリ少ナカラス四十日ヲ超エサル期間内ニ特別選擧ヲ行フヘシ 新タニ選擧セラレタル國會ハ選擧ノ日ヨリ三十日以内ニ之ヲ召集スヘシ
第五十八條 國會ハ罷免訴訟ノ被告タル司法官ヲ裁判スル爲議員中ヨリ彈劾裁判所ヲ構成スヘシ
第五十九條 國會ハ此ノ憲法ノ規定ヲ施行スル爲必要ニシテ適當ナル一切ノ法律ヲ制定スヘシ
第五章 内閣
第六十條 行政權ハ内閣ニ歸屬ス
第六十一條 内閣ハ其ノ首長タル總理大臣及國會ニ依リ授權セラルル其ノ他ノ國務大臣ヲ以テ構成ス
内閣ハ行政權ノ執行ニ當リ國會ニ對シ集團的ニ責任ヲ負フ
第六十二條 總理大臣ハ國會ノ補弼及協贊ヲ以テ國務大臣ヲ任命スヘシ
總理大臣ハ個々ノ國務大臣ヲ任意ニ罷免スルコトヲ得
第六十三條 總理大臣缺員ト爲リタルトキ又ハ新國會ヲ召集シタルトキハ内閣ハ總辭職ヲ爲スヘク新總理大臣指名セラルヘシ
右指名アルマテハ内閣ハ其ノ責務ヲ行フヘシ
第六十四條 總理大臣ハ内閣ニ代リテ法律案ヲ提出シ一般國務及外交關係ヲ國會ニ報告シ竝ニ行政府ノ各部及各支部ノ指揮及監督ヲ行フ
第六十五條 内閣ハ他ノ行政的責任ノホカ法律ヲ忠實ニ執行シ國務ヲ管理スヘシ外交關係ヲ處理スヘシ
公共ノ利益ト認ムル條約、國際規約及協定ヲ事前ノ授權又ハ事後ノ追認ニ依ル國會ノ協贊ヲ以テ締結スヘシ
國會ノ定ムル基準ニ從ヒ内政事務ヲ處理スヘシ
年次豫算ヲ作成シテ之ヲ國會ニ提出スヘシ
此ノ憲法及法律ノ規定ヲ實行スル爲命令及規則ヲ發スヘシ 然ルトキ右命令又ハ規則ハ刑罰規定ヲ包含有スヘカラス
大赦、恩赦、減刑、執行猶豫及復權ヲ賦與スヘシ
第六十六條 一切ノ國會制定法及行政命令ハ當該國務大臣之ニ署名シ總理大臣之ニ副署スヘシ
第六十七條 内閣大臣ハ總理大臣ノ承諾無クシテ在任中訴追セラルルコト無カルへシ 然レトモ此ノ理由ニ因リ如何ナル訴權モ害セラルルコト無シ
第六章 司法
第六十八條 強力ニシテ獨立ナル司法府ハ人民ノ權利ノ堡塁ニシテ全司法權ハ最高法院及國會ノ随時設置スル下級裁判所ニ歸屬ス
特別裁判所ハ之ヲ設置スヘカラス 又行政府ノ如何ナル機關又ハ支部ニモ最終的司法權ヲ賦與スヘカラス
判事ハ凡ヘテ其ノ良心ノ行使ニ於テ獨立タルヘク此ノ憲法及其レニ基キ制定セラルル法律ニノミ拘束セラルヘシ
第六十九條 最高法院ハ規則制定權ヲ有シ其レニ依リ訴訟手續規則、辯護士ノ資格裁判所ノ内部規律、司法行政竝ニ司法權ノ自由ナル行使ニ關係アル其ノ他ノ事項ヲ定ム
檢事ハ裁判所ノ職員ニシテ裁判所ノ規則制定權ニ服スヘシ
最高法院ハ下級裁判所ノ規則ヲ制定スル權限ヲ下級裁判所ニ委任スルコトヲ得
第七十條 判事ハ公開ノ彈劾ニ依リテノミ罷免スルコトヲ得 行政機關又ハ支部ニ依リ懲戒處分ニ附セラルルコト無カルへシ
第七十一條 最高法院ハ首席判事及國會ノ定ムル員數ノ普通判事ヲ以テ構成ス 右判事ハ凡ヘテ内閣ニ依リ任命セラレ不都合ノ所爲無キ限リ滿七十歳ニ到ルマテ其ノ職ヲ免セラルルコト無カルへシ 但シ右任命ハ凡ヘテ任命後最初ノ總選擧ニ於テ、爾後ハ次ノ先位確認後十暦年經過直後行ハルル總選擧ニ於テ審査セラルヘシ若シ選擧民カ判事ノ罷免ヲ多數決ヲ以テ議決シタルトキハ右判事ノ職ハ缺員ト爲ルヘシ
右ノ如キ判事ハ凡ヘテ定期ニ適當ノ報酬ヲ受クヘシ 報酬ハ任期中減額セラルコト無カルへシ
第七十二條 下級裁判所ノ判事ハ各缺員ニ付最高法院ノ指名スル少ナクトモ二人以上ノ候補者ノ氏名ヲ包含スル表ノ中ヨリ内閣之ヲ任命スヘシ 右判事ハ凡ヘテ十年ノ任期ヲ有スヘク再任ノ特權ヲ有シ定期ニ適當ノ報酬ヲ受クヘシ 報酬ハ任期中減額セラルルコト無カルへシ 判事ハ滿七十歳ニ達シタルトキハ退職スヘシ
第七十三條 最高法院ハ最終裁判所ナリ 法律、命令、規則又ハ官憲ノ行爲ノ憲法上合法ナリヤ否ヤノ決定カ問題ト爲リタルトキハ憲法第三章ニ基ク又ハ關連スル有ラユル場合ニ於テハ最高法院ノ判決ヲ以テ最終トス 法律、命令、規則又ハ官憲ノ行爲ノ憲法上合法ナリヤ否ヤノ決定カ問題ト爲リタル其ノ他有ラユル場合ニ於テハ國會ハ最高法院ノ判決ヲ再審スルコトヲ得
再審ニ付スルコトヲ得ル最高法院ノ判決ハ國會議員ノ三分ノ二ノ贊成ヲ以テノミ之ヲ破棄スルコトヲ得 國會ハ最高法院ノ判決ノ再審ニ關スル手續規則ヲ制定スヘシ
第七十四條 外國ノ大使、公使及領事館ニ關係アル一切ノ事件ニ於テハ最高法院ハ專屬的原始管轄ヲ有ス
第七十五條 裁判ハ公開廷ニ於テ行ヒ判決ハ公然言ヒ渡スヘシ 然レトモ裁判所カ公開ヲ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ害有リト全員一致ヲ以テ決スルトキハ非公開ニテ裁判ヲ行フコトヲ得 但シ政治的犯罪、定期刊行物ノ犯罪及此ノ憲法第三章ノ確保スル人民ノ權利カ問題ト爲レル場合ニ於ケル裁判ハ例外ナク公開セラルヘシ
第七章 財政
第七十六條 租税ヲ徴シ金銭ヲ借入レ資金ヲ使用シ竝ニ硬貨及通貨ヲ發行シ及其ノ價格ヲ規整スル權限ハ國會ヲ通シテ行使セラルヘシ
第七十七條 國會ノ行爲ニ依リ又ハ國會ノ定ムル條件ニ依ルニアラサレハ新タニ租税ヲ課シ又ハ現行ノ租税ヲ變更スルコトヲ得ス
此ノ憲法發布ノ時ニ於テ效力ヲ有スル一切租税ハ現行ノ規則カ國會ニ依リ變更セラルルマテ引キ續キ現行ノ規則ニ從ヒ徴集セラルヘシ
第七十八條 充當スヘキ特別豫算無クシテ契約ヲ締結スヘカラス 又國會ノ承認ヲ得ルニアラサレハ國家ノ資産ヲ貸與スヘカラス
第七十九條 内閣ハ一切ノ支出計畫竝ニ歳入及借入豫想ヲ含ム次期會計年度ノ全財政計畫ヲ示ス年次豫算ヲ作成シ之ヲ國會ニ提出スへシ
第八十條 國會ハ豫算ノ項目ヲ不承認、減額、增額若ハ却下シ又ハ新タナル項目ヲ追加スルコトヲ得
國會ハ如何ナル會計年度ニ於テモ借入金額ヲ含ム同年度ノ豫想歳入ヲ超過スル金銭ヲ支出スヘカラス
第八十一條 豫期セサル豫算ノ不足ニ備フル爲内閣ノ直接監督ノ下ニ支出スヘキ豫備費ヲ設クルコトヲ許スコトヲ得
内閣ハ豫備費ヲ以テスル一切ノ支出ニ關シ國會ニ對シ責任ヲ負フヘシ
第八十二條 世襲財産ヲ除クノ外皇室ノ一切ノ財産ハ國民ニ歸屬スへシ 一切ノ皇室財産ヨリスル收入ハ國庫ニ納入スヘシ而シテ法律ノ規定スル皇室ノ手當及費用ハ國會ニ依リ年次豫算ニ於テ支辨セラルヘシ
第八十三條 公共ノ金銭又ハ財産ハ如何ナル宗教制度、宗教的團體若ハ社團ノ使用、利益若ハ支持ノ爲又ハ國家ノ管理ニ服セサル如何ナル慈善、教育若ハ博愛ノ爲ニモ充當セラルルコト無カルへシ
第八十四條 會計檢査院ハ毎年國家ノ一切ノ支出及歳入ノ最終的會計檢査ヲ爲シ内閣ハ次年度中ニ之ヲ國會ニ提出スヘシ
會計檢査院ノ組織及權限ハ國會之ヲ定ムヘシ
第八十五條 内閣ハ定期ニ少ナクトモ毎年財政状態ヲ國會及人民ニ報告スヘシ
第八章 地方政治
第八十六條 府縣知事、市長、町長、徴税權ヲ有スル其ノ他ノ一切ノ下級自治體及法人ノ行政長、府縣議會及地方議會ノ議員竝ニ國會ノ定ムル其ノ他ノ府縣及地方役員ハ夫レ夫レ其ノ社會内ニ於テ直接普通選擧ニ依リ選擧セラルヘシ
第八十七條 首都地方、市及町ノ住民ハ彼等ノ財産、事務及政治ヲ處理シ竝ニ國會ノ制定スル法律ノ範圍内ニ於テ彼等自身ノ憲章ヲ作成スル權利ヲ奪ハルルコト無カルへシ
第八十八條 國會ハ一般法律ノ適用セラレ得ル首都地方、市又ハ町ニ適用セラルヘキ地方的又ハ特別ノ法律ヲ通過スヘカラス 但シ右社會ノ選擧民ノ大多數ノ受諾ヲ條件トスルトキハ此ノ限ニ在ラス
第九章 改正
第八十九條 此ノ憲法ノ改正ハ議員全員ノ三分ノ二ノ贊成ヲ以テ國會之ヲ發議シ人民ニ提出シテ承認ヲ求ムヘシ 人民ノ承認ハ國會ノ指定スル選擧ニ於テ贊成投票ノ多數決ヲ以テ之ヲ爲スへシ
右ノ承認ヲ經タル改正ハ直ニ此ノ憲法ノ要素トシテ人民ノ名ニ於テ皇帝之ヲ公布スヘシ
第十章 至上法
第九十條 此ノ憲法竝ニ之ニ基キ制定セラルル法律及條約ハ國民ノ至上法ニシテ其ノ規定ニ反スル公ノ法律若ハ命令及詔敕若ハ其ノ他ノ政治上ノ行爲又ハ其ノ部分ハ法律上ノ效力ヲ有セサルヘシ
第九十一條 皇帝皇位ニ即キタルトキ竝ニ攝政、國務大臣、國會議員、司法府員及其ノ他ノ一切ノ公務員其ノ官職ニ就キタルトキハ此ノ憲法ヲ尊重擁護スル義務ヲ負フ 此ノ憲法ノ效力發生スル時ニ於テ官職ニ在ル一切ノ公務員ハ右ト同樣ノ義務ヲ負フへク其ノ後任者ノ選擧又ハ任命セラルルマテ其ノ官職ニ止マルヘシ
第十一章 承認
第九十二條 此ノ憲法ハ國會カ出席議員三分ノ二ノ氏名點呼ニ依リ之ヲ承認シタル時ニ於テ確立スヘシ
國會ノ承認ヲ得タルトキハ皇帝ハ此ノ憲法カ國民ノ至上法トシテ確立セラレタル旨ヲ人民ノ名ニ於テ直ニ宣布スヘシ
【資料番號 三十二】日本國憲法(占領憲法)
昭和二十一年十一月三日公布、同二十二年五月三日施行
朕は、日本國民の總意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、樞密顧問の諮詢及び帝國憲法第七十三條による帝國議會の議決を經た帝國憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十一月三日
日 本 國 憲 法
日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす惠澤を確保し、政府の行爲によつて再び戰爭の慘禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔敕を排除する。
日本國民は、恆久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する崇高な理想を深く自覺するのであつて、平和を愛する諸國民の公正と信義に信賴して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、專制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會において、名譽ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。
われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道德の法則は、普遍的なものであり、この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。
日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第一章 天皇
第一條 天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて、この地位は、主權の存する日本國民の總意に基く。
第二條 皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する。
第三條 天皇の國事に關するすべての行爲には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第四條 天皇は、この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、國政に關する權能を有しない。
天皇は、法律の定めるところにより、その國事に關する行爲を委任することができる。
第五條 皇室典範の定めるところにより攝政を置くときは、攝政は、天皇の名でその國事に關する行爲を行ふ。この場合には、前條第一項の規定を準用する。
第六條 天皇は、國會の指名に基いて、内閣總理大臣を任命する。
天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七條 天皇は、内閣の助言と承認により、國民のために、左の國事に關する行爲を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び條約を公布すること。
二 國會を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 國會議員の總選擧の施行を公示すること。
五 國務大臣及び法律の定めるその他の官史の任免竝びに全權委任状及び大使及び公使の信任状を認證すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を認證すること。
七 榮典を授與すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認證すること。
九 外國の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
第八條 皇室に財産を讓り渡し、又は皇室が、財産を讓り受け、若しくは賜與することは、國會の議決に基かなければならない。
第二章 戰爭の放棄
第九條 日本國民は、正義と秩序を基調とする國際平和を誠實に希求し、國權の發動たる戰爭と、武力による威嚇又は武力の行使は、國際紛爭を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない。
第三章 國民の權利及び義務
第十條 日本國民たる要件は、法律でこれを定める。
第十一條 國民は、すべての基本的人權の享有を妨げられない。この憲法が國民に保障する基本的人權は、侵すことのできない永久の權利として、現在及び將來の國民に與へられる。
第十二條 この憲法が國民に保障する自由及び權利は、國民の不斷の努力によつて、これを保持しなければならない。又、國民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三條 すべて國民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に對する國民の權利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四條 すべて國民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社會的身分又は門地により、政治的、經濟的又は社會的關係において、差別されない。
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
榮譽、勳章その他の榮典の授與は、いかなる特權も伴はない。榮典の授與は、現にこれを有し、又は將來これを受ける者の一代に限り、その效力を有する。
第十五條 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、國民固有の權利である。
すべて公務員は、全體の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
公務員の選擧については、成年者による普通選擧を保障する。
すべて選擧における投票の祕密は、これを侵してはならない。選擧人は、その選擇に關し公的にも私的にも責任を問はれない。
第十六條 何人も、損害の救濟、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廢止又は改正その他の事項に關し、平穩に請願する權利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第十七條 何人も、公務員の不法行爲により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、國又は公共團體に、その賠償を求めることができる。
第十八條 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第十九條 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十條 信教の自由は、何人に對してもこれを保障する。いかなる宗教團體も、國から特權を受け、又は政治上の權力を行使してはならない。
何人も、宗教上の行爲、祝典、儀式又は行事に參加することを強制されない。
國及びその機關は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第二十一條 集會、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
檢閲は、これをしてはならない。通信の祕密は、これを侵してはならない。
第二十二條 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移轉及び職業選擇の自由を有する。
何人も、外國に移住し、又は國籍を離脱する自由を侵されない。
第二十三條 學問の自由は、これを保障する。
第二十四條 婚姻は、兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選擇、財産權、相續、住居の選定、離婚竝びに婚姻及び家族に關するその他の事項に關しては、法律は、個人の尊嚴と兩性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二十五條 すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。
國は、すべての生活部面について、社會福祉、社會保障及び公衆衞生の向上及び增進に努めなければならない。
第二十六條 すべて國民は、法律の定めるところにより、その能力に應じて、ひとしく教育を受ける權利を有する。
すべて國民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第二十七條 すべて國民は、勤勞の權利を有し、義務を負ふ。
賃金、就業時間、休息その他の勤勞條件に關する基準は、法律でこれを定める。
兒童は、これを酷使してはならない。
第二十八條 勤勞者の團結する權利及び團體交渉その他の團體行動をする權利は、これを保障する。
第二十九條 財産權は、これを侵してはならない。
財産權の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
私有財産は、正當な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第三十條 國民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第三十一條 何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二條 何人も、裁判所において裁判を受ける權利を奪はれない。
第三十三條 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、權限を有する司法官憲が發し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四條 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに辯護人に依賴する權利を與へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正當な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその辯護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五條 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押收を受けることのない權利は、第三十三條の場合を除いては、正當な理由に基いて發せられ、且つ捜索する場所及び押收する物を明示する令状がなければ、侵されない。
捜索又は押收は、權限を有する司法官憲が發する各別の令状により、これを行ふ。
第三十六條 公務員による拷問及び殘虐な刑罰は、絶對にこれを禁ずる。
第三十七條 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける權利を有する。
刑事被告人は、すべての證人に對して審問する機會を充分に與へられ、又、公費で自己のために強制的手續により證人を求める權利を有する。
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する辯護人を依賴することができる。被告人が自らこれを依賴することができないときは、國でこれを附する。
第三十八條 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを證據とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九條 何人も、實行の時に適法であつた行爲又は既に無罪とされた行爲については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十條 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、國にその補償を求めることができる。
第四章 國會
第四十一條 國會は、國權の最高機關であつて、國の唯一の立法機關である。
第四十二條 國會は、衆議院及び參議院の兩議院でこれを構成する。
第四十三條 兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。
兩議院の議員の定數は、法律でこれを定める。
第四十四條 兩議院の議員及びその選擧人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信條、性別、社會的身分、門地、教育、財産又は收入によつて差別してはならない。
第四十五條 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間滿了前に終了する。
第四十六條 參議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半數を改選する。
第四十七條 選擧區、投票の方法その他兩議院の議員の選擧に關する事項は、法律でこれを定める。
第四十八條 何人も、同時に兩議院の議員たることはできない。
第四十九條 兩議院の議員は、法律の定めるところにより、國庫から相當額の歳費を受ける。
第五十條 兩議院の議員は、法律の定める場合を除いては、國會の會期中逮捕されず、會期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、會期中これを釋放しなければならない。
第五十一條 兩議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
第五十二條 國會の常會は、毎年一回これを召集する。
第五十三條 内閣は、國會の臨時會の召集を決定することができる。いづれかの議院の總議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
第五十四條 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に衆議院議員の總選擧を行ひ、その選擧の日から三十日以内に、國會を召集しなければならない。
衆議院が解散されたときは、參議院は、同時に閉會となる。但し、内閣は、國に緊急の必要があるときは、參議院の緊急集會を求めることができる。
前項但書の緊急集會において採られた措置は、臨時のものであつて、次の國會開會の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その效力を失ふ。
第五十五條 兩議院は各々その議員の資格に關する爭訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。
第五十六條 兩議員は、各々その總議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
兩議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半數でこれを決し、可否同數のときは、議長の決するところによる。
第五十七條 兩議院の會議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多數で議決したときは、祕密會を開くことができる。
兩議院は、各々その會議の記錄を保存し、祕密會の記錄の中で特に祕密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを會議錄に記載しなければならない。
第五十八條 兩議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
兩議院は、各々その會議その他の手續及び内部の規律に關する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多數による議決を必要とする。
第五十九條 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議院で可決したとき法律となる。
衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。
前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、兩議院の協議會を開くことを求めることを妨げない。
參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
第六十條 豫算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
豫算について、參議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は參議院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。
第六十一條 條約の締結に必要な國會の承認については、前條第二項の規定を準用する。
第六十二條 兩議院は、各々國政に關する調査を行ひ、これに關して、證人の出頭及び證言竝びに記錄の提出を要求することができる。
第六十三條 内閣總理大臣その他の國務大臣は、兩議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について發言するため議院に出席することができる。又、答辯又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
第六十四條 國會は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、兩議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。
彈劾に關する事項は、法律でこれを定める。
第五章 内閣
第六十五條 行政權は、内閣に屬する。
第六十六條 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣總理大臣及びその他の國務大臣でこれを組織する。
内閣總理大臣その他の國務大臣は、文民でなければならない。
内閣は、行政權の行使について、國會に對して連帶して責任を負ふ。
第六十七條 内閣總理大臣は、國會議員の中から國會の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
衆議院と參議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、國會休會中の期間を除いて十日以内に、參議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。
第六十八條 内閣總理大臣は、國務大臣を任命する。但し、その過半數は、國會議員の中から選ばれなければならない。
内閣總理大臣は、任意に國務大臣を罷免することができる。
第六十九條 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、總辭職をしなければならない。
第七十條 内閣總理大臣が缺けたとき、又は衆議院議員總選擧の後に初めて國會の招集があつたときは、内閣は、總辭職をしなければならない。
第七十一條 前二條の場合には、内閣は、あらたに内閣總理大臣が任命されるまで引き續きその職務を行ふ。
第七十二條 内閣總理大臣は、内閣を代表して議案を國會に提出し、一般國務及び外交關係について國會に報告し、竝びに行政各部を指揮監督する。
第七十三條 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠實に執行し、國務を總理すること。
二 外交關係を處理すること。
三 條約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、國會の承認を經ることを必要とする。
四 法律の定める基準に從ひ、官吏に關する事務を掌理すること。
五 豫算を作成して國會に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を實施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることはできない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復權を決定すること。
第七十四條 法律及び政令には、すべて主任の國務大臣が署名し、内閣總理大臣が連署することを必要とする。
第七十五條 國務大臣は、その在任中、内閣總理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の權利は、害されない。
第六章 司法
第七十六條 すべて司法權は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に屬する。
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機關は、終審として裁判を行ふことができない。
すべて裁判官は、その良心に從ひ獨立してその職權を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第七十七條 最高裁判所は、訴訟に關する手續、辯護士、裁判所の内部規律及び司法事務處理に關する事項について、規則を定める權限を有する。
檢察官は、最高裁判所の定める規則に從はなければならない。
最高裁判所は、下級裁判所に關する規則を定める權限を、下級裁判所に委任することができる。
第七十八條 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒處分は、行政機關がこれを行ふことはできない。
第七十九條 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員數のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員總選擧の際國民の審査に付し、その後十年を經過した後初めて行はれる衆議院議院總選擧の際更に審査に付し、その後も同樣とする。
前項の場合において、投票者の多數が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
審査に關する事項は、法律でこれを定める。
最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齡に達した時に退官する。
最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相當額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十條 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齡に達した時には退官する。
下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相當額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十一條 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は處分が憲法に適合するかしないかを決定する權限を有する終審裁判所である。
第八十二條 裁判の對審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、對審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に關する犯罪又はこの憲法第三章で保障する國民の權利が問題となつてゐる事件の對審は、常にこれを公開しなければならない。
第七章 財政
第八十三條 國の財政を處理する權限は、國會の議決に基いて、これを行使しなければならない。
第八十四條 あらたに租税を課し、又は現行の租税を變更するには、法律又は法律の定める條件によることを必要とする。
第八十五條 國費を支出し、又は國が債務を負擔するには、國會の議決に基くことを必要とする。
第八十六條 内閣は、毎會計年度の豫算を作成し、國會に提出して、その審議を受け議決を經なければならない。
第八十七條 豫見し難い豫算の不足に充てるため、國會の議決に基いて豫備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
すべて豫備費の支出については、内閣は、事後に國會の承諾を得なければならない。
第八十八條 すべて皇室財産は、國に屬する。すべて皇室の費用は、豫算に計上して國會の議決を經なければならない。
第八十九條 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは團體の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に屬しない慈善、教育若しくは博愛の事業に對し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第九十條 國の收入支出の決算は、すべて毎年會計檢査院がこれを檢査し、内閣は、次の年度に、その檢査報告とともに、これを國會に提出しなければならない。
會計檢査院の組織及び權限は、法律でこれを定める。
第九十一條 内閣は、國會及び國民に對し、定期に、少くとも毎年一回、國の財政状況について報告しなければならない。
第八章 地方自治
第九十二條 地方公共團體の組織及び運營に關する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三條 地方公共團體には、法律の定めるところにより、その議事機關として議會を設置する。
地方公共團體の長、その議會の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共團體の住民が、直接これを選擧する。
第九十四條 地方公共團體は、その財産を管理し、事務を處理し、及び行政を執行する權能を有し、法律の範圍内で條例を制定することができる。
第九十五條 一の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共團體の住民の投票においてその過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない。
第九章 改正
第九十六條 この憲法の改正は、各議院の總議員の三分の二以上の贊成で、國會が、これを發議し、國民に提案してその承認を經なければならない。この承認には、特別の國民投票又は國會の定める選擧の際行はれる投票において、その過半數の贊成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を經たときは、天皇は、國民の名で、この憲法と一體を成すものとして、直ちにこれを公布する。
第十章 最高法規
第九十七條 この憲法が日本國民に保障する基本的人權は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの權利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び將來の國民に對し、侵すことのできない永久の權利として信託されたものである。
第九十八條 この憲法は、國の最高法規であつて、その條規に反する法律、命令、詔敕及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その效力を有しない。
日本國が締結した條約及び確立された國際法規は、これを誠實に遵守することを必要とする。
第九十九條 天皇又は攝政及び國務大臣、國會議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
第十一章 補則
第百條 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を經過した日から、これを施行する。
この憲法を施行するために必要な法律の制定、參議院議員の選擧及び國會召集の手續竝びにこの憲法を施行するために必要な準備手續は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。
第百一條 この憲法施行の際、參議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、國會としての權限を行ふ。
第百二條 この憲法による第一期の參議院議員のうち、その半數の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。
第百三條 この憲法施行の際現に在職する國務大臣、衆議院議員及び裁判官竝びにその他の公務員で、その地位に相應する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、當然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選擧又は任命されたときは、當然その地位を失ふ。
【資料番號 三十三】皇室典範(占領典範)
昭和二十二年一月十六日法律第三號制定(同年五月三日施行)、
昭和二四年五月三一日法律第一三四號改正
第一章 皇位繼承
第一條 皇位は、皇統に屬する男系の男子が、これを繼承する。
第二條 皇位は、左の順序により、皇族に、これを傳える。
一 皇長子
二 皇長孫
三 その他の皇長子の子孫
四 皇次子及びその子孫
五 その他の皇子孫
六 皇兄弟及びその子孫
七 皇伯叔父及びその子孫
2 前項各號の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを傳える。
3 前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
第三條 皇嗣に、精神若しくは身體の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室會議の議により、前條に定める順序に從つて、皇位繼承の順序を變えることができる。
第四條 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。
第二章 皇族
第五條 皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。
第六條 嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。
第七條 王が皇位を繼承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを親王及び内親王とする
第八條 皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という。
第九條 天皇及び皇族は、養子をすることができない。
第十條 立后及び皇族男子の婚姻は、皇室會議の議を經ることを要する。
第十一條 年齡十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室會議の議により、皇族の身分を離れる。
2 親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室會議の議により、皇族の身分を離れる。
第十二條 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。
第十三條 皇族の身分を離れる親王又は王の妃竝びに直系卑屬及びその妃は、他の皇族と婚姻した女子及びその直系卑屬を除き、同時に皇族の身分を離れる。但し、直系卑屬及びその妃については、皇室會議の議により、皇族の身分を離れないものとすることができる。
第十四條 皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたときは、その意思により、皇族の身分を離れることができる。
2 前項の者が、その夫を失つたときは、同項による場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室會議の議により、皇族の身分を離れる。
3 第一項の者は、離婚したときは、皇族の身分を離れる。
4 第一項及び前項の規定は、前條の他の皇族と婚姻した女子に、これを準用する。
第十五條 皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。
第三章 攝政
第十六條 天皇が成年に達しないときは、攝政を置く。
2 天皇が、精神若しくは身體の重患又は重大な事故により、國事に關する行爲をみずからすることができないときは、皇室會議の議により、攝政を置く。
第十七條 攝政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一 皇太子又は皇太孫
二 親王及び王
三 皇后
四 皇太后
五 太皇太后
六 内親王及び女王
2 前項第二號の場合においては、皇位繼承の順序に從い、同項第六號の場合においては、皇位繼承の順序に準ずる。
第十八條 攝政又は攝政となる順位にあたる者に、精神若しくは身體の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室會議の議により、前條に定める順序に從つて、攝政又は攝政となる順序を變えることができる。
第十九條 攝政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前條の故障があるために、他の皇族が、攝政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に對する場合を除いては、攝政の任を讓ることがない。
第二十條 第十六條第二項の故障がなくなつたときは、皇室會議の議により、攝政を廢する。
第二十一條 攝政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の權利は、害されない。
第四章 成年、敬稱、即位の禮、大喪の禮、皇統譜及び陵墓
第二十二條 天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、十八年とする。
第二十三條 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬稱は、陛下とする。
2 前項の皇族以外の皇族の敬稱は、殿下とする。
第二十四條 皇位の繼承があつたときは、即位の禮を行う。
第二十五條 天皇が崩じたときは、大喪の禮を行う。
第二十六條 天皇及び皇族の身分に關する事項は、これを皇統譜に登錄する。
第二十七條 天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所を陵、その他の皇族を葬る所を墓とし、陵及び墓に關する事項は、これを陵籍及び墓籍に登錄する。
第五章 皇室會議
第二十八條 皇室會議は、議員十人でこれを組織する。
2 議員は、皇族二人、衆議院及び參議院の議長及び副議長、内閣總理大臣、宮内廳の長竝びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。
3 議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各々成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九條 内閣總理大臣たる議員は、皇室會議の議長となる。
第三十條 皇室會議に、豫備議員十人を置く。
2 皇族及び最高裁判所の裁判官たる議員の豫備議員については、第二十八條第三項の規定を準用する。
3 衆議院及び參議院の議長及び副議長たる議員の豫備議員は、各々衆議院及び參議院の議員の互選による。
4 前二項の豫備議員の員數は、各々その議員の員數と同數とし、その職務を行う順序は、互選の際、これを定める。
5 内閣總理大臣たる議員の豫備議員は、内閣法の規定により臨時に内閣總理大臣の職務を行う者として指定された國務大臣を以て、これに充てる。
6 宮内廳の長たる議員の豫備議員は、内閣總理大臣の指定する宮内廳の官吏を以て、これに充てる。
7 議員に事故のあるとき、又は議員が缺けたときは、その豫備議員が、その職務を行う。
第三十一條 第二十八條及び前條において、衆議院の議長、副議長又は議員とあるのは、衆議院が解散されたときは、後任者の定まるまでは、各々解散の際衆議院の議長、副議長又は議員であつた者とする。
第三十二條 皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官たる議員及び豫備議員の任期は、四年とする。
第三十三條 皇室會議は、議長が、これを招集する。
2 皇室會議は、第三條、第十六條第二項、第十八條及び第二十條の場合には、四人以上の議員の要求があるときは、これを招集することを要する。
第三十四條 皇室會議は、六人以上の議員の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
第三十五條 皇室會議の議事は、第三條、第十六條第二項、第十八條及び第二十條の場合には、出席した議員の三分の二以上の多數でこれを決し、その他の場合には、過半數でこれを決する。
2 前項後段の場合において、可否同數のときは、議長の決するところによる。
第三十六條 議員は、自分の利害に特別の關係のある議事には、參與することができない。
第三十七條 皇室會議は、この法律及び他の法律に基く權限のみを行う。
附 則
1 この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
2 現在の皇族は、この法律による皇族とし、第六條の規定の適用については、これを嫡男系嫡出の者とする。
3 現在の陵及び墓は、これを第二十七條の陵及び墓とする。
【資料番號 三十四】教育敕語等排除に關する決議
(昭和二十三年六月十九日衆議院決議)
民主平和國家として世界史的建設途上にあるわが國の現實は、その精神内容において未だ決定的な民主化を確認するを得ないのは遺憾である。これが徹底に最も緊要なことは教育基本法に則り、教育の革新と振興とをはかることにある。しかるに既に過去の文書となつている教育敕語竝びに陸海軍軍人に賜わりたる敕諭その他の教育に關する諸詔敕が、今日もなお國民道德の指導原理としての性格を持續しているかの如く誤解されるのは、從來の行政上の措置が不十分であつたがためである。
思うに、これらの詔敕の根本的理念が主權在君竝びに神話的國體觀に基いている事實は、明かに基本的人權を損い、且つ國際信義に對して疑點を殘すもととなる。よつて憲法第九十八條の本旨に從い、ここに衆議院は院議を以て、これらの詔敕を排除し、その指導原理的性格を認めないことを宣言する。政府は直ちにこれらの謄本を回收し、排除の措置を完了すべきである。
右決議する。
【資料番號 三十五】教育敕語等の失效確認に關する決議
(昭和二十三年六月十九日參議院決議)
われらは、さきに日本國憲法の人類普遍の原理に則り、教育基本法を制定して、わが國家及びわが民族を中心とする教育の誤りを徹底的に拂拭し、眞理と平和とを希求する人間を育成する民主主義的教育理念をおごそかに宣明した。その結果として、教育敕語は、軍人に賜はりたる敕諭、戊申詔書、青少年學徒に賜はりたる敕語その他の諸詔敕とともに、既に廢止せられその效力を失つている。
しかし教育敕語等が、あるいは從來の如き效力を今日なお保有するかの疑いを懷く者あるをおもんばかり、われらはとくに、それらが既に效力を失つている事實を明確にするとともに、政府をして教育敕語その他の諸詔敕の謄本をもれなく回收せしめる。
われらはここに、教育の眞の權威の確立と國民道德の振興のために、全國民が一致して教育基本法の明示する新教育理念の普及徹底に努力をいたすぺきことを期する。
右決議する。
【資料番號 三十六】日本國との平和條約(サンフランシスコ講和條約、桑港條約)
(昭和二十六年九月八日署名、同二十七年四月二十八日公布、同日發效)
連合國及び日本國は、兩者の關係が、今後、共通の福祉を增進し且つ國際の平和及び安全を維持するために主權を有する對等のものとして友好的な連携の下に協力する國家の間の關係でなければならないことを決意し、よつて、兩者の間の戰爭状態の存在の結果として今なお未決である問題を解決する平和條約を締結することを希望するので、日本國としては、國際連合への加盟を申請し且つあらゆる場合に國際連合憲章の原則を遵守し、世界人權宣言の目的を實現するために努力し、國際連合憲章第五十五條及び第五十六條に定められ且つ既に降伏後の日本國の法制によつて作られはじめた安定及び福祉の條件を日本國内に創造するために努力し、竝びに公私の貿易及び通商において國際的に承認された公正な慣行に從う意思を宣言するので、
連合國は、前項に揚げた日本國の意思を歡迎するので、
よつて、連合國及び日本國は、この平和條約を締結することに決定し、これに應じて下名の全權委員を任命した。これらの全權委員は、その全權委任状を示し、それが良好妥當であると認められた後、次の規定を協定した。
第一章 平和
第一條
(a) 日本國と各連合國との間の戰爭状態は、第二十三條の定めるところによりこの條約が日本國と當該連合國との間に效力を生ずる日に終了する。
(b) 連合國は、日本國及びその領水に對する日本國民の完全な主權を承認する。
第二章 領域
第二條
(a) 日本國は、朝鮮の獨立を承認して、濟州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。
(b) 日本國は、臺灣及び澎湖諸島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。
(c) 日本國は、千島列島竝びに日本國が千九百五年九月五日のポーツマス條約の結果として主權を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。
(d) 日本國は、國際連盟の委任統治制度に關連するすべての權利、權原及び請求權を放棄し、且つ、以前に日本國の委任統治の下にあつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の國際連合安全保障理事會の行動を受諾する。
(e) 日本國は、日本國民の活動に由來するか又は他に由來するかを問わず、南極地域のいずれの部分に對する權利若しくは權原又はいずれの部分に關する利益についても、すべての請求權を放棄する。
(f) 日本國は、新南群島及び西沙群島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。
第三條
日本國は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)竝びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆國を唯一の施政權者とする信託統治制度の下におくこととする國際連合に對する合衆國のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆國は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に對して、行政、立法及び司法上の權力の全部及び一部を行使する權利を有するものとする。
第四條
(a) この條の(b)の規定を留保して、日本國及びその國民の財産で第二條に揚げる地域にあるもの竝びに日本國及びその國民の請求權(債權を含む。)で現にこれらの地域の施政を行っている當局及びそこの住民(法人を含む。)に對するものの處理竝びに日本國におけるこれらの當局及び住民の財産竝びに日本國及びその國民に對するこれらの當局及び住民の請求權(債權を含む。)の處理は、日本國とこれらの當局との間の特別取極の主題とする。第二條に揚げる地域にある連合國又はその國民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行つている當局が現状で返還しなければならない。(國民という語は、この條約で用いるときはいつでも、法人を含む。)
(b) 日本國は、第二條及び第三條に揚げる地域のいずれかにある合衆國軍政府により、又はその指令に從って行われた日本國及びその國民の財産の處理の效力を承認する。
(c) 日本國とこの條約に從って日本國の支配から除かれる領域とを結ぶ日本所有の海底電線は二等分され、日本國は、日本の終點施設及びこれに連なる電線の半分を保有し、分離される領域は、殘りの電線及びその終點施設を保有する。
第三章 安全
第五條
(a) 日本國は、國際連合憲章第二條に揚げる義務、特に次の義務を受諾する。
(ⅰ) その國際紛爭を、平和的手段によつて國際の平和及び安全竝びに正義を危うくしないように解決すること。
(ⅱ) その國際關係において、武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる國の領土保全又は政治的獨立に對するものも、また、國際連合の目的と兩立しない他のいかなる方法によるものも愼むこと。
(ⅲ) 國際連合が憲章に從つてとるいかなる行動についても國際連合にあらゆる援助を與え、且つ、國際連合が防止行動又は強制行動をとるいかなる國に對しても援助の供與を愼むこと。
(b) 連合國は、日本國との關係において國際連合憲章第二條の原則を指針とすべきことを確認する。
(c) 連合國としては、日本國が主權國として國際連合憲章第五十一條に掲げる個別的又は集團的自衞の固有の權利を有すること及び日本國が集團的安全保障取極を自發的に締結することができることを承認する。
第六條
(a) 連合國のすべての占領軍は、この條約の效力發生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本國から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合國を一方とし、日本國を他方として雙方の間に締結された若しくは締結される二國間若しくは多數國間の協定に基く、又はその結果としての外國軍隊の日本國の領域における駐屯又は駐留を妨げるものではない。
(b) 日本國軍隊の各自の家庭への復歸に關する千九百四十五年七月二十六日のポツダム宣言の第九項の規定は、まだその實施が完了されていない限り、實行されるものとする。
(c) まだ代價が支拂われていないすべての日本財産で、占領軍の使用に供され、且つ、この條約の效力發生の時に占領軍が占有しているものは、相互の合意によつて別段の取極が行われていない限り、前記の九十日以内に日本國政府に返還しなければならない。
第四章 政治及び經濟條項
第七條
(a) 各連合國は、自國と日本國との間に條約が效力を生じた後一年以内に、日本國との戰前のいずれの二國間の條約又は協約を引き續いて有效とし又は復活させることを希望するかを日本國に通告するものとする。こうして通告された條約又は協約は、この條約に適合することを確保するための必要な修正を受けるだけで、引き續いて有效とされ、又は復活される。こうして通告された條約及び協約は、通告の日の後三箇月で、引き續いて有效なものとみなされ、又は復活され、且つ、國際連合事務局に登錄されなければならない。日本國にこうして通告されないすべての條約及び協約は、廢棄されたものとみなす。
(b)この條約の(a)に基いて行う通告においては、條約又は協約の實施又は復活に關し、國際關係について通告國が責任をもつ地域を除外することができる。この除外は、除外の適用を終止することが日本國に通告される日の三箇月後まで行われるものとする。
第八條
(a) 日本國は、連合國が千九百三十九年九月一日に開始された戰爭状態を終了するために現に締結し又は今後締結するすべての條約及び連合國が平和の回復のため又はこれに關連して行う他の取極の完全な效力を承認する。日本國は、また、從前の國際連盟及び常設國際司法裁判所を終止するために行われた取極を受諾する。
(b) 日本國は、千九百十九年九月十日のサン・ジェルマン=アン=レイの諸條約及び千九百三十六年七月二十日のモントルーの海峡條約の署名國であることに由來し、竝びに千九百二十三年七月二十四日にローザンヌで署名されたトルコとの平和條約の第十六條に由來するすべての權利及び利益を放棄する。
(c) 日本國は、千九百三十年一月二十日のドイツと債權國との間の協定及び千九百三十年五月十七日の信託協定を含むその附屬書竝びに千九百三十年一月二十日の國際決濟銀行に關する條約及び國際決濟銀行の定款に基いて得たすべての權利、權原及び利益を放棄し、且つ、それから生ずるすべての義務を免れる。日本國は、この條約の最初の效力發生の後六箇月以内に、この項に揚げる權利、權原及び利益の放棄をパリの外務省に通告するものとする。
第九條
日本國は、公海における漁獵の規制又は制限竝びに漁業の保存及び發展を規定する二國間及び多數國間の協定を締結するために、希望する連合國とすみやかに交渉を開始するものとする。
第十條
日本國は、千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書竝びにこれを補足するすべての附屬書、書簡及び文書の規定から生じるすべての利得及び特權を含む中國におけるすべての特殊の權利及び利益を放棄し、且つ、前記の議定書、附屬書、書簡及び文書を日本國に關して廢棄することに同意する。
第十一條
日本國は、極東國際軍事裁判所竝びに日本國内及び國外の他の連合國戰爭犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本國で拘禁されている日本國民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び假出獄させる權限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本國の勸告に基く場合の外、行使することができない。極東國際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この權限は、裁判所に代表者を出した政府の過半數の決定及び日本國の勸告に基く場合の外、行使することができない。
第十二條
(a) 日本國は、各連合國と、貿易、海運その他の通商關係を安定した且つ友好的な基礎の上におくために、條約又は協定を締結するための交渉をすみやかに開始する用意があることを宣言する。
(b) 該當する條約又は協定が締結されるまで、日本國は、この條約の最初の效力發生の後四年間、
(1) 各連合國竝びにその國民、産品及び船舶に次の待遇を與える。
(ⅰ) 貨物の輸出入に對する、又はこれに關連する關税、課金、制限その他の規制に關する最惠國待遇
(ⅱ) 海運、航海及び輸入貨物に關する内國民待遇竝びに自然人、法人及びその利益に關する内國民待遇。この待遇は、税金の賦課及び徴收、裁判を受けること、契約の締結及び履行、財産權(有體財産及び無體財産に關するもの)、日本國の法律に基いて組織された法人への參加竝びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に關するすべての事項を含むものとする。
(2) 日本國の國營商企業の國外における賣買が商業的考慮にのみ基くことを確保する。
(c) もっとも、いずれの事項に關しても、日本國は、連合國が當該事項についてそれぞれ内國民待遇又は最惠國待遇を日本國に與える限度においてのみ、當該連合國に内國民待遇又は最惠國待遇を與える義務を負うものとする。前段に定める相互主義は、連合國の非本土地域の産品、船舶、法人及びそこに住所を有する人の場合竝びに連邦政府をもつ連合國の邦又は州の法人及びそこに住所を有する人の場合には、その地域、邦又は州において日本國に與えられる待遇に照らして決定される。
(d) この條の適用上、差別的措置であって、それを適用する當事國の通商條約に通常規定されている例外に基くもの、その當事國の對外的財政状態若しくは國際收支を保護する必要に基くもの(海運及び航海に關するものを除く。)又は重大な安全上の利益を維持する必要に基くものは、事態に相應しており、且つ、ほしいままな又は不合理な方法で適用されない限り、それぞれ内國民待遇又は最惠國待遇の許與を害するものと認めてはならない。
(e) この條に基く日本國の義務は、この條約の第十四條に基く連合國の權利の行使によつて影響されるものではない。また、この條の規定は、この條約の第十五條によつて日本國が引き受ける約束を制限するものと了解してはならない。
第十三條
(a) 日本國は、國際民間航空運送に關する二國間又は多數國間の協定を締結するため、一又は二以上の連合國の要請があつたときはすみやかに、當該連合國と交渉を開始するものとする。
(b) 一又は二以上の前記の協定が締結されるまで、日本國は、この條約の最初の效力發生の時から四年間、この效力發生の日にいずれかの連合國が行使しているところよりも不利でない航空交通の權利及び特權に關する待遇を當該連合國に與え、且つ、航空業務の運營及び發達に關する完全な機會均等を與えるものとする。
(c) 日本國は、國際民間航空條約九十三條に從つて同條約の當事國となるまで、航空機の國際航空に適用すべきこの條約の規定を實施し、且つ、同條約の條項に從つて同條約の附屬書として採擇された標準、方式及び手續を實施するものとする。
第五章 請求權及び財産
第十四條
(a) 日本國は、戰爭中に生じさせた損害及び苦痛に對して、連合國に賠償を支拂うべきことが承認される。しかし、また、存立可能な經濟を維持すべきものとすれば、日本國の資源は、日本國がすべての前記の損害及び苦痛に對して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。
よって、
1 日本國は、現在の領域が日本國軍隊によつて占領され、且つ、日本國によつて損害を與えられた連合國が希望するときは、生産、沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を當該連合國の利用に供することによつて、與えた損害を修復する費用をこれらの國に補償することに資するために、當該連合國とすみやかに交渉を開始するものとする。その取極は、他の連合國に追加負擔を課することを避けなければならない。また、原材料からの製造が必要とされる場合には、外國爲替上の負擔を日本國に課さないために、原材料は、當該連合國が供給しなければならない。
2(Ⅰ) 次の(Ⅱ)の規定を留保して、各連合國は、次に掲げるもののすべての財産、權利及び利益でこの條約の最初の效力發生の時にその管轄の下にあるものを差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で處分する權利を有する。
(a) 日本國及び日本國民
(b) 日本國又は日本國民の代理者又は代行者 竝びに
(c) 日本國又は日本國民が所有し、又は支配した團體
この(Ⅰ)に明記する財産、權利及び利益は、現に、封鎖され、若しくは所屬を變じており、又は連合國の敵産管理當局の占有若しくは管理に係るもので、これらの資産が當該當局の管理の下におかれた時に前記の(a)、(b)又は(c)に掲げるいずれかの人又は團體に屬し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。
(Ⅱ) 次のものは、前記の(Ⅰ)に明記する權利から除く。
(ⅰ) 日本國が占領した領域以外の連合國の一國の領域に當該政府の許可を得て戰爭中に居住した日本の自然人の財産。但し、戰爭中に制限を課され、且つ、この條約の最初の效力發生の日にこの制限を解除されない財産を除く。
(ⅱ) 日本國政府が所有し、且つ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品竝びに日本國の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具及び用具類その他の投資敵性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であつたもの
(ⅲ) 宗教團體又は私的慈善團體に屬し、且つ、もつぽら宗教又は慈善の目的に使用した財産
(ⅳ) 關係國と日本國との間における千九百四十五年九月二日後の貿易及び金融の關係の再開の結果として日本國の管轄内にはいつた財産、權利及び利益。但し、當該連合國の法律に反する取引から生じたものを除く。
(ⅴ) 日本國若しくは日本國民の債務、日本國に所在する有體財産に關する權利、權原若しくは利益、日本國の法律に基いて組織された企業に關する利益又はこれらについての證書。但し、この例外は、日本國の通貨で表示された日本國及びその國民の債務にのみ適用する。
(Ⅲ) 前記の例外(ⅰ)から(ⅴ)までに揚げる財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支拂われることを條件として、返還しなければならない。これらの財産が清算されているときは、代わりに賣得金を返還しなければならない。
(Ⅳ) 前記の(Ⅰ)に規定する日本財産を差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で處分する權利は、當該連合國の法律に從つて行使され、所有者は、これらの法律によつて與えられる權利のみを有する。
(Ⅴ) 連合國は、日本の商標竝びに文學的及び美術的著作權を各國の一般的事情が許す限り日本國に有利に取り扱うことに同意する。
(b) この條約に別段の定がある場合を除き、連合國は、連合國のすべての賠償請求權、戰爭の遂行中に日本國及びその國民がとつた行動から生じた連合國及びその國民の他の請求權竝びに占領の直接軍事費に關する連合國の請求權を放棄する。
第十五條
(a) この條約が日本國と當該連合國との間に效力を生じた後九箇月以内に申請があつたときは、日本國は、申請の日から六箇月以内に、日本國にある各連合國及びその國民の有體財産及び無體財産竝びに種類のいかんを問わずすべての權利又は利益で、千九百四十一年十二月七日から千九百四十五年九月二日までの間のいずれかの時に日本國内にあつたものを返還する。但し、所有者が強迫又は詐欺によることなく自由にこれを處分した場合は、この限りでない。この財産は、戰爭があつたために課せられたすべての負擔及び課金を免除して、その返還のための課金を課さずに返還しなければならない。所有者により若しくは所有者のために又は所有者の政府により所定の期間内に返還が申請されない財産は、日本國政府がその定めるところに從つて處分することができる。この財産が千九百四十一年十二月七日に日本國に所在し、且つ、返還することができず、又は戰爭の結果として損傷若しくは損害を受けている場合には、日本國内閣が千九百五十一年七月十三日に決定した連合國財産補償法案の定める條件よりも不利でない條件で補償される。
(b) 戰爭中に侵害された工業所有權については、日本國は、千九百四十九年九月一日施行の政令第三百九號、千九百五十年一月二十八日施行の政令第十二號及び千九百五十年二月一日施行の政令第九號(いずれも改正された現行のものとする。)によりこれまで與えられたところよりも不利でない利益を引き續いて連合國及びその國民に與えるものとする。但し、前記の國民がこれらの政令に定められた期限までにこの利益の許與を申請した場合に限る。
(c)(ⅰ) 日本國は、公にされ及び公にされなかつた連合國及びその國民の著作物に關して千九百四十一年十二月六日に日本國に存在した文學的及び美術的著作權がその日以後引き續いて效力を有することを認め、且つ、その日に日本國が當事國であつた條約又は協定が戰爭の發生の時又はその時以後日本國又は當該連合國の國内法によつて廢棄され又は停止されたかどうかを問わず、これらの條約及び協定の實施によりその日以後日本國において生じ、又は戰爭がなかつたならば生じるはずであつた權利を承認する。
(ⅱ) 權利者による申請を必要とすることなく、且つ、いかなる手數料の支拂い又は他のいかなる手續もすることなく、千九百四十一年十二月七日から日本國と當該連合國との間にこの條約の效力を生ずるまでの期間は、これらの權利の通常期間から除算し、また、日本國において翻譯權を取得するために文學的著作物が日本語に翻譯されるべき期間からは、六箇月の期間を追加して除算しなければならない。
第十六條
日本國の捕虜であつた間に不當な苦難を被つた連合國軍隊の構成員に償いをする願望の表現として、日本國は、戰爭中中立であつた國にある又は連合國のいずれかと戰爭していた國にある日本國及びその國民の資産又は、日本國が選擇するときは、これらの資産と等價のものを赤十字國際委員に引き渡すものとし、同委員會は、これらの資産を清算し、且つ、その結果生ずる資金を、同委員會が衡平であると決定する基礎において、捕虜であつた者及びその家族のために、適當な國内機關に對して分配しなければならない。この條約の第十四條(a)2Ⅱの(ⅱ)から(ⅴ)までに掲げる種類の資産は、條約の最初の效力發生の時に日本國に居住しない日本の自然人の資産とともに、引渡しから除外する。またこの條の引渡規定は、日本國の金融機關が現に所有する一萬九千七百七十株の國際決濟銀行の株式には適用がないものと了解する。
第十七條
(a) いずれかの連合國の要請があつたときは、日本國政府は、當該連合國の國民の所有權の關係のある事件に關する日本國の捕獲審檢所の決定又は命令を國際法に從い再檢査して修正し、且つ、行われた決定及び發せられた命令を含めて、これらの事件の記錄を構成するすべての文書の寫を提供しなければならない。この再審査又は修正の結果、返還すべきことが明らかになつた場合には、第十五條の規定を當該財産に適用する。
(b) 日本國政府は、いずれかの連合國の國民が原告又は被告として事件について充分な陳述ができなかつた訴訟手續において、千九百四十一年十二月七日から日本國と當該連合國との間にこの條約が效力を生ずるまでの期間に日本國の裁判所が行つた裁判を、當該國民が前記の效力發生の後一年以内にいつでも適當な日本國の機關に再審査のため提出することができるようにするために、必要な措置をとらなければならない。日本國政府は、當該國民が前記の裁判の結果損害を受けた場合には、その者をその裁判が行われる前の地位に回復するようにし、又はその者にそれぞれの事情の下において公正且つ衡平な救濟が與えられるようにいなければならない。
第十八條
(a) 戰爭状態の介在は、戰爭状態の存在前に存在した債務及び契約(債務に關するものを含む。)竝びに戰爭状態の存在前に取得された權利から生ずる金銭債務で、日本國の政府若しくは國民が連合國の一國の政府若しくは國民に對して、又は連合國の一國の政府若しくは國民が日本國の政府若しくは國民に對して負つているものを支拂う義務に影響を及ぼさなかつたものと認める。戰爭状態の介在は、また、戰爭状態の存在前に財産の滅失若しくは損害又は身體障害若しくは死亡に關して生じた請求權で、連合國の一國の政府が日本國政府に對して、又は日本國政府が連合國政府のいずれかに對して提起し又は再提起するものの當否を審議する義務に影響を及ぼすものとみなしてはならない。この項の規定は、第十四條によつて與えられる權利を害するものではない。
(b) 日本國は、日本國の戰前の對外債務に關する責任と日本國が責任を負うと後に宣言された團體の債務に關する責任とを確認する。また、日本國は、これらの債務の支拂再開に關して債權者とすみやかに交渉を開始し、他の戰前の請求權及び債務に關する交渉を促進し、且つ、これに應じて金額の支拂を容易にする意圖を表明する。
第十九條
(a) 日本國は、戰爭から生じ、又は戰爭状態が存在したためにとられた行動から生じた連合國及びその國民に對する日本國及びその國民のすべての請求權を放棄し、且つ、この條約の效力發生の前の日本國領域におけるいずれかの連合國の軍隊又は當局の存在、職務遂行又は行動から生じたすべての請求權を放棄する。
(b) 前記の放棄には、千九百三十九年九月一日からこの條約の效力發生までの間に日本國の船舶に關していずれかの連合國がとつた行動から生じた請求權竝びに連合國の手中にある日本人捕虜及び被抑留者に關して生じた請求權及び債權が含まれる。但し、千九百四十五年九月二日以後いずれかの連合國が制定した法律で特に認められた日本人の請求權を含まない。
(c) 相互放棄を條件として、日本國政府は、また、政府間の請求權及び戰爭中に受けた滅失又は損害に關する請求權を含むドイツ及びドイツ國民に對するすべての請求權(債權を含む。)を日本國政府及び日本國民のために放棄する。但し、(a)千九百三十九年九月一日前に締結された契約及び取得された權利に關する請求權竝びに(b)千九百四十五年九月二日後に日本國とドイツとの間の貿易及び金融の關係から生じた請求權を除く。この放棄は、この條約の第十六條及び第二十條に從つてとられる行動を害するものではない。
(d) 日本國は、占領期間中に占領當局の指令に基いて若しくはその結果として行われ、又は當時の日本國の法律によつて許可されたすべての作爲又は不作爲の效力を承認し、連合國民をこの作爲又は不作爲から生ずる民事又は刑事の責任に問ういかなる行動もとらないものとする。
第二十條
日本國は、千九百四十五年のベルリン會議の議事の議定書に基いてドイツ財産を處分する權利を有する諸國が決定した又は決定する日本國にあるドイツ財産の處分を確實にするために、すべての必要な措置をとり、これらの財産の最終的處分が行われるまで、その保存及び管理について責任を負うものとする。
第二十一條
この條約の第二十五條の規定にかかわらず、中國は、第十條及び第十四條(a)2の利益を受ける權利を有し、朝鮮は、この條約の第二條、第四條、第九條及び第十二條の利益を受ける權利を有する。
第六章 紛爭の解決
第二十二條
この條約のいずれかの當事國が特別請求權裁判所への付託又は他の合意された方法で解決されない條約の解釋又は實施に關する紛爭が生じたと認めるときは、紛爭は、いずれかの紛爭當事國の要請により、國際司法裁判所に決定のため付託しなければならない。日本國及びまだ國際司法裁判所規程の當事國でない連合國は、それぞれがこの條約を批准する時に、且つ、千九百四十六年十月十五日の國際連合安全保障理事會の決議に從つて、この條に掲げた性質をもつすべての紛爭に關して一般的に同裁判所の管轄權を特別の合意なしに受諾する一般的宣言書を同裁判所書記に寄託するものとする。
第七章 最終條項
第二十三條
(a) この條約は、日本國を含めて、これに署名する國によつて批准されなければならない。この條約は、批准書が日本國により、且つ、主たる占領國としてのアメリカ合衆國を含めて、次の諸國すなわちオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王國及びアメリカ合衆國の過半數により寄託された時に、その時に批准しているすべての國に關して效力を生ずる。この條約は、その後これを批准する各國に關しては、その批准書の寄託の日に效力を生ずる。
(b) この條約が日本國の批准書の寄託の日の後九箇月以内に效力を生じなかつたときは、これを批准した國は、日本國の批准書の寄託の日の後三年以内に日本國政府及びアメリカ合衆國政府にその旨を通告して、自國と日本國との間にこの條約の效力を生じさせることができる。
第二十四條
すべての批准書は、アメリカ合衆國政府に寄託しなければならない。同政府は、この寄託、第二十三條(a)に基くこの條約の效力發生の日及びこの條約の第二十三條(b)に基いて行われる通告をすべての署名國に通告する。
第二十五條
この條約の適用上、連合國とは、日本國と戰爭していた國又は以前に第二十三條に列記する國の領域の一部をなしていたものをいう。但し、各場合に當該國がこの條約に署名し且つ之を批准したことを條件とする。第二十一條の規定を留保して、この條約は、ここに定義された連合國の一國でないいずれの國に對しても、いかなる權利、權原又は利益も與えるものではない。また、日本國のいかなる權利、權原又は利益も、この條約のいかなる規定によつても前記のとおり定義された連合國の一國でない國のために減損され、又は害されるものとみなしてはならない。
第二十六條
日本國は、千九百四十二年一月一日の連合國宣言に署名し若しくは加入しており且つ日本國に對して戰爭状態にある國又は以前に第二十三條に列記する國の領域の一部をなしていた國で、この條約の署名國でないものと、この條約に定めるところと同一の又は實質的に同一の條件で二國間の平和條約を締結する用意を有すべきものとする。但し、この日本國の義務は、この條約の最初の效力發生の後三年で滿了する。日本國が、いずれかの國との間で、この條約で定めるところよりも大きな利益をその國に與える平和處理又は戰爭請求權處理を行つたときは、これと同一の利益は、この條約の當事國にも及ぼされなければならない。
第二十七條
この條約は、アメリカ合衆國政府の記錄に寄託する。同政府は、その認證謄本を各署名國に交付する。
以上の證據として、下名の全權委員は、この條約に署名した。
(以下省略)
【資料番號 三十七】日本國とアメリカ合衆國との間の安全保障條約(舊安保條約)昭和二十年條約第六號
(昭和二十七年四月二十八日公布、同日發效、
昭和三十五年六月二十三日失效)
日本國は、本日連合國との平和條約に署名した。日本國は武裝を解除されているので、平和條約の效力發生の時において固有の自衞權を行使する有效な手段をもたない。
無責任な軍國主義がまだ世界から驅逐されていないので、前記の状態にある日本國には危險がある。よつて、日本國は、平和條約が日本國とアメリカ合衆國の間に效力を生ずるのと同時に效力を生ずべきアメリカ合衆國との安全保障條約を希望する。
平和條約は、日本國が主權國として集團的安全保障取極を締結する權利を有することを承認し、さらに、國際連合憲章は、すべての國が個別的及び集團的自衞の固有の權利を有することを承認している。
これらの權利の行使として、日本國は、その防衞のための暫定措置として、日本國に對する武力攻撃を阻止するため日本國内及びその附近にアメリカ合衆國がその軍隊を維持することを希望する。
アメリカ合衆國は、平和と安全のために、現在、若干の自國軍隊を日本國内及びその附近に維持する意思がある。但し、アメリカ合衆國は、日本國が、攻撃的な脅威となり又は國際連合憲章の目的及び原則に從つて平和と安全を增進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に對する自國の防衞のため漸增的に自ら責任を負うことを期待する。
よつて、兩國は、次のとおり協定した。
第一條 平和條約及びこの條約の效力發生と同時に、アメリカ合衆國の陸軍、空軍及び海軍を日本國内及びその附近に配備する權利を、日本國は、許與し、アメリカ合衆國は、これを受諾する。この軍隊は、極東における國際の平和と安全の維持に寄與し、竝びに、一又は二以上の外部の國による教唆又は干渉によつて引き起された日本國における大規模の内亂及び騷じようを鎭壓するため日本國政府の明示の要請に應じて與えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に對する日本國の安全に寄與するために使用することができる。
第二條 第一條に掲げる權利が行使される間は、日本國は、アメリカ合衆國の事前の同意なくして、基地、基地における若しくは基地に關する權利、權力若しくは權能、駐兵若しくは演習の權利又は陸軍、空軍若しくは海軍の通過の權利を第三國に許與しない。
第三條 アメリカ合衆國の軍隊の日本國内及びその附近における配備を規律する條件は、兩政府間の行政協定で決定する。
第四條 この條約は、國際連合又はその他による日本區域における國際の平和と安全の維持のため充分な定をする國際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集團的の安全保障措置が效力を生じたと日本國及びアメリカ合衆國の政府が認めた時はいつでも效力を失うものとする。
第五條 この條約は、日本國及びアメリカ合衆國によつて批准されなければならない。この條約は、批准書が兩國によつてワシントンで交換された時に效力を生ずる。
以上の證據として、下名の全權委員は、この條約に署名した。
千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で、日本語及び英語により、本書二通を作成した。
(署名略)
【資料番號 三十八】日本國と中華民國との平和條約(日華平和條約)昭和二十七年條約第十號
昭和二十七年四月二十八日調印、同年八月五日發效)
日本國及び中華民國は、
その歴史的及び文化的のきずなと地理的の近さにかんがみ、善隣關係を相互に希望することを考慮し、
その共通の福祉の增進竝びに國際の平和及び安全の維持のための緊密な關係が重要であることを思い、
兩者の間の戰爭状態の存在の結果として生じた諸問題の解決の必要を認め、
平和條約を締結することに決定し、よつて、その全權委員として次のとおり任命した。
日本國政府 河田烈
中華民國大統領 葉公超
これらの全權委員は、互にその全權委任状を示し、それが良好妥當であると認められた後、次の諸條を協定した。
第一條 日本國と中華民國との間の戰爭状態は、この條約が效力を生ずる日に終了する。
第二條 日本國は、千九百五十一年九月八日にアメリカ合衆國のサン・フランシスコ市で署名された日本國との平和條約(以下「サン・フランシスコ條約」という。)第二條に基き、臺灣及び澎湖諸島竝びに新南群島及び西沙群島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄したことが承認される。
第三條 日本國及びその國民の財産で臺灣及び澎湖諸島にあるもの竝びに日本國及びその國民の請求權(債權を含む。)で臺灣及び澎湖諸島における中華民國の當局及びそこの住民に對するものの處理、竝びに日本國におけるこれらの當局及び住民の財産竝びに日本國及びその國民に對するこれらの當局及び住民の請求權(債權を含む。)の處理は、日本國政府と中華民國政府との間の特別取極の主題とする。國民及び住民という語は、この條約で用いるときはいつでも、法人を含む。
第四條 千九百四十一年十二月九日前に日本國と中華民國との間で締結されたすべての條約、協約及び協定は、戰爭の結果として無效となつた事が承認される。
第五條 日本國は、サン・フランシスコ條約第十條の規定に基き、千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書竝びにこれを補足するすべての附屬書、書簡及び文書の規定から生ずるすべての利益及び特權を含む中國におけるすべての特殊の權利及び利益を放棄し、且つ、前記の議定書、附屬書、書簡及び文書を日本國に關して廢棄することに同意したことが承認される。
第六條(a) 日本國及び中華民國は、相互の關係において、國際連合憲章第二條の原則を指針とするものとする。
(b) 日本國及び中華民國は、國際連合憲章の原則に從つて協力するものとし、特に、經濟の分野における友好的協力によりその共通の福祉を增進するものとする。
第七條 日本國及び中華民國は、貿易、海運その他の通商の關係を、安定した且つ友好的な基礎の上におくために、條約又は協定をできる限りすみやかに締結することに努めるものとする。
第八條 日本國及び中華民國は、民間航空運送に關する協定をできる限りすみやかに締結することに努めるものとする。
第九條 日本國及び中華民國は、公海における漁場の規制又は制限竝びに漁業の保存及び發展を規定する協定をできる限りすみやかに締結することに努めるものとする。
第十條 この條約の適用上、中華民國の國民には、臺灣及び澎湖諸島のすべての住民及び以前にそこの住民であつた者、竝びにそれらの子孫で、臺灣及び澎湖諸島において中華民國が現に施行し、又は今後施行する法令によつて中國の國籍を有するものを含むものとみなす。また、中華民國の法人には、臺灣及び澎湖諸島において中華民國が現に施行し、又は今後施行する法令に基いて登錄されるすべての法人を含むものとみなす。
第十一條 この條約及びこれを補足する文書に別段の定めがある場合を除く外、日本國と中華民國との間に戰爭状態の存在の結果として生じた問題は、サン・フランシスコ條約の相當規定に從つて解決するものとする。
第十二條 この條約の解釋または適用から生ずる紛爭は、交渉または他の平和的手段によつて解決するものとする。
第十三條 この條約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかに臺北で交換されなければならない。この條約は、批准書の交換の日に效力を生ずる。
第十四條 この條約は、日本語、中國語及び英語により作成するものとする。解釋の相違がある場合には、英語の本文による。
以上の證據として、それぞれの全權委員は、この條約に署名調印した。
昭和二十七年四月二十八日(中華民國の四十一年四月二十八日及び千九百五十二年四月二十八日に相當する。)に臺北で、本書二通を作成した。
日本國のために 河田烈
中華民國のために 葉公超
【資料番號 三十九】日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との共同宣言(日ソ共同宣言)昭和三十一年條約第二十號
(昭和三十一年十月十九日調印、同年十二月十二日發效)
相互理解と協力のふん圍氣のうちに行われた交渉を通じて、日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との相互關係について隔意のない廣範な意見の交換が行われた。日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、兩國間の外交關係の回復が極東における平和及び安全の利益に合致する兩國間の理解と協力との發展に役立つものであることについて完全に意見が一致した。
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦の全權團の間で行われたこの交渉の結果、次の合意が成立した。
1【戰爭状態の終結】
日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との間の戰爭状態は、この宣言が效力を生ずる日に終了し、兩國の間に平和及び友好善隣關係が回復される。
2【外交及び領事關係】
日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との間に外交及び領事關係が回復される。兩國は、大使の資格を有する外交使節を遲滯なく交換するものとする。また、兩國は、外交機關を通して、兩國内におけるそれぞれの領事館の開設の問題を處理するものとする。
3【國連憲章の原則・自衞權・不干渉】
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、相互の關係において、國際連合憲章の諸原則、なかんずく同憲章第二條に掲げる次の原則を指針とすべきことを確認する。
(a) その國際紛爭を、平和的手段によつて、國際の平和及び安全竝びに正義を危うくしないように、解決すること。
(b) その國際關係において、武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる國の領土保全又は政治的獨立に對するものも、また、國際連合の目的と兩立しない他のいかなる方法によるものも愼むこと。
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、それぞれ他方の國が國際連合憲章第五十一條に掲げる個別的又は集團的自衞の固有の權利を有することを確認する。
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、經濟的、政治的又は思想的のいかなる理由であるとを問わず、直接間接に一方の國が他方の國内事項に干渉しないことを、相互に、約束する。
4【日本國の國連加入】
ソヴィエト社會主義共和國連邦は、國際連合への加入に關する日本國の申請を支持するものとする。
5【未歸還日本國民に對する措置】
ソヴィエト社會主義共和國連邦において有罪の判決を受けたすべての日本人は、この共同宣言の效力發生とともに釋放され、日本國へ送還されるものとする。
また、ソヴィエト社會主義共和國連邦は、日本國の要請に基いて、消息不明の日本人について引き續き調査を行うものとする。
6【賠償・請求權の放棄】
ソヴィエト社會主義共和國連邦は、日本國に對し一切の賠償請求權を放棄する。
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、千九百四十五年八月九日(ソ連の對日參戰の日)以來の戰爭の結果として生じたそれぞれの國、その團體及び國民のそれぞれ他方の國、その團體及び國民に對するすべての請求權を、相互に、放棄する。
7【通商關係の交渉】
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、その貿易、海運その他の通商の關係を安定したかつ友好的な基礎の上に置くために、條約または協定を締結するための交渉をできる限りすみやかに開始することに同意する。
8【漁業協力】
千九百五十六年五月十四日にモスクワで署名された北西太平洋の航海における日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との間の條約及び海上において遭難した人の救助のための協力に關する日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との間の協定は、この宣言の效力發生と同時に效力を生ずる。
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、魚類その他の海洋生物資源の保存及び合理的利用に關して日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦が有する利害關係を考慮し、協力の精神をもつて、漁業資源の保存及び發展竝びに航海における漁獵の規制及び制限のための措置を執るものとする。
9【平和條約・領土】
日本國及びソヴィエト社會主義共和國連邦は、兩國間に正常な外交關係が回復された後、平和條約の締結に關する交渉を繼續することに同意する。
ソヴィエト社會主義共和國連邦は、日本國の要望にこたえかつ日本國の利益を考慮して、齒舞群島及び色丹島を日本國に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本國とソヴィエト社會主義共和國連邦との間の平和條約が締結された後に現實に引き渡されるものとする。
10【批准】
この共同宣言は批准されなければならない。この共同宣言は、批准書の交換の日に效力を生ずる。批准書の交換は、できるだけすみやかに東京で行われなければならない。
【資料番號 四十】日本國とアメリカ合衆國との間の相互協力及び安全保障條約(新安保條約)昭和三十五年條約第六號
(昭和三十五年六月二十三日公布、同日發效)
日本國及びアメリカ合衆國は、
兩國の間に傳統的に存在する平和及び友好の關係を強化し、竝びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、
また、兩國の間の一層緊密な經濟的協力を促進し、竝びにそれぞれの國における經濟的な安定及び福祉の條件を助長することを希望し、
國際連合憲章の目的及び原則に對する信念竝びにすべての國民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、
兩國が國際連合憲章に定める個別的または集團的自衞の固有の權利を有していることを確認し、
兩國が極東における國際の平和及び安全の維持に共通の關心を有することを考慮し、
相互協力及び安全保障條約を締結することを決意し、
よつて、次のとおり協定する。
第一條 締約國は、國際連合憲章に定めるところに從い、それぞれが關係することのある國際紛爭を平和的手段によつて國際の平和及び安全竝びに正義を危うくしないように解決し、竝びにそれぞれの國際關係において、武力による威嚇又は武器の行使を、いかなる國の領土保全又は政治的獨立に對するものも、また、國際連合の目的と兩立しない他のいかなる方法によるものも愼むことを約束する。
2 締約國は、他の平和愛好國と共同して、國際の平和及び安全を維持する國際連合の任務が一層效果的に遂行されるように國際連合を強化することに努力する。
第二條 締約國は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、竝びに安定及び福祉の條件を助長することによつて、平和的かつ友好的な國際關係の一層の發展に貢獻する。締約國は、その國際經濟政策におけるくい違いを除くことに努め、また、兩國の間の經濟的協力を促進する。
第三條 締約國は、個別的に及び相互に協力して、持續的かつ效果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に從うことを條件として、維持し發展させる。
第四條 締約國は、この條約の實施に關して随時協議し、また、日本國の安全又は極東における國際の平和及び安全に對する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約國の要請により協議する。
第五條 各締約國は、日本國の施政の下にある領域における、いずれか一方に對する武力攻撃が、自國の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自國の憲法上の規定及び手續に從つて共通の危險に對處するように行動することを宣言する。
2 前記の武力攻撃及びその結果として執つた全ての措置は、國際連合憲章第五十一條の規定に從つて直ちに國際連合安全保障理事會に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事會が國際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六條 日本國の安全に寄與し、竝びに極東における國際の平和及び安全の維持に寄與するため、アメリカ合衆國は、その陸軍、空軍及び海軍が日本國において施設及び區域を使用することを許される。
2 前記の施設及び區域の使用竝びに日本國における合衆國軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本國とアメリカ合衆國との間の安全保障條約第三條に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第七條 この條約は、國際連合憲章に基づく締約國の權利及び義務又は國際の平和及び安全を維持する國際連合の責任に對しては、どのような影響を及ぼすものではなく、また、及ぼすものとして解釋してはならない。
第八條 この條約は、日本國及びアメリカ合衆國により各自の憲法上の手續に從つて批准されなければならない。この條約は、兩國が東京で批准書を交換した日に效力を生ずる。
第九條 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本國とアメリカ合衆國との間の安全保障條約は、この條約の效力發生の時に效力を失う。
第十條 この條約は、日本區域における國際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする國際連合の措置が效力を生じたと日本國政府及びアメリカ合衆國政府が認める時まで效力を有する。
2 もつとも、この條約が十年間效力を存續した後は、いずれの締約國も、他方の締約國に對しこの條約を終了させる意志を通告することができ、その場合には、この條約は、そのような通告が行われた後一年で終了する。
以上の證據として、下名の全權委員は、この條約に署名した。
千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
(署名略)
【資料番號 四十一】日本國と大韓民國との間の基本關係に關する條約(日韓基本條約)昭和四十年條約第二十五號
(昭和四十年十二月十八日公布、同日發效)
日本國及び大韓民國は、
兩國民間の關係の歴史的背景と、善隣關係及び主權の相互尊重の原則に基づく兩國間の關係の正常化に對する相互の希望とを考慮し、
兩國の相互の福祉及び共通の利益の增進のため竝びに國際の平和及び安全の維持のために、兩國が國際連合憲章の原則に適合して緊密に協力することが重要であることを認め、
千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本國との平和條約の關係規定及び千九百四十八年十二月十二日に國際連合總會で採擇された決議第百九十五號(3)を想起し、
この基本關係に關する條約を締結することに決定し、よつて、その全權委員として次のとおり任命した。
日本國
日本國外務大臣 椎名悦三郎
高杉晋一
大韓民國
大韓民國外務部長官 李東元
大韓民國特命全權大使 金東祚
これらの全權委員は、互いにその全權委任状を示し、それが良好妥當であると認められた後、次の諸條を協定した。
第一條 兩締約國間に外交及び領事關係が開設される。兩締約國は、大使の資格を有する外交使節を遲滯なく交換するものとする。また、兩締約國は、兩國政府により合意される場所に領事館を設置する。
第二條 千九百十年八月二十二日以前に大日本帝國と大韓帝國との間で締結されたすべての條約及び協定は、もはや無效であることが確認される。
第三條 大韓民國政府は、國際連合總會決議第百九十五號(3)に明らかに示されているとおりの朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される。
第四條(a) 兩締約國は、相互の關係において、國際連合憲章の原則を指針とするものとする。
(b) 兩締約國は、その相互の福祉及び共通の利益を增進するに當たつて、國際連合憲章の原則に適合して協力するものとする。
第五條 兩締約國は、その貿易、海運その他の通商の關係を安定した、かつ、友好的な基礎の上に置くために、條約又は協定を締結するための交渉を實行可能な限りすみやかに開始するものとする。
第六條 兩締約國は、民間航空運送に關する協定を締結するための交渉を實行可能な限りすみやかに開始するものとする。
第七條 この條約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにソウルで交換されるものとする。この條約は、批准書の交換の日に效力を生ずる。
以上の證據として、それぞれの全權委員は、この條約に署名調印した。
(署名略)
【資料番號 四十二】「大日本帝國憲法復原決議」
(岡山縣奈義町議會・昭和四十四年七月三十日提出)
同年八月一日可決承認(贊成十名、反對七名)
地方自治法第百十二條に基き下記の議案を提出する。
昭和四十四年七月三十日
奈義町議會議長 青木守夫 殿
(議案) 大日本帝國憲法復原決議案
(提案者) 奈義町議會議員
森安巌、吉元義秋、野々上昇、關場光士、鷹取巌、畝原三好、
岡正章、有元康雄
(提案理由)
私達は下記の理由と目的により大日本帝國憲法復原決議案を提出いたします。
現行日本國憲法は、その内容に於て全く戰勝國が占領目的遂行のため、假に憲法と稱する行政管理基本法にすぎないものであることは、議員各位既に御承知の通りであります。而も制定當時の日本は無條件降伏、武裝解除、丸裸であった。アメリカは不當にも國際法規を無視し、連合軍の戰力を背景に銃劍で脅迫し押付けたアメリカ製憲法であります。昭和二十七年占領目的を達成したアメリカが引揚げと同時に日本は獨立したのであるから、西ドイツ同樣これを廢棄し棚上げされている大日本帝國憲法を卸し復活すべきものを、そのまま二十四年間放置し今日に到ったがために大學暴動を始めとして、今や國内は收拾し難い無法状態となったのであります。此占領憲法施行のため、一君萬民民本主義の日本は、主權在民の民主主義を奉ずる英、米模倣の國家形態となりながら象徴天皇を戴く、木に竹を繼いだような國體を出現し、言論の自由を始めとして、思想、信教、學問、表現の自由と、個人の權利のみ優先し、國權の衰退は眼を覆うものがあります。
例えば他人の建造物を破壞する集團暴力も、國有財産たる安田講堂を破壞し國寶を破棄しても又は、都市の補裝道路、或は敷石を碎き警察官を殺傷しても表現の自由と稱し、これを逮捕し裁判に付するも裸體となりて公判に應ぜず、又は吾國に住居して日本の保護を受けながら、その日本を假想敵國と公言し、日本打倒の目的を以てする朝鮮大學校を始めとして國内に小.中.高校等無慮數百の反體制教育施設も、占領憲法第二十三條「學問の自由」第十九條「思想の自由」に因り國體變革の宣傳も自由、第二十一條「表現.言論の自由」により恩師を監禁、罵詈雜言も亦自由とする。第二十四條一項では「婚姻は兩性の合意のみに基いて成立する」と規定して、日本國の長所たる家族制度に於ける親權を抹殺し、第二十八條「勤勞者の團結權」に至っては從來非合法として取締った教員のストを最高裁の合法判決により、日教組の「教員は勞働者」の主張を認める結果が出ている。その影響は直ぐに吾町の小.中學校に反映し、七月ストに教員多數が參加している。如斯萬法の根元である憲法が萬惡の源となって、正に日本はこの占領憲法のために身動きならぬ亡國への道を歩み續けているのであります。「革命か改憲か」と言われているのは「革命とは共産革命」のことであり、改憲とは大日本國憲法を復原し新時代に即應した改正を謂うのであります。
今にしてこのアメリカ製亡國憲法を破棄し、皇國興隆の基本である眞憲法を復活せざれば悔を千歳に殘すばかりでなく、共産革命を許したチェコの如く後悔しても再び自由國に復歸することは斷じて不可能であるあることを覺悟せねばなりません。去る五月二日東京都九段、日本武道館に於いて、自由民主黨憲法調査會主催「約二萬人入場」で「自主憲法制定國民大會」が開かれ、現憲法を廢棄し自主憲法制定の宣言、決議が行なわれたが、この席には自民黨憲法調査會長稻葉修、大村襄治代議士を始め、自民黨より百三十名の國會議員の參加があり、全國に一大國民運動を展開する決議となったものであります。吾奈義町に於いては芦田縣議、久永町長、助役、各課長、町議會議員、農協農委等の主腦者百三十數名が會員として岡山市に本部を有つ、大日本帝國憲法復原岡山縣推進本部奈義支部の結成をみたのであります。國家存亡の秋、政府の改憲運動に協力し、全國市町村に魁け議決の範を示し、自主眞憲法制定の名に於いて全國民の自覺を喚起し、共産革命の陰謀を破碎し、亡國の危機に直面する祖國を讓り御神敕による世界一國一家の出現を祈りながら、菊花薫る道義國家日本の再建を期する方途は、明治欽定憲法復原以外に無しと信じ、以上の理由と目的により本決議案を提出するものであります。
議員各位には愼重御審議を賜り滿場一致の御贊同を期待すると共に、御決議の上は直ちにこれを佐藤内閣總理大臣、衆.參兩院議長、岡山縣知事、岡山縣議會議長宛發送し、縣議會の議決を求め、漸次全國市町村、都道府縣議會の議決運動に盛り上げ、明年六月に迫る日米安保條約改訂期前に大日本帝國憲法を復原して萬法の基礎を定め祖國日本の安全を希うものであります。以上
【資料番號 四十三】條約法に關するウィーン條約(條約法條約)
昭和五十六年條約第十六號
(昭和五十六年七月二十日公布、同年八月一日發效)
條約法に關するウィーン條約
この條約の當事國は、國際關係の歴史における條約の基本的な役割を考慮し、條約が、國際法の法源として、また、國(憲法體制及び社會體制のいかんを問わない。)の間の平和的協力を發展させるための手段として、引き續き重要性を增しつつあることを認め、自由意思による同意の原則及び信義誠實の原則竝びに「合意は守られなければならない」との規則が普遍的に認められていることに留意し、條約に係る紛爭が、他の國際紛爭の場合におけると同樣に、平和的手段により、かつ、正義の原則及び國際法の諸原則に從つて解決されなければならないことを確認し、國際連合加盟國の國民が、正義と條約から生ずる義務の尊重とを維持するために必要な條件の確立を決意したことを想起し、人民の同權及び自決の原則、すべての國の主權平等及び獨立の原則、國内問題への不干渉の原則、武力による威嚇又は武力の行使の禁止の原則、すべての者の人權及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の原則等國際連合憲章に規定する國際法の諸原則を考慮し、この條約において條約法の法典化及び漸進的發達が圖られたことにより、國際連合憲章に定める國際連合の目的、すなわち、國際の平和及び安全の維持、諸國間の友好關係の發展竝びに國際協力の達成が推進されることを確信し、この條約により規律されない問題については、引き續き國際慣習法の諸規則により規律されることを確認して、次のとおり協定した。
第一部 序
第一條 この條約の適用範圍
この條約は、國の間の條約について適用する。
第二條 用語
1 この條約の適用上、
(a) 「條約」とは、國の間において文書の形式により締結され、國際法によつて規律される國際的な合意(單一の文書によるものであるか關連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名稱のいかんを問わない。)をいう。
(b) 「批准」、「受諾」、「承認」及び「加入」とは、それぞれ、そのように呼ばれる國際的な行爲をいい、條約に拘束されることについての國の同意は、これらの行爲により國際的に確定的なものとされる。
(c) 「全權委任状」とは、國の權限のある當局の發給する文書であつて、條約文の交渉、採擇若しくは確定を行うため、條約に拘束されることについての國の同意む表明するため又は條約に關するその他の行爲を遂行するために國を代表する一文は二以上の者を指名しているものをいう。
(d) 「留保」とは、國が、條約の特定の規定の自國への適用上その法的效果を排除し又は變更することを意圖してへ條約への署名、條約の批准、受諾若しくは承認又は條約への加入の際に單獨に行う聲明(用いられる文言及び名稱のいかんを問わない。)をいう。
(e) 「交渉國」とは、條約文の作成及び採擇に參加した國をいう。
(f) 「締約國」とは、條約(效力を生じているかいないかを問わない。)に拘束されることに同意した國をいう。
(g) 「當事國」とは、條約に拘束されることに同意し、かつ、自國について條約の效力が生じている國をいう。
(h) 「第三國」とは、條約の當事國でない國をいう。
(i) 「國際機關」とは、政府間機關をいう。
2 この條約における用語につき規定する1の規定は、いずれの國の國内法におけるこれらの用語の用法及び意味にも影響を及ぼすものではない。
第三條 この條約の適用範圍外の國際的な合意
この條約が國と國以外の國際法上の主體との間において又は國以外の國際法上の主體の間において締結される國際的な合意及び文書の形式によらない國際的な合意については適用されないということは、次の事項に影響を及ぼすものではない。
(a) これらの合意の法的效力
(b) この條約に規定されている規則のうちこの條約との關係を離れ國際法に基づきこれらの合意を規律するような規則のこれらの合意についての適用
(c) 國及び國以外の國際法上の主體が當事者となつている國際的な合意により規律されている國の間の關係へのこの條約の適用
第四條 この條約の不遡及
この條約は、自國についてこの條約の效力が生じている國によりその效力發生の後に締結される條約についてのみ適用する。ただし、この條約に規定されている規則のうちこの條約との關係を離れ國際法に基づき條約を規律するような規則のいかなる條約についての適用も妨げるものではない。
第五條 國際機關を設立する條約及び國際機關内において採擇される條約
この條約は、國際機關の設立文書である條約及び國際機關内において採擇される條約について適用する。ただし、當該國際機關の關係規則の適用を妨げるものではない。
第二部 條約の締結及び效力發生
第一節 條約の締結
第六條 國の條約締結能力
いずれの國も、條約を締結する能力を有する。
第七條 全權委任状
1 いずれの者も、次の場合には、條約文の採擇若しくは確定又は條約に拘束されることについての國の同意の表明の目的のために國を代表するものと認められる。
(a) 當該者から適切な全權委任状の提示がある場合
(b) 當該者につきこの1に規定する目的のために國を代表するものと認めかつ全權委任状の提示を要求しないことを關係國が意圖していたことが關係國の慣行又はその他の状況から明らかである場合
2 次の者は、職務の性質により、全權委任状の提示を要求されることなく、自國を代表するものと認められる。
(a) 條約の締結に關するあらゆる行爲について、元首、政府の長及び外務大臣
(b) 派遣國と接受國との間の條約の條約文の採擇については、外交使節團の長
(c) 國際會議又は國際機關若しくはその内部機關における條約文の採擇については、當該國際會議又は國際機關若しくはその内部機關に對し國の派遣した代表者
第八條 權限が與えられることなく行われた行爲の追認
條約の締結に關する行爲について國を代表する權限を有するとは前條の規定により認められない者の行つたこれらの行爲は、當該國の追認がない限り、法的效果を伴わない。
第九條 條約文の採擇
1 條約文は、2の場合を除くほか、その作成に參加したすべての國の同意により採擇される。
2 國際會議においては、條約文は、出席しかつ投票する國の三分の二以上の多數による議決で採擇される。ただし、出席しかつ投票する國が三分の二以上の多數による議決で異なる規則を適用することを決定した場合は、この限りでない。
第十條 條約文の確定
條約文は、次のいずれかの方法により眞正かつ最終的なものとされる。
(a) 條約文に定められている手續又は條約文の作成に參加した國が合意する手續
(b) (a)の手續がない場合には、條約文の作成に參加した國の代表者による條約文又は條約文を含む會議の最終議定書への署名、追認を要する署名又は假署名
第十一條 條約に拘束されることについての同意の表明の方法
條約に拘束されることについての國の同意は、署名、條約を構成する文書の交換、批准、受諾、承認若しくは加入により又は合意がある場合には他の方法により表明することができる。
第十二條 條約に拘束されることについての同意の署名による表明
1 條約に拘束されることについての國の同意は、次の場合には、國の代表者の署名により表明される。
(a) 署名が同意の表明の效果を有することを條約が定めている場合
(b) 署名が同意の表明の效果を有することを交渉國が合意したことが他の方法により認められる場合
(c) 署名に同意の表明の效果を付與することを國が意圖していることが當該國の代表者の全權委任状から明らかであるか又は交渉の過程において表明されたかのいずれかの場合
2 1の規定の適用上、
(a) 條約文への假署名は、交渉國の合意があると認められる場合には、條約への署名とされる。
(b) 國の代表者による條約への追認を要する署名は、當該國が追認をする場合には、條約への完全な署名とされる。
第十三條 條約に拘束されることについての同意の條約構成文書の交換による表明
國の間で交換される文書により構成されている條約に拘束されることについての國の同意は、次の場合には、當該文書の交換により表明される。
(a) 文書の交換が同意の表明の效果を有することを當該文書が定めている場合
(b) 文書の交換が同意の表明の效果を有することを國の間で合意したことが他の方法により認められる場合
第十四條 條約に拘束されることについての同意の批准、受諾又は承認による表明
1 條約に拘束されることについての國の同意は、次の場合には、批准により表明される。
(a) 同意が批准により表明されることを條約が定めている場合
(b) 批准を要することを交渉國が合意したことが他の方法により認められる場合
(c) 國の代表者が批准を條件として條約に署名した場合
(d) 批准を條件として條約に署名することを國が意圖していることが當該國の代表者の全權委任状から明らかであるか又は交渉の過程において表明されたかのいずれかの場合
2 條約に拘束されることについての國の同意は、批准により表明される場合の條件と同樣の條件で、受諾又は承認により表明される。
第十五條 條約に拘束されることについての同意の加入による表明
條約に拘束されることについての國の同意は、次の場合には、加入により表明される。
(a) 當該國が加入により同意を表明することができることを條約が定めている場合
(b) 當該國が加入により同意を表明することができることを交渉國が合意したことが他の方法により認められる場合
(c) 當該國が加入により同意を表明することができることをすべての當事國が後に合意した場合
第十六條 批准書、受諾書、承認書又は加入書の交換又は寄託
條約に別段の定めがない限り、批准書、受諾書、承認書又は加入書は、これらについて次のいずれかの行爲が行われた時に、條約に拘束されることについての國の同意を確定的なものとする。
(a) 締約國の間における交換
(b) 寄託者への寄託
(c) 合意がある場合には、締約國又は寄託者に對する通告
第十七條 條約の一部に拘束されることについての同意及び樣々な規定のうちからの特定の規定の選擇
1 條約の一部に拘束されることについての國の同意は、條約が認めている場合又は他の締約國の同意がある場合にのみ、有效とされる。もつとも、第十九條から第二十三條までの規定の適用を妨げるものではない。
2 樣々な規定のうちからの特定の規定の選擇を認めている條約に拘束されることについての國の同意は、いずれの規定に係るものであるかが明らかにされる場合にのみ、有效とされる。
第十八條 條約の效力發生前に條約の趣旨及び目的を失わせてはならない義務
いずれの國も、次の場合には、それぞれに定める期間、條約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行爲を行わないようにする義務がある。
(a) 批准、受諾若しくは承認を條件として條約に署名し又は條約を構成する文書を交換した場合には、その署名又は交換の時から條約の當事國とならない意圖を明らかにする時までの間
(b) 條約に拘束されることについての同意を表明した場合には、その表明の時から條約が效力を生ずる時までの間。ただし、效力發生が不當に遲延する場合は、この限りでない。
第二節 留保
第十九條 留保の表明
いずれの國も、次の場合を除くほか、條約への署名、條約の批准、受諾若しくは承認又は條約への加入に際し、留保を付することができる。
(a) 條約が當該留保を付することを禁止している場合
(b) 條約が、當該留保を含まない特定の留保のみを付することができる旨を定めている場合
(c) (a)及び(b)の場合以外の場合において、當該留保が條約の趣旨及び目的と兩立しないものであるとき。
第二十條 留保の受諾及び留保に對する異議
1 條約が明示的に認めている留保については、條約に別段の定めがない限り、他の締約國による受諾を要しない。
2 すべての當事國の間で條約を全體として適用することが條約に拘束されることについての各當事國の同意の不可缺の條件であることが、交渉國數が限定されていること竝びに條約の趣旨及び目的から明らかである場合には、留保については、すべての當事國による受諾を要する。
3 條約が國際機關の設立文書である場合には、留保については、條約に別段の定めがない限り、當該國際機關の權限のある内部機關による受諾を要する。
4 1から3までの場合以外の場合には、條約に別段の定めがない限り、
(a) 留保を付した國は、留保を受諾する他の締約國との間においては、條約がこれらの國の雙方について效力を生じているときはその受諾の時に、條約がこれらの國の雙方又は一方について效力を生じていないときは雙方について效力を生ずる時に、條約の當事國關係に入る。
(b) 留保に對し他の締約國が異議を申し立てることにより、留保を付した國と當該他の締約國との間における條約の效力發生が妨げられることはない。ただし、當該他の締約國が別段の意圖を明確に表明する場合は、この限りでない。
(c) 條約に拘束されることについての國の同意を表明する行爲で留保を伴うものは、他の締約國の少なくとも一が留保を受諾した時に有效となる。
5 2及び4の規定の適用上、條約に別段の定めがない限り、いずれかの國が、留保の通告を受けた後十二箇月の期間が滿了する日又は條約に拘束されることについての同意を表明する日のいずれか遲い日までに、留保に對し異議を申し立てなかつた場合には、留保は、當該國により受諾されたものとみなす。
第二十一條 留保及び留保に對する異議の法的效果
1 第十九條、前條及び第二十三條の規定により他の當事國との關係において成立した留保は、
(a) 留保を付した國に關しては、當該他の當事國との關係において、留保に係る條約の規定を留保の限度において變更する。
(b) 當該他の當事國に關しては、留保を付した國との關係において、留保に係る條約の規定を留保の限度において變更する。
2 1に規定する留保は、留保を付した國以外の條約の當事國相互の間においては、條約の規定を變更しない。
3 留保に對し異議を申し立てた國が自國と留保を付した國との間において條約が效力を生ずることに反對しなかつた場合には、留保に係る規定は、これらの二の國の間において、留保の限度において適用がない。
第二十二條 留保の撤回及び留保に對する異議の撤回
1 留保は、條約に別段の定めがない限り、いつでも撤回することができるものとし、撤回については、留保を受諾した國の同意を要しない。
2 留保に對する異議は、條約に別段の定めがない限り、いつでも撤回することができる。
3 條約に別段の定めがある場合及び別段の合意がある場合を除くほか、
(a) 留保の撤回は、留保を付した國と他の締約國との關係において、當該他の締約國が當該撤回の通告を受領した時に效果を生ずる。
(b) 留保に對する異議の撤回は、留保を付した國が當該撤回の通告を受領した時に效果を生ずる。
第二十三條 留保に關連する手續
1 留保、留保の明示的な受諾及び留保に對する異議は、書面によつて表明しなければならず、また、締約國及び條約の當事國となる資格を有する他の國に通報しなければならない。
2 批准、受諾又は承認を條件として條約に署名するに際して付された留保は、留保を付した國により、條約に拘束されることについての同意を表明する際に、正式に確認されなければならない。この場合には、留保は、その確認の日に付されたものとみなす。
3 留保の確認前に行われた留保の明示的な受諾又は留保に對する異議の申立てについては、確認を要しない。
4 留保の撤回及び留保に對する異議の撤回は、書面によつて行わなければならない
第三節 條約の效力發生及び暫定的適用
第二十四條 效力發生
1 條約は、條約に定める態樣又は交渉國が合意する態樣により、條約に定める日又は交渉國が合意する日に效力を生ずる。
2 1の場合以外の場合には、條約は、條約に拘束されることについての同意がすべての交渉國につき確定的なものとされた時に、效力を生ずる。
3 條約に拘束されることについての國の同意が條約の效力發生の後に確定的なものとされる場合には、條約は、條約に別段の定めがない限り、當該國につき、その同意が確定的なものとされた日に效力を生ずる。
4 條約文の確定、條約に拘束されることについての國の同意の確定、條約の效力發生の態樣及び日、留保、寄託者の任務その他必然的に條約の效力發生前に生ずる問題について規律する規定は、條約文の採擇の時から適用する。
第二十五條 暫定的適用
1 條約又は條約の一部は、次の場合には、條約が效力を生ずるまでの間、暫定的に適用される。
(a) 條約に定めがある場合
(b) 交渉國が他の方法により合意した場合
2 條約又は條約の一部のいずれかの國についての暫定的適用は、條約に別段の定めがある場合及び交渉國による別段の合意がある場合を除くほか、當該いずれかの國が、條約が暫定的に適用されている關係にある他の國に對し、條約の當事國とならない意圖を通告した場合には、終了する。
第三部 條約の遵守、適用及び解釋
第一節 條約の遵守
第二十六條 「合意は守られなければならない」
效力を有するすべての條約は、當事國を拘束し、當事國は、これらの條約を誠實に履行しなければならない。
第二十七條 國内法と條約の遵守
當事國は、條約の不履行を正當化する根據として自國の國内法を援用することができない。この規則は、第四十六條の規定の適用を妨げるものではない。
第二節 條約の適用
第二十八條 條約の不遡及
條約は、別段の意圖が條約自體から明らかである場合及びこの意圖が他の方法によつて確認される場合を除くほか、條約の效力が當事國について生ずる日前に行われた行爲、同日前に生じた事實又は同日前に消滅した事態に關し、當該當事國を拘束しない。
第二十九條 條約の適用地域
條約は、別段の意圖が條約自體から明らかである場合及びこの意圖が他の方法によつて確認される場合を除くほか、各當事國をその領域全體について拘束する。
第三十條 同一の事項に關する相前後する條約の適用
1 國際連合憲章第百三條の規定が適用されることを條件として、同一の事項に關する相前後する條約の當事國の權利及び義務は、2から5までの規定により決定する。
2 條約が前の若しくは後の條約に從うものであること又は前の若しくは後の條約と兩立しないものとみなしてはならないことを規定している場合には、當該前の又は後の條約が優先する。
3 條約の當事國のすべてが後の條約の當事國となつている場合において、第五十九條の規定による條約の終了又は運用停止がされていないときは、條約は、後の條約と兩立する限度においてのみ、適用する。
4 條約の當事國のすべてが後の條約の當事國となつている場合以外の場合には、
(a) 雙方の條約の當事國である國の間においては、3の規則と同一の規則を適用する。
(b) 雙方の條約の當事國である國といずれかの條約のみの當事國である國との間においては、これらの國が共に當事國となつている條約が、これらの國の相互の權利及び義務を規律する。
5 4の規定は、第四十一條の規定の適用を妨げるものではなく、また、第六十條の規定による條約の終了又は運用停止の問題及びいずれかの國が條約により他の國に對し負つている義務に反することとなる規定を有する他の條約を締結し又は適用することから生ずる責任の問題に影響を及ぼすものではない。
第三節 條約の解釋
第三十一條 解釋に關する一般的な規則
1 條約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして與えられる用語の通常の意味に從い、誠實に解釋するものとする。
2 條約の解釋上、文脈というときは、條約文(前文及び附屬書を含む。)のほかに、次のものを含める。
(a) 條約の締結に關連してすべての當事國の間でされた條約の關係合意
(b) 條約の締結に關連して當事國の一又は二以上が作成した文書であつてこれらの當事國以外の當事國が條約の關係文書として認めたもの
3 文脈とともに、次のものを考慮する。
(a) 條約の解釋又は適用につき當事國の間で後にされた合意
(b) 條約の適用につき後に生じた慣行であつて、條約の解釋についての當事國の合意を確立するもの
(c) 當事國の間の關係において適用される國際法の關連規則
4 用語は、當事國がこれに特別の意味を與えることを意圖していたと認められる場合には、當該特別の意味を有する。
第三十二條 解釋の補足的な手段
前條の規定の適用により得られた意味を確認するため又は次の場合における意味を決定するため、解釋の補足的な手段、特に條約の準備作業及び條約の締結の際の事情に依據することができる。
(a) 前條の規定による解釋によつては意味があいまい又は不明確である場合
(b) 前條の規定による解釋により明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらされる場合
第三十三條 二以上の言語により確定がされた條約の解釋
1 條約について二以上の言語により確定がされた場合には、それぞれの言語による條約文がひとしく權威を有する。ただし、相違があるときは特定の言語による條約文によることを條約が定めている場合又はこのことについて當事國が合意する場合は、この限りでない。
2 條約文の確定に係る言語以外の言語による條約文は、條約に定めがある場合又は當事國が合意する場合にのみ、正文とみなされる。
3 條約の用語は、各正文において同一の意味を有すると推定される。
4 1の規定に從い特定の言語による條約文による場合を除くほか、各正文の比較により、第三十一條及び前條の規定を適用しても解消されない意味の相違があることが明らかとなつた場合には、條約の趣旨及び目的を考慮した上、すべての正文について最大の調和が圖られる意味を採用する。
第四節 條約と第三國
第三十四條 第三國に關する一般的な規則
條約は、第三國の義務又は權利を當該第三國の同意なしに創設することはない。
第三十五條 第三國の義務について規定している條約
いずれの第三國も、條約の當事國が條約のいずれかの規定により當該第三國に義務を課することを意圖しており、かつ、當該第三國が書面により當該義務を明示的に受け入れる場合には、當該規定に係る當該義務を負う。
第三十六條 第三國の權利について規定している條約
1 いずれの第三國も、條約の當事國が條約のいずれかの規定により當該第三國若しくは當該第三國の屬する國の集團に對し又はいずれの國に對しても權利を與えることを意圖しており、かつ、當該第三國が同意する場合には、當該規定に係る當該權利を取得する。同意しない旨の意思表示がない限り、第三國の同意は、存在するものと推定される。ただし、條約に別段の定めがある場合は、この限りでない。
2 1の規定により權利を行使する國は、當該權利の行使につき、條約に定められている條件又は條約に合致するものとして設定される條件を遵守する。
第三十七條 第三國の義務又は權利についての撤回又は變更
1 第三十五條の規定によりいずれかの第三國が義務を負つている場合には、條約の當事國及び當該第三國の同意があるときに限り、當該義務についての撤回又は變更をすることができる。ただし、條約の當事國及び當該第三國が別段の合意をしたと認められる場合は、この限りでない。
2 前條の規定によりいずれかの第三國が權利を取得している場合において、當該第三國の同意なしに當該權利についての撤回又は變更をすることができないことが意圖されていたと認められるときは、條約の當事國は、當該權利についての撤回又は變更をすることができない。
第三十八條 國際慣習となることにより第三國を拘束することとなる條約の規則
第三十四條から前條までの規定のいずれも、條約に規定されている規則が國際法の慣習的規則と認められるものとして第三國を拘束することとなることを妨げるものではない。
第四部 條約の改正及び修正
第三十九條 條約の改正に關する一般的な規則
條約は、當事國の間の合意によつて改正することができる。當該合意については、條約に別段の定めがある場合を除くほか、第二部に定める規則を適用する。
第四十條 多數國間の條約の改正
1 多數國間の條約の改正は、當該條約に別段の定めがない限り、2から5までの規定により規律する。
2 多數國間の條約をすべての當事國の間で改正するための提案は、すべての締約國に通告しなければならない。各締約國は、次のことに參加する權利を有する。
(a) 當該提案に關してとられる措置についての決定
(b) 當該條約を改正する合意の交渉及び締結
3 條約の當事國となる資格を有するいずれの國も、改正がされた條約の當事國となる資格を有する。
4 條約を改正する合意は、既に條約の當事國となつている國であつても當該合意の當事者とならないものについては、拘束しない。これらの國については、第三十條4(b)の規定を適用する。
5 條約を改正する合意が效力を生じた後に條約の當事國となる國は、別段の意圖を表明しない限り、
(a) 改正がされた條約の當事國とみなす。
(b) 條約を改正する合意に拘束されていない條約の當事國との關係においては、改正がされていない條約の當事國とみなす。
第四十一條 多數國間の條約を一部の當事國の間においてのみ修正する合意
1 多數國間の條約の二以上の當事國は、次の場合には、條約を當該二以上の當事國の間においてのみ修正する合意を締結することができる。
(a) このような修正を行うことができることを條約が規定している場合
(b) 當該二以上の當事國が行おうとする修正が條約により禁止されておらずかつ次の條件を滿たしている場合
(i) 條約に基づく他の當事國による權利の享有又は義務の履行を妨げるものでないこと。
(ii) 逸脱を認めれば條約全體の趣旨及び目的の效果的な實現と兩立しないこととなる條約の規定に關するものでないこと。
2 條約を修正する合意を締結する意圖を有する當事國は、當該合意を締結する意圖及び當該合意による修正を他の當事國に通告する。ただし、1(a)の場合において條約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
第五部 條約の無效、終了及び運用停止
第一節 總則
第四十二條 條約の有效性及び條約の效力の存續
1 條約の有效性及び條約に拘束されることについての國の同意の有效性は、この條約の適用によつてのみ否認することができる。
2 條約の終了若しくは廢棄又は條約からの當事國の脱退は、條約又はこの條約の適用によつてのみ行うことができる。條約の運用停止についても、同樣とする。
第四十三條 條約との關係を離れ國際法に基づいて課される義務
この條約又は條約の適用によりもたらされる條約の無效、終了若しくは廢棄、條約からの當事國の脱退又は條約の運用停止は、條約に規定されている義務のうち條約との關係を離れても國際法に基づいて課されるような義務についての國の履行の責務に何ら影響を及ぼすものではない。
第四十四條 條約の可分性
1 條約を廢棄し、條約から脱退し又は條約の運用を停止する當事國の權利であつて、條約に定めるもの又は第五十六條の規定に基づくものは、條約全體についてのみ行使することができる。ただし、條約に別段の定めがある場合又は當事國が別段の合意をする場合は、この限りでない。
2 條約の無效若しくは終了、條約からの脱退又は條約の運用停止の根據としてこの條約において認められるものは、3から5まで及び第六十條に定める場合を除くほか、條約全體についてのみ援用することができる。
3 2に規定する根據が特定の條項にのみ係るものであり、かつ、次の條件が滿たされる場合には、當該根據は、當該條項についてのみ援用することができる。
(a) 當該條項がその適用上條約の他の部分から分離可能なものであること。
(b) 當該條項の受諾が條約全體に拘束されることについての他の當事國の同意の不可缺の基礎を成すものでなかつたことが、條約自體から明らかであるか又は他の方法によつて確認されるかのいずれかであること。
(c) 條約の他の部分を引き續き履行することとしても不當ではないこと。
4 第四十九條及び第五十條の場合には、詐欺又は買收を根據として援用する權利を有する國は、條約全體についてこの權利を行使することができるものとし、特定の條項のみについても、3の規定に從うことを條件として、この權利を行使することができる。
5 第五十條から第五十三條までの場合には、條約の分割は、認められない。
第四十五條 條約の無效若しくは終了、條約からの脱退又は條約の運用停止の根據を援用する權利の喪失
いずれの國も、次條から第五十條までのいずれか、第六十條又は第六十二條の規定に基づき條約を無效にし若しくは終了させ、條約から脱退し又は條約の連用を停止する根據となるような事實が存在することを了知した上で次のことを行つた場合には、當該根據を援用することができない。
(a)條約が有效であること、條約が引き續き效力を有すること又は條約が引き續き運用されることについての明示的な同意
(b) 條約の有效性、條約の效力の存續又は條約の運用の繼續を黙認したとみなされるような行爲
第二節 條約の無效
第四十六條 條約を締結する權能に關する國内法の規定
1 いずれの國も、條約に拘束されることについての同意が條約を締結する權能に關する國内法の規定に違反して表明されたという事實を、當該同意を無效にする根據として援用する要性を有する國内法の規則に係るものである場合は、この限りでない。
2 違反は、條約の締結に關し通常の慣行に從いかつ誠實に行動するいずれの國にとつても客觀的に明らかであるような場合には、明白であるとされる。
第四十七條 國の同意を表明する權限に對する特別の制限
特定の條約に拘束されることについての國の同意を表明する代表者の權限が特別の制限を付して與えられている場合に代表者が當該制限に從わなかつたという事實は、當該制限が代表者による同意の表明に先立つて他の交渉國に通告されていない限り、代表者によつて表明された同意を無效にする根據として援用することができない。
第四十八條 錯誤
1 いずれの國も、條約についての錯誤が、條約の締結の時に存在すると自國が考えていた事實又は事態であつて條約に拘束されることについての自國の同意の不可缺の基礎を成していた事實又は事態に係る錯誤である場合には、當該錯誤を條約に拘束されることについての自國の同意を無效にする根據として援用することができる。
2 1の規定は、國が自らの行爲を通じて當該錯誤の發生に寄與した場合又は國が何らかの錯誤の發生の可能性を豫見することができる状況に置かれていた場合には、適用しない。
3 條約文の字句のみに係る錯誤は、條約の有效性に影響を及ぼすものではない。このような錯誤については、第七十九條の規定を適用する。
第四十九條 詐欺
いずれの國も、他の交渉國の詐欺行爲によつて條約を締結することとなつた場合には、當該詐欺を條約に拘束されることについての自國の同意を無效にする根據として援用することができる。
第五十條 國の代表者の買收
いずれの國も、條約に拘束されることについての自國の同意が、他の交渉國が直接又は間接に自國の代表者を買收した結果表明されることとなつた場合には、その買收を條約に拘束されることについての自國の同意を無效にする根據として援用することができる。
第五十一條 國の代表者に對する強制
條約に拘束されることについての國の同意の表明は、當該國の代表者に對する行爲又は脅迫による強制の結果行われたものである場合には、いかなる法的效果も有しない。
第五十二條 武力による威嚇又は武力の行使による國に對する強制
國際連合憲章に規定する國際法の諸原則に違反する武力による威嚇又は武力の行使の結果締結された條約は、無效である。
第五十三條 一般國際法の強行規範に抵觸する條約
締結の時に一般國際法の強行規範に抵觸する條約は、無效である。この條約の適用上、一般國際法の強行規範とは、いかなる逸脱も許されない規範として、また、後に成立する同一の性質を有する一般國際法の規範によつてのみ變更することのできる規範として、國により構成されている國際社會全體が受け入れ、かつ、認める規範をいう。
第七部 寄託者、通告、訂正及び登錄
第七十六條 條約の寄託者
1 交渉國は、條約において又は他の方法により條約の寄託者を指定することができる。寄託者は、國(その數を問わない。)、國際機關又は國際機關の主たる行政官のいずれであるかを問わない。
2 條約の寄託者の任務は、國際的な性質を有するものとし、寄託者は、任務の遂行に當たり公平に行動する義務を負う。特に、この義務は、條約が一部の當事國の間においては效力を生じていないという事實又は寄託者の任務の遂行に關しいずれかの國と寄託者との間に意見の相違があるという事實によつて影響を受けることがあつてはならない。
第七十七條 寄託者の任務
1 寄託者は、條約に別段の定めがある場合及び締約國が別段の合意をする場合を除くほか、特に次の任務を有する。
(a) 條約の原本及び寄託者に引き渡された全權委任状を保管すること。
(b) 條約の原本の認證謄本及び條約の要求する他の言語による條約文を作成し、これらを當事國及び當事國となる資格を有する國に送付すること。
(c) 條約への署名を受け付けること竝びに條約に關連する文書、通告及び通報を受領しかつ保管すること。
(d) 條約への署名又は條約に關連する文書、通告若しくは通報が正式な手續によるものであるかないかを檢討し、必要な場合には關係國の注意を喚起すること。
(e) 條約に關連する行爲、通告及び通報を當事國及び當事國となる資格を有する國に通知すること。
(f) 條約の效力發生に必要な數の署名、批准書、受諾書、承認書又は加入書の受付又は寄託の日を當事國となる資格を有する國に通知すること。
(g) 國際連合事務局に條約を登錄すること。
(h) この條約の他の規定に定める任務を遂行すること。
2 寄託者の任務の遂行に關しいずれかの國と寄託者との間に意見の相違がある場合には、寄託者は、この場合の問題につき、署名國及び締約國又は適當なときは關係國際機關の權限のある内部機關の注意を喚起する。
第七十八條 通告及び通報
條約又はこの條約に別段の定めがある場合を除くほか、條約に基づいていずれの國の行う通告又は通報も、
(a) 寄託者がない場合には通告又は通報があてられている國に直接送付し、寄託者がある場合には寄託者に送付する。
(b) 通告又は通報のあてられている國が受領した時又は場合により寄託者が受領した時に行われたものとみなす。
(c) 寄託者に送付される場合には、通告又は通報のあてられている國が前條1(e)の規定による寄託者からの通知を受けた時に當該國によつて受領されたものとみなす。
第七十九條 條約文又は認證謄本における誤りの訂正
1 條約文の確定の後に署名國及び締約國が條約文に誤りがあると一致して認めた場合には、誤りは、これらの國が別段の訂正方法を決定しない限り、次のいずれかの方法によつて訂正する。
(a) 條約文について適當な訂正を行い、正當な權限を有する代表者がこれにつき假署名すること。
(b) 合意された訂正を記載した文書を作成し又は交換すること。
(c) 訂正濟みの條約文全體を原本の作成手續と同一の手續によつて作成すること。
2 寄託者のある條約の場合には、寄託者は、誤り及び誤りを訂正する提案を署名國及び締約國に通告し、かつ、これらの國が提案された訂正に對して異議を申し立てることができる適當な期限を定めるものとし、
(a) 定められた期限内に異議が申し立てられなかつたときは、條約文の訂正を行い、これにつき假署名するとともに訂正の調書を作成し、その寫しを當事國及び當事國となる資格を有する國に送付する。
(b) 定められた期限内に異議が申し立てられたときは、これを署名國及び締約國に通報する。
3 1及び2に定める規則は、條約文が二以上の言語により確定されている場合において、これらの言語による條約文が符合していないことが明らかにされかつ署名國及び締約國がこれらを符合させるよう訂正することを合意するときにも、適用する。
4 訂正された條約文は、署名國及び締約國が別段の決定をしない限り、誤りがあつた條約文に當初から代わる。
5 登錄された條約の條約文の訂正は、國際連合事務局に通告する。
6 條約の認證謄本に誤りが發見された場合には、寄託者は、訂正の調書を作成し、その寫しを署名國及び締約國に送付する。
第八十條 條約の登錄及び公表
1 條約は、效力發生の後、登錄又は記錄のため及び公表のため國際連合事務局に送付する。
2 寄託者が指定された場合には、寄託者は、1の規定による行爲を遂行する權限を與えられたものとする。
第八部 最終規定
第八十一條 署名
この條約は、千九百六十九年十一月三十日まではオーストリア共和國連邦外務省において、その後千九百七十年四月三十日まではニュー・ヨークにある國際連合本部において、國際連合、いずれかの專門機關又は國際原子力機關のすべての加盟國、國際司法裁判所規程の當事國及びこの條約の當事國となるよう國際連合總會が招請したその他の國による署名のために開放しておく。
第八十二條 批准
この條約は、批准されなければならない。批准書は、國際連合事務總長に寄託する。
第八十三條 加入
この條約は、第八十一條に定める種類のいずれかに屬する國による加入のために開放しておく。加入書は、國際連合事務總長に寄託する。
第八十四條 效力發生
1 この條約は、三十五番目の批准書又は加入書が寄託された日の後三十日目の日に效力を生ずる。
2 三十五番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの條約を批准し又はこれに加入する國については、この條約は、その批准書又は加入書の寄託の後三十日目の日に效力を生ずる。
第八十五條 正文
中國語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの條約の原本は、國際連合事務總長に寄託する。
以上の證據として、王名の全權委員は、それぞれの政府から正當に委任を受けてこの條約に署名した。
(以下省略)
